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「"ミレニアル世代"は世界を変えるのか」(時論公論)

出石 直  解説委員

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“ミレニアル世代“という言葉をご存じでしょうか。
「ミレニアル」とは英語で「1000年の」という意味で、西暦が1000年代から2000年代に変わる1000年に一度の節目に社会に出てきた若い世代を指す造語です。
アメリカ大統領選挙の候補者選びではこの世代が民主党のサンダース旋風の原動力となりました。

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この時間では、
▽“ミレニアル世代“とは、どういう人達なのか?
▽この世代に共通してみられるライフスタイルや価値観は、
▽そして彼らは世界を変えるのか?
21世紀になって社会に登場してきたこの新しい世代の将来と可能性について考えてみたいと思います。

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 “ミレニアル世代“と言いましても特に決まった定義があるわけではありません。
ざっくりと「1980年以降に生まれ、20世紀から21世紀に変わった頃に社会に出てきた30代半ばまでの若者達」とご理解ください。コミュニケーション能力に長け、既存の枠組みにとらわれない柔軟な価値観をもつとされる彼らが、もしかしたら社会の閉塞状況を打ち破ってくれるかも知れない。私はそんな期待を寄せています。

どんな人がいるのでしょうか。著名人では、
▽フェースブックの生みの親マーク・ザッカーバーグCEO、
▽アメリカの情報機関による個人情報の収集を暴露したCIAのエドワード・スノーデン元職員、
▽アメリカの人気歌手レディー・ガガさん、
実は、北朝鮮のキム・ジョンウン第1書記もこの世代です。
日本国内では、錦織圭(にしこり・けい)選手やダルビッシュ有投手、北島康介選手、
フィギアスケートの浅田真央選手や羽生結弦(はにゅう・ゆずる)選手、お笑い芸人で作家の又吉直樹(またよし・なおき)さん。ジャニーズの嵐、AKB48のメンバーらもこの世代に当たります。

彼らが生まれ育った時代を振り返ってみましょう。

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▽物心がついた頃には冷戦は終わっており、米ソ対立の時代を体験していません。
▽インターネット環境が整い、デジタル機器やソーシャル・メディアが急速に発達しました。
▽日本ではバブル経済が崩壊して“失われた20年”と呼ばれる低成長期に入り、社会に出る頃にはリーマンショックの直撃を受けました。
▽阪神・淡路大震災、アメリカの同時多発テロ、イラク戦争、東日本大震災、IS=イスラミックステートの出現と、深刻な危機が次々と世界を襲った時期でもありました。

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こうした時代に多感な時期を過ごした若者達は、どんな生活をしてどんな価値観をもっているのでしょうか。もちろんひとりひとりに個性があって一概には言えませんが、この世代の共通点として指摘されているのは次のような特徴です。
「デジタル・ネイティブ」「貧困と格差」
「未婚・晩婚」「個性重視」「無党派」

順に見ていきます。

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この世代はインターネットが当たり前の時代に育ちました。日本では20代の9割以上がスマートフォンを利用しています。LINE、フェースブック、ツイッターといったソーシャル・メディアを自在に使いこなす世代です。アメリカではこの世代の80%がベットサイドにスマートフォンを置いて寝ているという調査結果もあります。大統領選挙の候補者選びでは、74歳のサンダース候補の陣営がもっとも効果的にソーシャル・メディアを使いこなしていると言われています。

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ソーシャル・メディアを通じて人とつながりコミュニケーションの輪を広げる。見ず知らずの人とも容易にコミュニケーションを取ることができるのがこの世代の大きな特徴です。

次に「貧困と格差」。

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「ミレニアル世代」は、サブプライムローン問題やリーマンショックの影響をもろに受け、グローバル化の進展に伴う貧富の格差に直面した世代でもあります。日本では非正規で働く若者が増え働いても豊かになれないワーキングプアが社会問題となりました。貧困率を年齢層別に見てみますと、男女ともに20歳から24歳の層が目立って高くなっています。
アメリカでは、ミレニアル世代の平均年収は全米平均より1万5000ドル(160万円)近く低く、ひとりあたり2万ドル(214万円)を超える学生ローンを抱えています。

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大学は出たけれど勤め先がない、ローンの支払いに追われて生活が苦しい。こうした厳しい経済状況を反映して、結婚したくてもできしない若者が増えています。

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日本の平均結婚年齢は、1950年に比べて男女ともに5歳から6歳程度遅くなっています。アメリカでもほぼ同じ状況です。親との同居、持ち家でなく借家暮らし、マイカーを持たない若者が、前の世代に比べて多くなっています。

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呼び方こそ異なりますが、世界各国で同じような世代が登場しています。
▽イギリスやオーストラリアでは「Y世代」、
▽スペインでは「ミレオリスタ」、
一か月の収入が1000ユーロ(12万円)前後しかない若者達を指す言葉です。
▽韓国では、恋愛、結婚、マイホームなど7つのことを放棄したという意味の「7放世代」、
▽中国では、親の脛かじりという意味の「*老族(こうろうぞく)*口偏に肯」と呼ばれています。

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こうした経済的な困難に直面しているこの世代は、どんなことを考え、何を大切にして人生を歩んでいるのか。ここでのキーワードは個性重視です。
若者文化に詳しい藤本耕平(ふじもと・こうへい)さんは、仲間とのつながりを大切にし、仲間たちのために尽くそうとする若者達という意味で「つくし世代」と名付けました。
ちょうど「個性を生かす教育」を目指して学習指導要領が改訂された1992年(平成4年)以降に小学校に入学した世代です。
「既成の価値観や枠組み、世間の常識にとらわれず、自分のフィーリングに合うものを
自由にチョイスし、ミックスし、アレンジして“自分らしさ”の完成を目指していく」
藤本さんはこの世代の特徴を指摘しています。

政治意識にも一定の傾向が見て取れます。アメリカでは「ミレニアル世代」の50%が
「自分はインディペンデント=無党派」と答えています。既存の政治に飽き足らないこうした若者達がサンダース旋風の原動力となりました。香港で「雨傘運動」と呼ばれた大規模な抗議活動や日本のSEALDsもこの世代が中心です。これまで若い世代は政治への関心が低いとされていましたが、社会に向けて積極的に声を上げる若者達が現れています。

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若者達の未来はけっしてバラ色ではありません。少子高齢化が進む日本では、労働力不足や高齢者の社会福祉を支えるための現役世代、若い世代の負担増が深刻な問題になっています。ただ全世界的に見れば、“ミレニアル世代”は各世代の中でもっとも人口の多い層でもあります。これからの労働と消費を支え、将来を担っていく世代なのです。
ソーシャル・メディアを自在に使いこなし、経済的な困難に直面しながらも個性を尊重し、仲間を大切にする若者達。既存の枠組みにとらわれない彼らの柔軟な発想と活力が、社会の閉塞状況を打ち破ってくれるかも知れません。“ミレニアル世代”の将来に期待したいと思います。

(出石 直 解説委員)

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