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「積極的な活用を! 被災ローンの減免制度」(時論公論)

今井 純子  解説委員

熊本や大分で相次いでいる地震では、多くの住宅が被害を受けています。家が壊れたのに、住宅ローンだけが残ってしまい、この先どうしたらいいのかといった相談も、相談窓口に寄せられています。こうした方が、住宅を再建する際に、二重のローンの負担に苦しむことがないよう、一定の要件を満たした場合、今、抱えているローンを免除したり減額したりできる新しい制度の運用が、今月から始まりました。この制度の概要と課題について考えてみたいと思います。

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【解説のポイント】
解説のポイント。
少しでも多くの被災者の負担を軽くする。そして、生活の再建を後押しするには、
▼この制度について、一刻も早く周知をはかること。
▼そして、金融機関が積極的に対応すること。
この2つがカギを握るという点です。

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【制度の仕組み】
(なりたち)
まず、被災者のローンを減免する新しい制度がどのようなものか、見てみたいと思います。
もとになっているのは、東日本大震災の被災者を対象に、特別につくられた制度です。この時には、津波で家が流された多くの被災者が、自宅を再建できずにローンだけが残ったり、再建しても二重のローンの重さに耐えきれず、後に自己破産に追い込まれたりしないよう、事後的に制度がつくられました。
今回の新しい制度は、それを、東日本大震災以外の自然災害にも適用できるようにしようと、全国銀行協会が中心になって、去年、「ガイドライン」として、まとめたもので、今月から運用がはじまったところでした。そして、災害救助法が適用された今回の地震で、適用されることになりました。

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(対象)
対象は、今回の地震で、熊本県や大分県などで、住宅や勤務先、そして、事業所などが被害を受けた結果、住宅ローンをはじめ、自動車や個人事業のローンなどを返せなくなった、あるいは、いずれ返せなくなる見通しになったという人です。

(仕組み)
金融機関の同意が得られれば、蓄えのうち、最大500万円と、そのほか再建を支援するための公的な支援金などを手元に残した上で、できるだけ返済をし、返済しきれない分は免除してもらえる仕組みです。自己破産とは違って、ローンを払えなかったという情報が金融機関の側に残らないため、新たなローンを借りることもできて、生活や仕事を再建するための後押しになると期待されています。

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(手続き)
具体的な手続きです。
ローンを抱えた被災者の方は、まず、最もたくさんのローンを借りている金融機関に申し出ます。すると、地元の弁護士会などを通じて、無料で弁護士などの支援を受けられます。そして、その支援のもとで、金融機関に必要な書類を提出します。この時点で、金融機関は、ローンの返済を求めることが、一時的にできなくなります。
その後、金融機関側と協議をしながらローンをいくら返して、いくら免除してもらうかの計画をつくります。そして、関係するすべての金融機関の同意が得られたら、最後は、簡易裁判所の特定調停の手続きで内容を確定して、減免してもらうという仕組みです。

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【ポイント(1) 一刻も早い周知を!】
(東日本大震災では、利用が限定)
この制度で、できるだけ多くの被災者を救うために、必要なこと。まずは、一刻も早く、広く、周知をすること。それが、東日本大震災の時の教訓です。
どういうことかといいますと、この制度。先ほども話したように、東日本大震災の後、特別に作られた制度をもとにしています。しかし、東日本大震災でローンを減免できた件数は、1347件。被害の規模を考えますと、わずかな利用にとどまっている形です。

(対応や周知の遅さ)
その理由としては、
▼そもそも、仕組みを一からつくったために、制度がスタートしたのが2011年の8月と、震災から一定の時間がたっていた上に、
▼当初、手元に残せるおカネは、公的な支援金などのほかは、最大99万円と、少なかったり、仮設住宅に入っている人はすぐには利用できなかったりと、被災者にとって厳しい制度だったこと。
▼さらに、ローンを減免する制度があるということを、被災者に教えない金融機関も多かったこと。こうした点が指摘されています。
▼こうした面は、弁護士会や金融庁の働きかけで、次第に改善されましたが、改善されたという周知も遅れました。

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(救われたはずの人が救われない結果も)
その結果、
▼金融機関がローンの減免に応じてくれることを知らずに、公的な支援金などで、ローンを一部繰り上げで返済して、なお残りのローンを払い続けている人や、
▼家を再建したり、修理をしたりするために、残ったローンに加えて、無理に新たなローンを組んだ人も多くいました。
制度を利用できていたら、古いローンの返済を免除してもらえたり、一定の蓄えや支援金などを手元に残せたりしたケースも少なくなかったと、東北で被災者の支援にあたっている弁護士は話しています。

(一刻も早い周知を!)
 この時の教訓を活かすには、被災者が、公的な支援金などをローンの支払いにあてたり、無理して新たなローンを組んだりする前に、この新しい制度を広く周知することが、とても大事になってきます。
▼先週から金融庁、そして、今週から熊本県の弁護士会も、情報を提供するために、電話での相談を受け付けています。こちらの電話番号=フリーダイヤルです。弁護士会は、大型連休中も、土日を除いて相談を受け付けます。今後、被災地で無料相談会を開くことも検討しています。

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今後、こうした制度があることや、相談窓口があることを、避難所でも周知していくこと。さらに、金融機関側から、ローンの利用者に、ダイレクトメールなどで、直接、知らせることも大事になってくると思います。

【ポイント(2) 金融機関の積極的な対応を!】
そして、もう一つ、大事なのは、金融機関の積極的な対応です。

(ローン減免の目安)
この制度は、あくまでも、地震の被害によって「ローンが返せない」あるいは、「返せなくなる見通し」になったということが、要件になるという限界があります。その具体的な判断の目安としては、
▼世帯の年収が、730万円未満であることや、
▼ローンの返済額と、新たに借りる家の家賃などの負担の総額が年収の40%以上になることといった、要件が設けられています。しかし、これは、あくまでも目安であって、家族構成や世帯主の年齢、それにローンの残高などを踏まえて、それぞれの金融機関が、総合的に判断するということになっています。

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(積極的な対応が地域再生につながる!)
ローンの減免は、短期的に見れば、金融機関にとって、マイナスかもしれません。ですが、被災者の生活や仕事が、スムーズに再建でき、地域の再生につながるのであれば、長い目で見て、金融機関にとっても、プラスになるのではないでしょうか。ぜひ、柔軟で、積極的な対応をしてほしいと思います。

【まとめ】
 被災地のローンを減免するこの制度は、過去の数々の苦い教訓をもとに、ようやくできた制度です。限界はありますが、この制度が最大限に活かされて、1人でも多くの被災者が、重いローンの負担を減らせるよう。そして、希望を持って再建に乗り出せるよう、国や自治体、金融機関、弁護士会などが力をあわせて、取り組んでほしいと思います。

(今井純子 解説委員)

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