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時論公論

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「障害者施設殺人事件の衝撃」(時論公論)

清永 聡  解説委員

26日未明、神奈川県相模原市の障害者施設に刃物を持った男が侵入し、19人が死亡する事件が起きました。日本の犯罪史上まれにみる被害の大きさです。
この事件で今後解明が求められるポイントと、事件が引き起こした影響を考えます。

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【現場の様子は】
私は26日の朝、事件が起きた現場で取材をしてきました。そこで地元の人たちが話してくれたのは、この障害者施設が長い間、地域とつながっているということでした。
地元の夏祭りに施設の人たちを呼んだり、逆に施設で催しが開かれる時には地元の人が招かれたりと、長く交流が続いているということです。また、かつて施設で働いていたという人もいました。
それだけに、事件は地元の人たちにとっても、深刻に受け止められています。住民の1人は「なじみのある施設だっただけにショックだ」と話していました。

【今回の事件は】
 
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事件は、26日未明に起きました。相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」に刃物を持った男が侵入し、入所者などが次々と刺されました。
これまでに19人が死亡し、26人がけがをしているということです。
施設に入っているのは、全員が知的障害者で、身体の不自由な人もいました。
地元の人の話ではほとんど体を動かすことができない人もいたということです。今回の事件は、抵抗できない障害者を次々と殺害した、卑劣で残忍な犯行です。

【戦後まれに見る凶悪事件】
一度に多くの命が奪われる殺人事件は、過去にもたびたび起きています。

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平成7年にはオウム真理教が引き起こした地下鉄サリン事件があります。この事件では13人が殺害されました。
また、平成13年には大阪・池田市の大阪教育大学附属池田小学校に刃物を持った男が侵入し、8人の児童を殺害しました。
平成20年には東京・秋葉原の繁華街に男がトラックで突っ込み、通行人をはねたり、ナイフで刺したりして7人を殺害しています。
しかし、犠牲者の数が19人に上る今回の事件は、これらを上回っています。戦後まれに見る凶悪事件です。

【容疑者の素顔と経緯】
容疑者はどのような男なのでしょうか。

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逮捕されたのは、近くに住む施設の元職員、植松 聖容疑者、26歳です。
包丁とナイフ合わせて3本を施設に持ち込んでいたほか、結束バンドも準備して、職員をしばっていた疑いがあり、事件は周到に計画していたことがうかがえます。

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神奈川県によりますと、容疑者は大学卒業後、運輸関係の仕事などをしていましたが、平成24年12月から事件のあった施設で勤務をしていました。
しかし、今年の2月14日には、東京・千代田区にある衆議院議長の公邸を訪れ、「障害者が安楽死できる世界を望む」という内容の手紙を、警備にあたっていた警察官に渡していました。
この手紙には施設を名指しして標的にすると書いた上で、「職員は結束バンドで身動き、外部との連絡を取れなくします」などと今回の手口が具体的に書かれていました。

相模原市によりますとその後、警察から「他人を傷つける恐れがある」と連絡があり、2月19日に強制的に入院させる「措置入院」の対応を取りました。容疑者は同じ日に施設を退職しています。
さらに、入院翌日の2月20日には、大麻の陽性反応が出たということです。「大麻精神病」や「妄想性障害」などと診断されました。
しかし、入院から12日後の3月2日には医師の診断の結果、症状が治まったとして退院していたということです。
これ以降の容疑者の詳しい行動は、まだわかっていません。事件までの4ヶ月あまりの間に、何があったのでしょうか。
相模原市によりますと、退院してからは警察をはじめ、家族や近所の人などからの相談や苦情はなかったということです。
しかし、退院させた対応は、妥当だったのでしょうか。市は「現時点では問題はなかったし、それ以外の判断もできなかったと思う」としていますが、「今後については検証していきたい」と話しています。

【事件の動機は】

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さらに、容疑者は逮捕されたときにも「障害者がいなくなればいいと思った」という趣旨の話をしています。
警察官に渡したという手紙の内容や今回の供述から、弱い立場の障害者を差別し、極めて強い憎しみを抱いていたと推測されます。こうした感情を抱くようになった理由は何だったのでしょうか。
弱い立場の人を標的にして、多くの命が失われる事件は、国内だけでなく、世界的にも相次いでいます。
事件を未然に防ぐことはできなかったのか、そして動機は何だったのか。今後の解明が求められます。

【施設の安全管理について】
もう一つ、重要な点は施設の安全管理です。

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神奈川県の説明によると、入所している人たちが生活している居住棟は2階建てで、「東棟」と「西棟」の2つがあり、容疑者は「東棟」の1階の窓ガラスを割って侵入したとみられています。
しかし、外部からの侵入者を察知して自動的に警備会社に知らせたり、警報が鳴って施設全体に知らせたりするシステムはありませんでした。
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実は、厚生労働省は、障害者施設で今回のように外部からの侵入者が危害を加える事件を想定して入所者の安全を守る対策は、講じてきませんでした。警報システムの設置を含めて、警備をどこまで強化するかは、それぞれの施設の判断に任せているのが現状です。
国は、むしろ入所者が地域の人たちと交流する「地域に開かれた施設づくり」を進めていました。実際に今回の事件が起きた施設では、地域との交流は盛んに行われていました。
平成13年に大阪の池田小学校の事件を受けて、学校だけでなく、保育所などの児童福祉施設についても安全管理の強化が図られました。
今後、厚生労働省は、同じような弱い立場の人たちがいる、障害者施設についても、安全を確保できるよう事件の再発防止策を真剣に検討すべきです。
また、事件当時、施設には、8人の職員と警備員のあわせて9人の職員がいたといいます。
特に夜間、障害者施設は職員が手薄な中で、入所者の対応などに懸命だと思います。しかし、今回は多くの命が失われただけに、当時の体制や事件への対応を検証し、施設側も対策をどうすれば強化できるか、考えていかなければならないと思います。

【事件の解明を急げ】
今後の捜査では、なぜこのような事件が引き起こされたのか。事件に至るまでの状況がどこまで明らかになるかがポイントです。
また、施設の安全対策も求められます。
今回けがをした人たちへの治療は、今も続けられています。
一日も早い回復を願うとともに、悲惨な事件を繰り返さないためにも、まずは徹底した事件の解明を求めたいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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