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時論公論 「アインシュタインの宿題が解けた!重力波観測」

水野 倫之  解説委員

天才物理学者アインシュタインが残した最後の宿題が、100年の時を経てようやく解明か。
アメリカを中心とした研究グループは、2つのブラックホールが13億年前に合体して発生した重力波を、初めて観測することに成功したと発表。
重力波は一般相対性理論に基づく予言の中で、唯一観測できず証明されていなかったもので、ノーベル賞確実とも。
今回の観測にどんな意義があるのか、アメリカはアインシュタインの難問にどう立ち向かい日本は今後どんな役割を担えるのか。今夜の時論公論は重力波観測成功の意味について水野倫之解説委員。

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2つの大きな意義。
一つは、アインシュタインが残した最後の宿題を解いたということ、
そして重力波で宇宙を観測する重力波天文学を切り開いた、この2点。

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まずアインシュタインの宿題。
現代の物理学の土台となっている一般相対性理論。アインシュタインはそこから様々予言。
重い天体の重力は空間をゆがめること。
また重い星の周りでは光が重力で曲がる重力レンズという現象が起きること。
こうした予言は観測で正しいことが証明。
例えばこれは重力レンズを証明するハッブル宇宙望遠鏡の画像。奥にある銀河の光が黄色い銀河の強い重力によって曲げられた結果、輪っかのように見えている。

しかし最後に一つ、どうしても証明されずに残っていた予言、つまり宿題が。
それが重力波。
宇宙で大きな質量をもつ天体が動くことで時間や空間がゆがみ、波となって光の速さで伝わるという。
超新星爆発や、ブラックホール合体する時など、天体の動きが速く、そして重いほど重力波は大きくなるとされ、地球にも届く。
しかし空間のゆがみは原子1個分以下とごくわずかで、実感できない。
このため重力波を観測するには高度な技術、巨大な施設が必要で、90年代以降日本を含め各国が競争。

そのトップを走ってきたのがアメリカ。
今回観測に成功した装置のうちの一つ、ワシントン州の砂漠地帯につくられた巨大な重力波望遠鏡「LIGO」。2本の長いパイプがL字型に組み合わせて設置。
パイプの中は同時に発射されるレーザー光線。通常は鏡で反射した後、同時に戻る。しかし重力波が地球に届くと空間がゆがみ、レーザーが戻るタイミングにずれ。このずれが確認できれば、重力波を観測したことになるわけ。
ただその性能はレーザーが往復する距離に比例するため、パイプの長さは4キロにも及ぶ。この高性能装置のおかげで、アメリカは今回重力波を捉えることができた。

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今回宿題が解けたことで、一般相対性理論があらためて正しかったこと、アインシュタイ
ンはやっぱりすごかったことが再認識。
基礎研究を大事にするアメリカの科学技術の底力。
実はこのLIGO、計画がスタートしたのは20年以上前、500億円をかけて2002年に完成。すでに世界最高の性能だったが、8年観測しても捉えられないとわかるや、アメリカはすぐに大改造に。
地上の振動の影響を減らすためほとんどの装置を入れ替え今回の成功につなげた。
アメリカはこの大改造に建設費の倍の1000億円、今後もさらなる高性能化を。

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なぜここまで思い切った投資ができるのか。
アメリカは研究開発の投資額の30%以上が基礎研究中心の政府の予算。日本は19%にとどまる。
アメリカでは政府の予算以外にも、民間からの大学への寄付講座などもさかん。基礎研究へ多額の投資をしていることがわかる。

今回捉えた重力波が地上の生活にすぐに役に立つわけではない。
しかし宇宙では一体何が起きているのか、知的好奇心を満たしてくれる。
ハッブル宇宙望遠鏡などアメリカのこれまでの宇宙探査に対する取り組みを見ると、根源的な問いについて答えを出すのは自分たちだという意識が強くあり、ここというときに投資を惜しまない姿勢が今回の成果につながったと思う。

ただ日本も投資額は少ないとはいえ、この分野には力を入れてきた。観測ではアメリカに先を越される形となったが、この先果たすべき役割は非常に大きい。
今回の成果には2つ目の意義として、重力波天文学に道が開けたから。

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ガリレオ・ガリレイが手作りの望遠鏡で天体観測を初めたのは400年前、以来人類は長い間、目に見える光を頼りに天文観測。
その後電波やX線。
今回の重力波の観測は、人類が宇宙を見る全く新しい手段を手にし、天文学がガリレオ以来の革新的な時代に入ったことを意味。
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その点日本も岐阜県に重力波望遠鏡「KAGRA」を建設し、観測手段を持っている。地上の雑音を限りなく抑えようと、アメリカのように地上ではなく標高1300mあまりの山の中に建設したのが特徴。これによってアメリカと同じ程度の性能が発揮できるとされており、来月から試運転が、来年度以降本格運転を始める計画。

ただ重力波望遠鏡は1か所だけは十分ではなく、今後は国際協力による観測が重要。なぜなら重力波がやってくる方向を正確に知るには三角測量の原理で、最低でも世界の3か所以上で同時に捉えなければ。しかし1国だけで3か所以上の観測施設を持つのはアメリカといえ限界。
世界ではほかにもヨーロッパが性能アップを目指して重力波望遠鏡を改造中で、今後それぞれが競争しながらも協力しあって観測していくことになるとみられ、日本の役割は重要。

重力波の観測で期待されるのは、ブラックホールの誕生や合体など。
これからがおもしろくなりそう。

(水野 倫之 解説委員)

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