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「その名はニホニウム 日本生まれの元素の意義」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

「元素の周期表に日本生まれの名を書き込む」という日本の100年来の夢が実現。
理化学研究所のチームが作ることに成功した113番元素。
名前は「ニホニウム」、国際機関が案を公表。年内にも正式に決まる見込み。
新元素の合成は極めて難しく、欧米の独占だったところに日本がようやく風穴を開けた。
(1)どんな思いが込められているか。
(2)発見にはどんな工夫が。
(3)新元素を追い求める理由。
今夜の時論公論は、新元素ニホニウムの意義について水野倫之解説委員。
 
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元素は、発見したチームに命名権、慣習として神話や天体、研究者の名前、などに由来することがふさわしい。113番元素を発見した理化学研究所のチームの代表で九州大学の森田浩介教授はきょうの記者会見で、命名に当たって「日本」にこだわったと。
「我々の研究が国民の皆さんに支えられていることを名前にあらわしたく、日本と言うことばを使いたかった」
 
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チームが日本にこだわった理由を、元素の周期表で見る。
最も軽い1番の水素から規則性をもって並ぶ。95番以降のより重い元素は人間が人工的に作り出したもの。
発見した国は欧米とロシア。
今回ここに初めて日本が風穴を開けたので、日本にちなんだ名前というのは自然な流れ。

そしてもう一点、森田教授が語ったのは先駆者への思い。
 
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20世紀初め、のちに東北帝国大学の総長も務める小川正孝博士は、鉱物の中から新元素を見つけ、43番元素だとする論文を発表。「ニッポニウム」と命名。しかしその後疑問が生じ、周期表から消える。
また理研の理事長も務めた仁科芳雄博士も戦前、ウランをもとに93番元素の発見を目指すも、最終確認できず。
当時日本は分析技術や装置が十分ではなく、欧米のグループに先を越されてしまう苦い経験をした。
しかしその後日本は技術を着々と身につけ、今回ニッポニウム以来100年越しの夢を実現させたわけで、チームが日本にこだわった理由がここにもあった。

ではニホニウムの快挙はどう成し遂げられたか。
 
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元素の番号は含まれる陽子の数。113番元素を作るには足して113になる元素同士を核融合させればよく、チームは30番の亜鉛を83番のビスマスにぶつける方法。
決め手となったのは、ほどよい速度と、高精度の検出装置の開発。
この実験装置に亜鉛を取り付けて原子核を打ち出し円盤に入れたビスマスの標的に当てる。
ただ原子核は極めて小さく、衝突させるのが困難。
そこで1秒間に2兆4000億個もの亜鉛の原子核をビスマスに当て続けた。
でも速すぎれば原子核が壊れ、遅すぎると融合しない。
チームは調整を繰り返し、光の速度の10%が最も効率よいことを割り出す。
しかしそれでも核融合の確率は100兆分の1。このわずかなタイミングを逃さず、113番元素だけを検出できる装置を開発。
 
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その結果2004年と5年に相次いで113元素の合成に成功。
しかし国際機関からはデータ不足を指摘され、3個目を目指しますがこれがうまくいかない。
この間、周りから本当に正しいことをやっているのかと言われて疑心暗鬼になったのが一番つらく、神社に行き、お賽銭を113円入れて実験の成功を祈ったこともあったということ。
そんな教授を支えたのは8年前に亡くなった奥さま。いつも「大丈夫、あなたならできるよ」と言ってくれたことがどれだけ励みになったことかと、森田教授は振り返る。

ただ実験方法には自信を持っていたためやり方は変えずに続けた結果、2012年に3個めの合成に成功。
ドイツやロシアのチームよりも日本チームのデータの質の良さが評価され、ニホニウムをものにした。

それではニホニウム発見にはどんな意義があるのか。
新しい元素は、さまざまな用途で利用され、多くは人々の暮らしに役立ってきた。
これに対してニホニウムは寿命が0.002秒であっという間にほかの元素にかわってしまうため何かの役に立つ可能性は全くない。あくまで基礎研究。

チームの実験費用は9年間で3億円。
こうしたすぐには役に立たない基礎研究にどれだけ投資すべきかは、議論が分かれるところ。
しかし元素は一体何番まで存在するのか、限界はあるのか。これを探求していくことは、知的好奇心を揺さぶる。
実際命名権獲得後、森田教授のもとには、ぜひ自分も科学者になりたいと将来の夢を語る子どもたちの手紙が届くようになった。
きょう理研を訪れた馳文部科学大臣は新元素探求について「全力で応援したい」と述べた。これがリップサービスに終わらないよう、具体的な支援策を示してもらいたい。
 
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というのも今は役には立たない新元素も将来的には可能性もあるから。
原子番号が大きくより重い元素の中には、「安定の島」と呼ばれる寿命が長く安定して存在する領域があることが予言元素によっては100年以上存在することも予想され、これまでの元素と同様に人類の役に立つものができる可能性も。
 
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これまで見つかっている元素は118番まで。そこで、森田教授らチームは安定の島への手始めとして、119番と120番元素を作る準備をすでに始めている。
ニホニウムは日本の科学水準の高さを改めて世界に示した。これをきっかけに科学技術立国の将来を担う人材が多く集まり、日本の基礎研究のさらなる発展につながることを期待したい。

(水野 倫之 解説委員)

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