解説アーカイブス これまでの解説記事

時論公論

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

「熊本地震 子どもの心のケアは」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

熊本県などでは、活発な地震活動が続く中、被災した人たちは不安を抱えた生活を余儀なくされています。そうした時に見落とされがちと言われるのが、心の傷を受けた子どもたちです。被災したばかりの今の時期に適切な対処をしないとより複雑な問題になりかねないとも指摘される子どもの心のケアの問題について考えます。

j160419_2_00mado.jpg

解説のポイントは、2つです。
▽「見落とされる子どものストレス」大人と同じように子どもたちもストレスを受けているということを知る必要があります。
▽「居場所作りの重要性」子どもの心のケアの重要なポイントとなります。

j160419_2_01.jpg

今月14日の夜以降、熊本県と大分県で起きた地震は620回を超えました。被災地では、しばしば起きる大きな地震の中で住民が不安を抱えたままの状態が続いています。熊本県内では、熊本市や震度7を観測した益城町などで、19日午後1時半現在、641か所の避難所におよそ9万5000人が避難しています。避難所から自宅に帰ったところで起きた地震で自宅が倒壊して犠牲になる方もいて、いつ起きるかわからない地震への不安は、大きなストレスとなっています。

j160419_2_02.jpg

そこで一つ目のポイント、「見落とされる子どものストレス」。こうした状態は、大人だけでなく、子どもにも大きなストレスとなります。ところが、子どもたちは、大人と違って自らの危機に対処する能力が十分に育っていません。特に年齢の低い子どもたちは怖い目にあった体験を言葉で周囲にうまく伝えることができません。心の問題を抱えていても震災の初期段階では、見落とされるケースが少なくないのです。一方で、避難生活や被災した自宅の片付けなど、頑張る大人をみて、我慢して気持ちを出さない子どもたちや、無理に笑顔を見せようとする子どもたちもいます。伝わりにくい子どもたちのストレスをそのままにすることが、時間が経ってから心のダメージとなって現れるPTSD・心的外傷後ストレス障害につながる恐れがあるというのが専門家の指摘です。

j160419_2_03.jpg

PTSDは、大きな災害などでとても怖い思いをした記憶が心の傷となって何度も思い出され、恐怖を感じ続ける病気です。突然「物音に敏感になったり、イライラしたりする」、「災害のことを思い出して突然おびえたり混乱したりする」といった症状が見られます。心の傷に気づかないまま、20年、30年経ってから症状が出て周囲の理解が得られず深刻な事態になるケースもあります。

j160419_2_04_1.jpg

東日本大震災で被災した子どもたちの心のケアに取り組んできた宮城県子ども総合センターが震災による子どもの心の問題の推移を示した図です。子どもの心の問題は3つの時期にわけて考えられます。震災発生から2か月までの「急性期」、そこから発生から1年までの「急性後期」、そして発生1年以降の「後期」です。地震を経験した子どもたちは、大きな揺れや建物の崩壊などを目の当たりにしたことが直接の衝撃となって、急性のストレス反応が急激に増えました。ピークは発生から2週間程度と言われますから、今回に当てはめると、被災した子どもたちは、これからが大変な時期となります。こうした反応は「急性期」から「急性後期」に移行するころに収まっていくのですが、その時期に新たにPTSDの症状が現れます。「急性期」に子どもたちのストレスに気づいて対策を取ることが、PTSDの発症を抑えることにもつながります。

j160419_2_05_1.jpg

東日本大震災のPTSDの発症はどうだったのでしょうか。文部科学省は、震災の発生から1年後に被災地を対象に、震災後の子どもの様子について保護者から調査を行いました。その結果、PTSDが疑われる子どもが、岩手県で11.3%、宮城県で19.0%、福島県で22.9%に上りました。震災3年後には、被災した子どものおよそ30%にPTSDの症状が見られたという厚生労働省の研究班の調査結果もあります。東日本大震災の発生からは、さらに2年が過ぎていますが、心の問題を残したままの子どもたちがまだいる可能性を示すデータです。

j160419_2_06_2.jpg

では、子どもたちが心の問題を残したままにしないよう心のケアをするには何が必要なのか。そこで2つ目のポイント、「居場所作りの重要性」です。被災地が混乱する中で、通っていた幼稚園や保育園、学校も休校が続いています。子どもたちにとっては、居場所がない状態です。居場所がないと、被災地では大人の足手まとい扱いをされることもあります。肩身の狭い思いをすることで、心の傷が固定化する可能性があります。
具体的な居場所作りとして注目される取り組みがあります。国際的な子ども支援団体のNGO、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが益城町の避難所に熊本地震発生2日後から開設した「こどもひろば」です。子どもたちを受け入れ、スタッフが相談に乗りながら遊びや過ごし方を決めていきます。同年代の子どもたちがいっしょに過ごすことで、日常感覚を取り戻していく効果が期待されています。遊びは、子どもたちのストレスを発散させ、安心感を与え、連帯感を生むと言います。さらに大人が見守ることが子どもたちのリラックスにつながるのです。

j160419_2_08.jpg

この団体では、周囲の大人が子どもたちと適切なコミュニケーションをとって見守りにつながる活動ができるようにという特設のインターネットサイトも公開しました。安全確認など様子を「見る」こと、無理強いしないで必要なことを「聴く」こと、必要なものや情報に子どもたちを「つなぐ」ことが重要だと説明しています。東日本大震災では、初期段階で大人が子どもたちから無理に被災体験を聞き出そうとするなどして混乱したことが反省材料として指摘されています。今回は継続する地震の中で、現段階では子どもたちに寄り添うことがなお一層重要になっています。

j160419_2_09_1.jpg

ただ、「こどもひろば」が設置されたのは、熊本県内に600以上ある避難所のうち3か所に過ぎません。ストレスがたまった子どもが避難所でじっとしていられなかったり、寝付けなかったりした場合、親が引け目を感じて避難所を出て、家族全体が孤立を深めるといった悪循環に陥るケースも想定されると言います。ことは、子どもだけの問題にとどまらないのです。
今回のような大きな地震に直面した子どもたちの中には、強いストレスを抱えて泣き叫んだりするケースがある一方、感情をまったく表さなくなったり、ぼーっとしている時間が長くなったりと、反応は千差万別です。本来そうした子どもたちの変化を受け止める役割を持つ親は、生活や住宅の再建という重い課題を抱え、ますます目配りが難しい状況が予想されます。さらに、子どもたちにとって心を許し、頼れる大人である学校などの先生たちは、学校そのものが避難所となる中で運営にかり出され、不眠不休で、子どもに向き合う余裕がまったくなくなるというのが、これまでの大災害で見られた状況でした。揺れが続く被災地は今も不安定な状況で、子どもたちは落ち着かない状態で生活しています。子どもの心の問題は見過ごされる可能性が高いことをより多くの人たちが共有し、適切に心のケアを行うことが復興の促進にもつながることを社会全体で意識する必要があります。

(西川 龍一 解説委員)

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

キーワードで検索する

例)テーマ、ジャンル、解説委員名など

日付から探す

2017年02月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28        
RSS