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時論公論 「大学入試改革 議論は尽くされたのか」

西川 龍一  解説委員

4年後に始まる予定の大学入試センター試験に代わる新しいテストはどうなるのか。文部科学省の専門家会議が最終報告をまとめました。拙速を慎み、熟慮を重ねることが求められるはずの入試改革ですが、2020年という実施時期へのこだわりから、とにかく先を急ごうという感は否めないように思います。大学入試改革の議論は尽くされたのかについて考えます。

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解説のポイントは、2点です。
▽視界不良の新テスト・最終報告を見ても、新テストの姿はいまだ霧の中にあってはっきり見えないと言った状態だからです。
そして、もう1つは、▽それでも2020年?新テストの実施時期への疑問です。

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まずは、「視界不良の新テスト」です。専門家会議の議論は、おととし12月の中教審の答申を受けて始まりました。答申の中で示されたのは、大学入試改革を推進するための2つの新テストの導入です。▽「基礎テスト」、「高校基礎学力テスト」は、高校在学中に学習の到達度をはかるため、何度でも受けられるテストで、AOや推薦入試、就職に利用できるもの。学力の底抜けを防ぐ意味合いがあります。もう一つは▽いわゆる「進学テスト」、「大学入学希望者学力評価テスト」で、今のセンター試験にかわるもの。つまり大学受験のために受けるテストです。新しい2つのテストをどのように行うのかや活用策を具体的に示すことなどが求められました。

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具体的な仕組みなどの議論は、去年3月から、本格的に始まりました。議論の焦点は進学テストです。最終報告では、▽知識や技能だけでなく、論理的思考力や判断力、表現力を測れる内容にすること。そのために▽マークシートに加えて記述式の問題を導入すること。▽進学テストの導入にあわせて、各大学の個別テストについてもより丁寧な選抜が行えるような改革を進めることとしています。
実施時期については、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年度からという中教審答申が示した時期をそのまま踏襲しましたから、今の中学1年生が最初に受験することになります。

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実施時期まで4年ということを考えると、具体的に試験日がいつ頃に設定され、どんな問題になるのかが、ちょうど受験時期にあたる子どもや保護者にとっては最大の関心事でしょう。しかし、これについては、結論は先送りされた形です。解決すべき問題が、あまりにも多いからです。
特に問題となるのは、新たに導入を決めた「記述式」についてです。そもそも共通テストの記述式問題は、これまで例がありませんから、問題を作るだけでも大変な作業です。さらに記述式の最大の問題点は、全問マークシート式のセンター試験ではコンピューターを活用して行っている50万人を超える受験者の採点をどうするかです。思考力や判断力、表現力を測るとなると、採点の公平性をどう確保するのかという入試の根幹に関わる問題もあります。
当初、進学テストは年に複数回受験できるようにすることが検討されていました。しかし、議論の中で、文部科学省は、記述式の採点には最長で60日程度かかるという試算を示しました。このため、最終報告では、複数回の実施を見送ったほか、導入する対象についても、当面は数学と国語だけとなりました。

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「基礎テスト」の方はどうでしょう。2019年度から試行的に実施することを決めたものの、当面は入試や就職の際の利用は見送ることになりました。

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さらに議論のスタート時点で盛んに言われていた「1点刻みの入試の解消」についても、記述式問題の導入で「狙いが相当程度実現する」として、結果を具体的にどう活用するかは示されないままです。

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ここで考えなければならないのは、そもそもなぜ今回の大学入試改革が必要とされたのかということです。目的は、これからの子どもたちに必要な能力として、▽知識・技能だけでなく、▽答えが1つでない問題に対して解決策を考える思考力・判断力・表現力、▽主体的に多様な人たちと協働して学ぶ態度を身に付けさせることとされていました。その方策として、高校教育、大学教育、その間をつなぐ入試を一体として改革するとしているのが、今回の改革の大きな特徴でした。しかし、議論が進む中で浮き彫りになってきたのは、解決すべき問題点ばかりでした。結局、2つのテストとも当初の理想からは後退した形です。

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そこで2つ目のポイント、「それでも2020年?」です。当初の理想から後退する形で、いわば生煮えの状態でも、文部科学省は、進学テストは2020年度からという予定は、変えない方針を示しています。文部科学省は、大学入試が変わらなければ、入試対策を前提にした高校の教育は変わらないという理念は教育界で共有されている以上、できるところから導入すると説明します。
では、なぜ2020年度からなのか。今回の大学入試改革の先鞭を付けたのは、3年前の10月に出された政府の教育再生実行会議の第4次提言でした。その後、当時の下村文部科学大臣が2020年度からの実施を提唱し、最終的に中教審の答申にも盛り込まれました。そもそも2020年度という実施時期は、政治的な意味合いで決められたという側面が強かったということになります。おととしの中教審の答申を受けて、文部科学省は今回の入試改革を進める工程表を作って公表しています。工程表では、今回の専門家会議の最終報告は、去年12月の予定でしたから、すでに3か月の遅れが出ていることになります。加えて多くの課題の解決策の検討は先送りされた形です。文部科学省は、今回の報告を受けて、新たに会議を設置して出題内容や範囲を決めるといったより実務的な作業を急ぐ考えです。
しかし、今の勉強のままでいいのか戸惑いを口にする中学生も出始めています。すでに対策に乗り出す塾もあります。こうした不安を払拭して誰もが納得できるテストの形態を示すことができるのでしょうか。

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結局文部科学省としても、1度導入時期を打ち出した以上、引くに引けないのではないかという大学関係者の声もあります。一方で、これまでの専門家会議の議論を聞いていても、全国共通で行う進学テストと、大学が個別に行うテストの役割分担が曖昧なままで、記述式問題の導入にこだわって隘路に迷い込んでいるような印象です。
大学入試改革については、民主党政権時代の2012年に中教審に諮問されたあと、議論がなかなか進まない状況でした。それを安倍内閣の教育再生実行会議の提言によって急激に議論がスピードアップした経緯があります。山積する課題を前に、ゴールばかりを気にして、肝心の子どもたちへの配慮がおざなりになることがないよう、今一度求めたいと思います。

(西川 龍一 解説委員)

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