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「衆院選挙制度改革 『アダムズ方式』導入の意義」(時論公論)

太田 真嗣  解説委員

最高裁判所から『違憲状態』とされている衆議院の選挙制度の見直しをめぐる議論は、『アダムズ方式』という、人口に応じて各都道府県の小選挙区の数が決まる計算式の導入を、いまの国会で決める見通しとなり、改革実現に向けて進み始めました。

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そこで、今夜の時論公論は、▼導入される見通しとなった、「アダムズ方式」とはどんなものなのか、▼その導入の意義と課題、そして、▼それを受け入れた政治の背景と求められる役割を考えます。

衆議院の選挙制度の見直しをめぐって、大島衆議院議長は、▼議員定数を10削減する、▼1票の格差是正に向け、『アダムズ方式』を導入する、方向で、自民・民進両党が、それぞれの考えに基づいた法案を提出し、いまの国会の会期中に結論を出すよう求めました。両党の案には、アダムズ方式の導入時期などに違いはあるものの、いずれの案にも反対を表明した共産党の他は異論も出ず、選挙制度改革は、実現に向けて一歩、踏み出しました。

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導入される見通しとなったアダムズ方式は、アメリカ大統領を務めたジョン・クインシー・アダムズが考案したとされ、日本の衆議院にあたる、フランスの国民議会などでも採用されています。

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具体的に、どんな方式なのか。計算を分かりやすくするため、極小さいA・B・C、このような3つの県を例として、議員定数の10を、どう割り振るかを考えてみます。3県の人口の合計は230。議員一人あたりの平均人口は23です。

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まず試しに、この23で各県の人口を割り、その答えの小数点以下を四捨五入してみます。
すると、A県は6、B県は3、C県は1です。

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これに対し、アダムズ方式は、四捨五入ではなく、小数点以下の値をすべて切り上げます。
すると、切り上げによってB県は4、C県は2と、ひとつずつ増え、3県の合計は12と、定数の10を上回ってしまいます。

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そこで、今度は、割る数を、24、25と徐々に大きくし、3県に割り振る数の合計が、
ちょうど10になるところを探していきます。この例では、各県の人口を26で割ると、A県は5、B県は3、C県は2となり、3県の合計は10。これがアダムズ方式です。

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このように、アダムズ方式は小数点以下を切り上げるため、極端な話し、人口が0でなければ議席が割り振られます。「国民が1人でもいる以上、代表を出す権利を完全に奪うべきでない」という考えで、人口の少ないところに有利に働くというのが最大の特徴です。さらにアダムズ方式は、他の方法と比べ、▼最大格差が小さいという特徴もあり、採用の大きな決め手となりました。

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では、アダムズ方式を衆議院の選挙制度に組み入れることには、どんな意味があるのでしょう。もちろん、1票の格差を出来るだけ小さくするのが目的ですが、最も大きな意義は、今後、人口が変動した際には、自動的に各都道府県に議席が割り振られ、選挙の公平性が高まるということです。

これまで、衆議院は、別の配分方式を使っていましたが、最高裁に見直しを求められたこから平成24年に廃止され、いま、各都道府県への議席配分は、政治が、その都度、判断し、法律で決めています。当然、そこには、与野党の力関係といった、時の政治状況が大きく影響しますから、選挙の公正性という観点からは、決して望ましい姿と言えません。
アダムズ方式が導入されれば、今後は、政治家が判断するまでもなく、人口変動に応じ、自動的に各都道府県への配分が決まることになります。

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一方で、アダムズ方式の導入は、「地方の切り捨てにつながる」という反対の声もあります。
地方に有利とは言え、実際には、多くの県で議席が削減されることになるからです。
日本は、去年10月に行われた国勢調査で、47都道府県のうち39の道府県で人口が減少し、はじめて人口減少に転じました。その中にあって、東京・神奈川・埼玉・千葉の東京圏の人口は、この5年間で50万人以上増えています。都市部への人口集中は、より深刻さを増しており、単に人口だけで議席の配分を決めることになれば、過疎化が進む地方の声は、ますます届きにくくなるという心配です。

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これに対しては、「人口減少や過疎化の問題は、政策によって対応すべきで、そのために都市と地方で、1票の価値に差があって良いことにはならない」「国会議員は、国民全体の代表であり、地域の代表ではない」という反論もあります。実際、いまは、地方選出の議員が多いのに、都市と地方の格差が拡大する一方なのは、これが選挙制度の問題ではなく、政治の問題であることを示しているようにも見えます。
しかし、地方に限らず、少数派、いわゆるマイノリティーの意見をいかに国政に活かしていくかは、1票の格差同様、これまで長く議論され続けてきた、大きな課題です。そのバランスをどう取っていくべきなのか、引き続き、十分な検討が必要です。

では、最後に、政治の対応を見ていきましょう。アダムズ方式導入の時期について、▼民進党は、「直ちに導入し、6年前の2010年の国勢調査のデーターをもとに計算すべきだ」としています。これに対し、▼自民党は、「定数削減と格差是正を優先させ、アダムズ方式導入は、2020年の調査後にすべきだ」 と主張しています。一方、▼共産党は、「小選挙区制そのものに問題があり、抜本改革が必要」という立場です。自民・民進両党は、来週にも、それぞれ、法案を国会に提出することにしており、今後は、委員会など、公の場で議論されることになります。

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衆議院は、過去3回の選挙が、いずれも『違憲状態』とされる異常な状態が続いており、議員定数の削減も、当時の野田総理と安倍自民党総裁が約束して3年半が経とうとしています。今回、政治が重い腰を上げた背景には、「このままでは、国民の政治不信がさらに高まり、国会の権威がズタズタになる」という危機感がありました。
その上で、政権側には、衆参同日選挙も視野に、「衆議院の解散という『切り札』を、いつでも使える環境を整えたい」、野党側にも、党内調整に苦しむ自民党の姿に焦点をあて、「『改革に後ろ向き』というイメージを浮き彫りにしたい」、という思惑が見え隠れしています。
その意味では、今回、改革が前に進んだのも、この夏の政治決戦を見据え、与野党の思惑が一致した結果と見ることもできます。

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関係者の間には、「論点は出揃っており、今後の審議には時間がかからない」という見方もあります。しかし、これまでは、あくまでも政党間の協議であり、国民の前でしっかり議論し、理解を求めるのが政治の責任ではないでしょうか。一方、人口集中など、様々な課題を抱える中、選挙制度をどう考えるかという問題は、決して政治家に任せきりにして良いものではありません。『選ばれる側』でなく、『選ぶ側』のための改革になっているか。主権者である私達も、今後の議論の推移を注意深く見ていく必要があるように思います。

(太田 真嗣 解説委員)

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