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時論公論

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「深刻化する難民危機 世界と日本の役割」(時論公論) 

二村 伸  解説委員

6530万人。20日に発表された世界の難民・国内避難民の数です。イギリスやフランスの人口とほぼ同じ数の人々が、迫害や紛争によって家を追われ保護を求めているのです。難民問題は先のG7・伊勢志摩サミットでも、国際社会全体で取り組むべき課題とされました。
しかし、難民と国内避難民は今も増え続け、過去最悪の状況に陥っています。とくにシリアでは国内にとどまっている避難民の状況が悪化しています。未曾有の危機と言われたヨーロッパへの難民流入も依然続いたままです。いかに難民危機を解消するか、日本をはじめ国際社会の役割を考えます。

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【世界の難民 過去最悪に】
まず、「世界難民の日」の20日に、UNHCR・国連難民高等弁務官事務所が発表した最新のデータです。

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迫害や紛争によって家を追われた人は、去年末時点で6530万人。1年で580万人増え、統計を取り始めてから最悪の数字となりました。このうち、国外に逃れた人、つまり難民は2130万人、国内にとどまり保護を求めている、国内避難民は、初めて4千万人を超えました。去年は1分間に24人が家を追われ、難民や国内避難民になった計算です。
難民は3年間で40%も増えました。その原因はシリア難民が急増したことや、世界各地の紛争やテロがおさまらず、祖国に戻ることができない人が多いためです。イスラエル建国により故郷を追われたパレスチナ難民を除くと最も多いのがシリア難民の490万人。次いでアフガニスタンの270万人、ソマリアの110万人となっています。

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シリアでは、戦闘により国連やNGOによる援助物資が届けられない地域も少なくありません。政府と反体制派の停戦合意後も戦火はやまず、今月8日には北部のアレッポで3つの病院が空爆の被害を受け、子どもを含む市民15人が犠牲になりました。国内にとどまっている避難民は660万人、子どもやお年寄りを含む多数の市民が国外に逃げたくても逃げられず危険な毎日を送っています。

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運よく国外に逃れることができても難民たちには過酷な生活が待っています。シリア周辺では、去年末時点でトルコに250万人、レバノンに110万人、ヨルダンに66万人の難民が滞在していますが、その8割以上がキャンプではなく都市や農村で生活し、倉庫や公園などのテントで寝泊まりしている人も少なくありません。そこでは仕事を見つけるのは容易でなく子どもの半数は学校に行けません。このためヨーロッパに向かう難民が去年殺到しました。

【依然続く欧州への難民流入】
では、ヨーロッパへの難民の流入はおさまったのか見てみましょう。ことし3月、EUとトルコは、トルコからギリシャに不法入国した人をトルコに強制送還することなどで合意し、それ以降ギリシャに到着する難民は大幅に減り、多い月で20万人をこえたのが、先月は1700人にとどまりました。

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ところが、今度は、エジプトやリビアから地中海を渡ってイタリアに入る難民や移民が急増し、先月は2万人近くにまでなりました。

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リビアからの密航者が増えたのは、リビア国内が分裂状態にあるため、国境の出入国管理が緩く、密航業者の取り締まりが十分できないためです。しかし、このルートはトルコ・ギリシャ間と比べて距離が長く危険なため事故が相次いでいます。4月には政情不安やテロが続くアフリカの難民や移民を乗せた密航船がリビア沖で沈没し500人が死亡する痛ましい事故も起きました。今年に入って地中海を渡る途中で命を落とした人は2868人に上り、去年1年間の犠牲者を大幅に上回るペースです。このうち2000人以上がリビアからイタリアに向かう途中でした。

【難民危機をどう解消するか】
では、難民危機を解消するためには何が必要でしょうか。

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G7伊勢志摩サミットでは、「世界的な対応をとる必要がある地球規模の問題」であると首脳宣言に明記されました。しかし、収束の見通しは立っていません。

これ以上難民を出さないためには、紛争を1日も早く終結させることが何よりも重要ですが、シリアでは、内戦に加えてアサド政権を支援するロシアとイラン、反体制派を支援する欧米やサウジアラビア、トルコなどが介入して代理戦争の様相を帯び、停戦もおぼつかない状態です。国民の半数が住む家を追われ危険にさらされている状況をこれ以上放置してはなりません。米ロをはじめ各国は自国の利益にばかり目を向けず、人命を最優先すべきであり、今はまず国内の避難民をいかに守るかが喫緊の課題です。

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難民の安全確保のためには地中海を渡る危険な密航を防ぐことも必要です。それには海上での取り締まりの強化が不可欠です。難民認定審査の迅速化も求められます。さらに新たな紛争の予防と過激派組織壊滅のために、中東やアフリカの開発支援にもっと力を入れることも重要です。

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一方、難民を受け入れる側の責任の分担も求められています。トルコやレバノンなどは、経済的にも政治的にも受け入れの負担が重く、限界に近い状態です。ヨーロッパでも難民が最初に到着するギリシャやイタリアが対応に苦慮していますが、難民や移民の排斥を掲げる極右勢力の台頭や民族主義の高まりにより、受け入れを拒む国も少なくありません。

EUは去年、イタリアやギリシャの難民16万人を各国が人口に応じて分担して受け入れることを決めましたが、実際に移動したのは2000人以下です。シリアをはじめ中東やアフリカと地理的にも歴史的にも関係が深いヨーロッパは大きな責任と義務を負っています。

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では日本の難民支援はどうなっているでしょうか。日本政府は、従来の財政支援や人道支援に加えて、5年間で最大150人のシリア人の若者を留学生として受け入れることを発表しました。難民に閉鎖的と言われてきた日本にとって一時的な受け入れとはいえ大きな一歩です。ただ、それで終わりにしてはならないといった声が聞かれます。

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シリアの紛争が始まって以来、日本で難民認定を申請したシリア人はこれまでに63人、うち難民として認定された人はわずか6人です。ドイツは11万人以上、スウェーデンも5万人をこえ、桁が4つも5つも違います。
留学生の受け入れでもドイツやフランスでは、大学や研究機関、自治体ごとに数人から数十人、中には100人規模で受け入れるところもあります。

一方、日本でも民間レベルで受け入れの動きが見られ始めています。NPOが中心となってシリアの若者を日本語学校で無償で受け入れる方向で調整が進められています。教育の機会を奪われた若者たちを失われた世代にしないためにも教育の支援は重要であり、復興を担う人材は、将来日本との架け橋になる可能性もあります。
また、国際社会の注目がシリアに集まる中、アジアでもアフガニスタンやミャンマーなどから多数の住民が避難を余儀なくされています。難民は遠い国の問題ではなく、日本にとっても身近な存在です。国際機関や政府にまかせきりにするのではなく、教育現場や企業、地方自治体などがそれぞれ何ができるか館mが絵、行動することが、日本への信頼を高める結果につながると思います。

(二村 伸 解説委員)

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