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「2016参院選 何が問われているか?」(時論公論)    

太田 真嗣  解説委員

参議院選挙が公示され、来月10日の投票に向けて本格的な選挙戦に入りました。今回の選挙は、与野党が真正面から激突する構図となっているほか、18歳・19歳の若者が新たに参加する歴史的な選挙です。そこで、国民の政治参加、特に若い人達の参加を促すため、政治、そして、私たち主権者は、この選挙にどう向き合っていくべきかを考えます。

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今回の参議院選挙には、選挙区と比例代表、あわせて389人が立候補しました。最大の特徴は、民進党や共産党など野党4党が、自民・公明の与党に対抗するため、全国に32ある「1人区」すべてで候補者を一本化したことです。その結果、候補者の数は、前回より44人減り、与野党が真正面から激突する「少数激戦」の形となっています。

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しかし、各党の選挙関係者などの話を聞きますと、これまでのところ有権者の盛り上がりは、いまひとつといった感じです。
実際、最新のNHKの世論調査でも、「選挙に関心がある」と答えた人は73%と、3年前の選挙の同じ時期と比べ3ポイント下回っています。なぜ、盛り上がっていないのか。最大の理由は、今回の選挙の争点とされるテーマが、与野党で『すれ違っている』からです。

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安倍総理大臣は、今回の選挙を、「アベノミスクを加速させるのか、それとも後戻りするのかを国民に問う選挙だ」としています。そして、自民・公明の与党で、『改選議席の過半数』、つまり61議席の獲得を目指しています。両党の改選議席はあわせて59。いまより2議席の上積みが必要です。
対する民進党の岡田代表は、「安倍政権のもとでの憲法改正は認められない」として、今回の選挙で、「憲法改正を目指す勢力が、参議院で3分の2を確保するのを阻止するのが最大の目標だ」としています。民進・共産・社民・生活の4党の改選議席は54ですが、改憲勢力の3分の2を阻止するためのラインは、無所属もあわせ、44議席以上です。

なぜ、このように与野党でテーマが違うのか。
そこには、高い内閣支持率を背景に、アベノミクスという経済政策への信任を得たいとする与党側と、憲法や安全保障政策など、国民の間で意見が二分する問題に焦点を充てたいとする野党側の思惑の違いが色濃く反映されています。さらに、控えめの目標設定には、選挙後に責任問題が浮上するのを避けたいという政治の側の思いもチラついています。
ただ、これですと、計算上、与野党が共に、「目標を達成した」と勝どきを挙げることもありえ、その分かりにくさが、今回の選挙が盛り上がりをいている要因のひとつとも言えそうです。

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加えて、具体的な政策の中身も、「有権者には、違いがよくわからない」という指摘もあります。例えば、焦点のひとつ、経済政策・アベノミクスの是非に対する各党の主張は、▼成長戦略に重点を置くもの、あるいは、▼より個人の豊かさに着目したものなど様々です。しかし、このうち、自民、民進両党のキャッチフレーズを見ると、▼自民党は「成長と分配の好循環」、▼民進党は、「分配と成長の両立」です。
もちろん、両者には、一方は、「安定した成長を得ることで、初めて確実な分配が行える」、もう一方は、「富を分配し、格差を解消することが真の成長につがる」という、根本的なスタンスの違いがあります。まさに、そこがポイントですが、投票日までに有権者にどこまで伝わるか、正直、首を傾げざるをえません。

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一方、憲法改正をめぐる議論も平行線が続いています。民進党など野党4党は、「安倍政権の狙いが憲法改正にあるのは明らかで、総理が、具体的に憲法改正について言及しないのは争点隠しだ」と批判しています。これに対し、安倍総理は、「憲法改正案は、今後、国会での議論の中で収斂させていくもので、まだ何を改正するか決まっていない以上、選挙の争点にはならない」と反論しています。憲法改正の是非は、最後は、国民投票で決まります。ただ、政治が入口の議論に終始しているままでは、国民の理解は一向に深まりません。

選挙戦は、これからが本番ですが、いままでのところ、選挙戦術を意識した与野党の思惑の違い、あるいは、“意図的”な、“すれ違い”が、今回の選挙の位置付けを曖昧にし、争点を見えにくくしている感は否めません。いずれの問題も、この国の現在と将来を大きく左右するものだけに、対立軸をより明確にし、有権者に、きちんと選択肢を示すのが政治の責任です。

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さて、そうした中、今回の選挙のもう一つの注目点は、選挙権年齢が『18歳以上』に引き下げられ、新たにおよそ240万人の若者が政治に参加することです。有権者全体に対する割合は約2%と多くはありませんが、各党とも、次世代を担う若者にアピールしようと様々な取り組みを行っています。

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一方、新たな若者の参加は、更なる投票率の低下を招くのではないかと心配する声もあります。総務省の調べによりますと、前回の選挙の投票率は52点61%でしたが、20歳代の若者の投票率は全体より20ポイント近く低く、3人に1人しか投票していません。

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では、実際、若者たちは、どう考えているのでしょうか。
NHKが去年、18歳と19歳の若者を対象に行った世論調査では、半数近くが、「投票することに戸惑いや不安がある」と答えています。理由は、「政治について、よくわからないから」が最も多く、次いで、「どの政党や候補者に投票すべきかわからない」などとなっています。

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この調査で私が注目したのは、半数を超える若者が、「政治のことがよくわからない者は投票しない方がいい」と答えていることです。そこからは、政治を真面目に考え、自らの権利を行使する責任の重さを受け止めている若者の姿も浮かびあがってきます。しかし、厳しい見方をすれば、それは、「分からなければ、他の人に任せればよい」という主権者としての『甘え』ととることもできます。    

いま、各地で、若者の政治参加を促すための様々な取り組みが行われています。ただ、「習うより、慣れろ」という言葉もあるように、実際に選挙を体験することが、何よりの教材、経験となるのは間違いありません。それは、同時に、『この選挙にどう向き合うのか』、私たち大人の姿が、若者から厳しく見られるということでもあります。どこに投票するかを悩むのは大人も同じですが、そこで、どう考え、どう行動するのか、その背中を見せることが何よりのメッセージになるのではないでしょうか。

いまだ、政治不信、あるいは、政治家の資質が問われる事例が後を絶ちません。政治家を厳しく監視する一方、「一国の政治は、その国民を映し出す鏡にすぎない」という有名な言葉があることも忘れてはなりません。
選挙という重要な機会を活かすには、まず、各党・候補者が、しっかりとした選択肢を示す責任があるのは当然です。その上で、私たち国民も主権者として、きちんと責任を果たす。新たに若者が参加する今回の参議院選挙は、いつにも増して、そのことが問われているように思います。

(太田 真嗣 解説委員)

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