NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「参政権行使70年 女性の政治参加を進めるには」(時論公論)

寒川 由美子  解説委員

戦後、女性に参政権が与えられ、初めて選挙で投票してから、ことしでちょうど70年です。
しかし世界各国で女性議員が増える中、日本ではその割合は低いままで、増やす仕組みも導入されていません。
一方、少子高齢化など今日的な課題の前では、政治分野での女性の視点はますます重要になっています。
そこで▼日本の女性の政治参加の現状と、▼いまなぜ女性議員の役割が重要になっているのか、そして▼女性の政治参加を進めるにはどうしたらいいか、この3点について考えます。
 
j160504_00mado.jpg

j160504_01.jpg

<日本の現状>
戦後、参政権を与えられた女性は、終戦の翌年に行われた衆議院選挙で初めて投票に臨みました。
 
j160504_02.jpg

j160504_03.jpg

そこで誕生した女性議員は39人。衆議院議員全体の8.4%です。
これは当時の世界平均の3%と比べて極めて高い水準でした。
その道を切り開いたのが、婦人参政権運動に尽力した市川房枝さんです。
戦前からの運動がようやく結実したのが、このときの選挙でした。
それから70年。衆議院の女性議員は45人で、全体の9.5%と、ほとんど増えていません。
 
j160504_04.jpg

この割合を世界と比べてみると、日本は191カ国中、156位です。
ことし夏に選挙が行われる参議院議員でも15.7%にとどまり、日本は世界の潮流から大きく取り残されています。

<なぜ女性議員が必要なのか>
そもそもなぜ、女性議員が必要なのでしょうか。
男女の人口比は半々なのだから、民意を政治に反映させるためには当たり前、とも言えます。
ただ、ここではあえて、女性議員が必要な理由を2つ挙げたいと思います。
1つは、女性への差別的な扱いをなくし、社会的立場を向上させるという点です。
これまで、女性議員は、数は少ないながらも、女性が置かれた立場を自分たちのこととして問題提起し、政策決定に力を発揮してきました。
 
j160504_05.jpg

▽育児・介護休業法、▽男女共同参画社会基本法、▽配偶者からの暴力を禁じるDV防止法といった法整備が次々に実現したのは、何より女性議員が強い危機感を持ち、奔走したことが大きかったといえるでしょう。

もう1つの理由は、急激な少子高齢化や、広がる格差といった今日的な課題を考えたとき、女性の視点が社会全体にとって不可欠なものになっているという点です。
 
j160504_06.jpg

家庭の中で長く育児や介護を担ってきた女性の視点から、いまの保育士や介護職員の深刻な人手不足といった問題の解決策を探る。
子どもの貧困や非正規雇用の拡大が問題となる中で、弱い立場に置かれてきたからこそ分かる心の痛みを政治に反映させ、格差解消につなげる。
さらに、今回の熊本地震のような災害への備えに女性の視点を生かす。
本来、こうした課題には男女を問わず知恵を出し合い、向き合うことが望ましい社会です。
ただ、現実には女性の視点が反映されにくかったことを考えると、やはり様々な局面で女性が意思決定に関わる重要性が増していると言えるのではないでしょうか。

<各国の制度>
では、女性の政治参加を進めるにはどうしたらいいでしょう。
女性議員が飛躍的に増えた国々で取り入れられているのが、「クオータ制」です。
 
j160504_07.jpg

これは議席や候補者の一定割合を、女性もしくは男女どちらかに割り当てる制度で、先ほどの表で上位にある国を含め、100カ国以上が導入しています。
 
j160504_08_1.jpg

▼このうち、1位のルワンダは、内戦の反省から、憲法で、国会の議席の30%以上を女性に割り当てるとしています。
 
j160504_08_2.jpg

▼また韓国では、法律で、比例代表での女性候補者を50%としています。

j160504_08_3.jpg

▼一方、政党が自発的に候補者の一定割合を女性にしている国もあります。
ドイツでは、小選挙区比例代表併用制の比例代表で、各党が候補者の3分の1から半数を女性に割り当てています。

各国とも、政治や行政の分野が先行してクオータ制を取り入れ、その後、企業にも導入が進みました。
日本が女性活躍推進法で、企業に女性の登用の数値目標などを義務づけながら、政治ではそれが実現していないのとは対照的です。

<日本では>
では、なぜ日本では女性議員を増やす取り組みが進まないのでしょうか。
その鍵は、各国で女性議員躍進の舞台となった比例代表制が、日本では違った使われ方をしている点にあります。
 
j160504_09.jpg

いまの衆議院選挙の比例代表は、小選挙区との重複立候補が多く、事実上のセイフティーネットになってしまっているのが現状です。
これでは、小選挙区とは違う多様な人材の声を政治に反映させるという効果は望めず、議員の男女比も変わっていきません。
そこで、いま日本の国会でも、女性議員を増やす制度実現に向けた動きが、ようやく本格化しています。
それが、超党派の議員連盟が検討している「政治分野における男女共同参画推進法案」です。
 
j160504_10.jpg

これは「候補者の数が男女同数となることを目指す」という努力義務を各政党に課すものです。
さらに、政党に、女性候補者を優先させるよう促す公職選挙法の改正案も検討されています。その仕組みは、例えば、
▼衆議院選挙の比例代表で、各党は候補者を女性グループと男性グループに分け、名簿に交互に登載します。
▼このとき、同じ候補者を何度も名簿に登載してもよい、とします。
 
j160504_11.jpg

女性候補者の数が少ない中、このような方法を取り入れることで、女性が当選しやすくするわけです。
超党派の議連では、今国会での法案成立を目指すとしていますが、推進法には賛成でも、公職選挙法改正については反対論も根強いといいます。
議席を手放したくない現職議員が改正に慎重になるのは予想されたことです。
日本は女性の政治参加が著しく遅れていることを各党は自覚し、目先の議席にとらわれず実効性のある制度にして欲しいと思います。
また私たち有権者の側も、政党の姿勢を見極めて投票行動につなげたいと思います。

<今後の課題は>
さて、こうした制度が実現したとしても、そもそも女性の候補者が少なければ、女性議員は増えません。
 
j160504_12.jpg

何が女性の政治参加を阻むのかを調べた調査では、育児や家庭との両立が難しいことや、家族からの支援が得られないことが最大の要因になっていました。
また、女性の役割に対する世間の目が厳しく、有権者の支持を得られない、政党からの支援がない、といった要因も多くなっていました。
こうした環境のもとでは、立候補にためらいを感じるのが当然です。
一方、話題作りに女性候補を擁立する傾向も目につきますが、実力が伴わなければ、かえって有権者の失望につながります。
家庭との両立のための環境整備を急ぎ、候補者を地道に育てていく取り組みが、政党には求められます。
そして私たち有権者の側も、政治分野での女性の働きにもっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。

去年、43歳で就任したカナダのトルドー首相は、閣僚を男女15人ずつとしたことについて、記者会見でひとこと「なぜなら2015年だからさ」と答えました。
特別なことではなく、それが当たり前なのだ、という感覚なのでしょう。
この夏の参議院選挙では、初めて18歳以上が選挙権を行使します。
伝統的な価値観にとらわれない若い人たちが政治を変えていくかもしれません。
少子高齢化という過去に例のない時代、女性を含め、多様な人々の視点が生かされる政治をどう作っていくのか、改めて考えたいと思います。
 
(寒川 由美子 解説委員)

キーワード

関連記事