NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「リオ五輪から東京2020へ」(時論公論) 

刈屋 富士雄  解説委員

歴史的なメダルが連日誕生しました。寝不足になりながらもスポーツの持つ魅力に心揺さぶられた方も多かったと思います。閉幕したばかりのリオデジャネイロオリンピックを、二つの視点で振り返ってみたいと思います。

j160822_00mado.jpg

j160822_01.jpg

前半は、日本選手団の総括、そして後半は、4年後の東京大会に向けて、リオデジャネイロ大会が問いかけたものを考えます。

j160822_02.jpg

日本選手団の大会前のメダルの目標は、金メダル14個、メダル総数30個以上でした。金メダルの数は届きませんでしたが、メダル総数は目標を大きく上回り過去最多となりました。しかも歴史的なメダルが数多くありました。
感動の大きさや、メダルの総数から4年後の東京大会に向けて着実に歩みを続けているかのように感じますが、ロンドン大会の時と冷静にその内容を比べてみますと、金は増えましたが銀は減り、銅が増えています。そしてここが大きなポイントですが、ロンドンの時は、全競技26競技のうち、半分にあたる13競技でメダルを取りました。しかし今回は、2競技増えて28競技のうち、10競技に留まっています。
ロンドン大会では、日本のスポーツ界の層の広がりと厚さ、底上げに成功しつつある成果と評価する声も上がりました。その4年後の今回、メダル数は増えたにもかかわらず、メダルを獲得した競技数が減っていることを考えると、2020年に向け、ロンドン大会をホップ、リオ大会をステップにしたかったところですが、印象としては、またホップという感じです。
注目したい点は、ロンドン大会から4年たった今回表れた傾向、競技団体の二極化です。ロンドン大会からしっかりとつながっている競技団体と、つながっていない競技団体が分かれてしまいつつあるという点です。

j160822_03.jpg

ロンドン大会に引き続いてメダルを確保した競技のうち、競技団体が組織としてロンドン大会からつながっている印象を受けたのは、水泳、体操、レスリング、バドミントン、卓球、そして柔道です。
つながらなかった競技は、前回メダルを取ったアーチェリー、フェンシング、ボクシング、バレーはメダル争いには加われず、女子サッカーは出場もできませんでした。
今回のメダル量産の最大の要因は、柔道の復活です。
ロンドンでは、国際化の流れについていけず惨敗した日本柔道が、わずか4年で復活への階段を上る姿を見せました。

j160822_04.jpg

その復活のポイントは、(1)国際化への対応(2)ルール改正への適応(3)代表選考のオープン化などです。
国際化への対応というのは、世界の柔道は、各国に伝わる様々な格闘技の要素を取り入れ進化していたうえに、ポイントを重視していた流れができていました。この流れを選手に体感させ、国際大会で強かった選手を選考し、その選考会議をマスコミに公開して、改革の決意を見せました。組み手を重視するルール改正も追い風になりました。

j160822_05.jpg

又、水泳と体操の大きな特徴は、代表選考基準が明確な点です。夢への道筋がはっきり示されていますので、全国どこからも挑戦できます。その結果、年齢の幅が広がり、10代から20代30代と層が厚くなっています。
バドミントンや卓球は、テニスの錦織選手も含めると、ラケット競技ですべてメダルを確保しました。これは、技術、俊敏性、戦術などの要素の強いスポーツは日本人に向いていることを証明しました。その流れでいえば、陸上男子の400メートルリレーも、バトンパスという技術を磨いたことで9秒台を並べた強豪チームを相手に見事な銀メダルを獲得しました。そしてレスリング、特に女子レスリングは、世界に先駆けて強化を進め、階級変更にいち早く対応しました。又吉田沙保里選手に憧れる若手が、吉田選手の練習を見て育つなど層が厚くなってきました。今回4連覇はのがしましたが、吉田選手の果たしてきた功績は計りしれません。
さて、一方前回ロンドン大会でメダルを取りながら、連続してのメダルをのがしたり、なかなかメダル争いに加われない競技団体は、この4年間で、あまり競技環境を変えることができなかったともいえます。競技団体をあげての次世代の育成強化が進みませんでした。これは単に競技団体のみの責任ではありません。日本のスポーツ界全体が取り組むべき最大の課題です。この課題に取り組むことなしに、メダルの数だけ増やそうとしても、その後何も残らないということになってしまいます。
2020年までに取り組む大きなポイント二つあげたいと思います。
 
j160822_06.jpg

トップ選手の待遇改善と競技の環境づくりです。つまり頂点を引き上げ裾野も広げることです。
頂点が高くないと裾野は広がりません。ボルト選手やフェルプス選手のような数億円の年収をとは言いませんが、トップ選手が競技に専念出来、引退後のセカンドキャリアも選択の道が複数あるような環境が必要です。
2020年に向けて、プロなのか会社員なのか立場の分からない選手や、競技に専念出来ない選手が続出してきそうですので、競技団体が責任を持って管理していく体制づくりが必要です。
もう一つの競技の環境づくりですが、いろんな競技が楽しめる施設を全国に広げる必要がありますし、実は今が大きなチャンスです。スポーツ庁は、スポーツ産業戦略の中で、スタジアム・アリーナ改革をあげています。全国の体育館や競技場を、多機能型に転換し収益性のある施設へと生まれ変わらせるというものです。各競技団体はスポーツ庁と連携を図り競技施設の普及、それに伴うスポーツクラブ化を目指してほしいと思います。
更にナショナルトレーニングセンターの登場で、トップ選手の強化が進みましたが、次世代の選手の育成のためにナショナルトレーニングセンターの数を増やし、地方に増設することも、トップクラスの選手層を厚くすると同時に、将来にスポーツ文化の財産として残すためにも、検討する価値はあると思います。2020年以降に何を残せるかが、2020年に取るメダルの数よりも大切だと思います。

j160822_07.jpg

さて、ここからは、「リオデジャネイロオリンピックが、問いかけたもの」について考えます。その問いかけは、何のためにオリンピックを開くのかということです。
今回リオデジャネイロから伝えられた競技以外のニュースは、マイナスのイメージばかりです。経済不況。続出する強盗被害。空席の目立つ会場・・・。
ロンドンオリンピックの後のアンケートで75%の人が、イギリスを訪ねてみたいと答えていますが、果たして今、リオデジャネイロを訪ねてみたいと答える人はどれくらいいるでしょうか。
ブラジルでオリンピックを開催したメリットとして、今のところ明言できるのは、男子サッカーで悲願の金メダルを取ったことです。この金メダルが、リオ大会唯一の成果としてブラジル国民に語り継がれることになってしまうかもしれません。
何のためにオリンピックを開くのか。国際的にはオリンピック精神の普及ですので、南米初の大会はそれだけで意味はあります。
しかし開催国のメリットは何でしょうか。1984年商業主義を導入したロサンゼルス大会以降言われてきた主なメリットは次の5点です。

①    国際的な存在感
②    経済効果
③    都市開発・街づくり
④    スポーツ文化の定着
⑤    国民を元気に
です。
ロンドンは、都市開発費も含めておよそ3兆円を投入しましたが、この5点をすべて満たしていたとして、市民からも大きな批判の声は、おきませんでした。開催費用に見合った成果。東京も、何にいくら使うのか、改めて明確にする必要がありそうです。
この5つのポイントで、今回のリオデジャネイロが満たしている点は、今は、なかなか明言できないのが残念です。
今回のリオデジャネイロ大会を見て、今後オリンピックを開催したいという都市は減ってしまうかもしれません。
その点でも、今回はオリンピックの歴史の中で、曲がり角の大会と位置付けられそうです。そして、その曲がり角の先に東京があります。
東京は、オリンピックを招致する際、大震災からの復興した姿と平和、そして人類の未来を見せると約束しました。
オリンピックを開催することの意味を国内外に発信し、オリンピックの未来の形を示せるか。東京は、東京の未来と同時に、オリンピックの未来という大きな荷物を背負いました。

(刈屋 富士雄 解説委員)

キーワード

関連記事