2009年07月22日 (水)時論公論 「トムラウシ山遭難 ~ツアー登山の落とし穴」

【藤井キャスター 】

先週、北海道の大雪山系(たいせつさんけい)のトムラウシ山(やま)などで、中高年を中心にした登山グループが相次いで遭難し、あわせて10人が死亡しました。

悪天候による夏山の遭難として戦後最悪の惨事は、なぜ防げなかったのか、松本解説委員です。

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【 松本解説委員 】

今回、一連の遭難で亡くなった人のほとんどは、旅行会社が参加者を募る「ツアー登山」の参加者でした。「ツアー登山」は、ガイドの引率で手軽に参加できるとして中高年を中心に人気が高まっています。一方で、採算を優先し安全対策がおろそかな一部の旅行会社や、

知識や準備が不十分なまま山に向かう参加者のあり方が問題になってきました。

今夜は、これまでにわかってきた遭難の状況を整理したうえで「ツアー登山」の問題点を考えたいと思います。

 

 

【 遭難の経緯 】

まず、8人が死亡したツアーの経緯です。

このツアーは、東京の旅行会社「アミューズトラベル」が主催したもので、中高年の男女15人を、3人のガイドが引率していました。2泊3日で大雪山系の41キロあまりを縦走する計画でした。

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3日目の朝早くヒサゴ沼避難小屋を出発した一行は、悪天候のためトムラウシ山登山をあきらめ迂回ルートを進もうとしました。しかし増水した川を渡ったところで、女性ひとりが動けなくなり、リーダーのガイドが付き添ってそこにとどまりました。

当時、風速20メートルから25メートルの強風に雨も加わり、気温は10度以下、体感温度は氷点下だったと見られています。

間もなく、さらに4人が動けなくなりました。そこで3人のガイドのうち、ただ1人この山の経験のあるガイドがそこに残りました。

j090722_01_2.jpg残るツアー客10人とガイド1人が先に進みましたが、次第にばらばらになり、結局、自力で下山できたのは5人だけでした。ほかの人たちは救助されましたが、8人が亡くなったのです。

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【 ガイドの判断のポイント 】

ガイドの判断に問題はなかったのでしょうか。

私は、現地と札幌で取材し、このコースに詳しい3人のベテランの登山ガイドと、今回のツアーを主催した会社でサブガイドをつとめ、このコースの経験もある男性から直接話を聞くことができました。

話を総合すると、ガイドの判断の分かれ目になったのは4つの点です。

(1)避難小屋に留まらず、なぜ出発したのか。

(2)なぜ途中で引き返さなかったのか。

(3)動けなくなった人が出たときに、なぜほかの参加者を待たせたのか。

(4)下山しようとした人たちがなぜばらばらになったのか。

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(1)なぜ出発したのか。

当日の朝、悪天候のなか、ガイドたちは予定より30分遅れて出発することを決断しました。

この時点での天気予報は、「曇り、昼過ぎから晴れ」で、参加者は、ガイドが「午後からは晴れる」と説明したと話しています。しかし同じ日にトムラウシ山を目指し、ほかの避難小屋にいたパーティーのガイドは、同じ天気予報を聞いていましたが、天候の状況から登山を断念し、下山していました。

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(2)なぜ途中で引き返さなかったのか。

避難小屋を出発して間もなく、一行は困難な状況に陥ります。風が猛烈に強くなったのです。しゃがんで風に耐えたり、木道から落ちたりしながらなんとか前に進みました。その先には、登りの岩場が続く難所があり、参加した人によるとこの付近で遅れる人が出始めたと言います。

「全員を無事下山させるためには、この時点で避難小屋に引き返すべきだった」と、

ベテランガイドたちの見方は一致しています。

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(3) なぜ参加者を待たせたのか。

参加者が次々と動けなくなったとき、ほかの10人ほどの参加者は、吹きさらしの中、1時間前後待たされたと言います。登山医学の専門家は、こうした気象状況では、低体温症を防ぐためにゆっくりでも歩かせ続けることが絶対に必要で、「致命的な1時間だった」と見ています。

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(4)下山しようとした人たちがなぜばらばらになったのか。

このあと歩くことのできる10人を、この山の登山経験のないガイド1人が引率して下山することになりました。しかし参加者は、ガイドがどんどん先に進んでしまい、ついていけなくなったと証言しています。

会社側は、ガイドは早く下山して救助を呼ぼうとしたのではないか、と説明していますが、

ベテランのガイドたちは、歩く速度は一番遅い人にあわせ、決して1人にはしないのが鉄則だと言い、この行動に疑問を呈しています。

 

j090722_06_1.jpg【 何が生死をわけたのか 】

そうした状況の中、ツアー客8人が命を取り留めました。

生死をわけたのは何だったのでしょうか?生還した人たちのうち少なくとも3人が指摘しているのが、「防寒具」です。私が話を聞いたひとりの参加者は、避難小屋を出発してしばらくして風がわずかに弱くなったところでいったん雨カッパを脱いで、下に防寒具を着こみました。下山後、ほかの生還者と防寒具を見せ合って「これで助かったね」と話したということです。

 

【 ツアー登山の問題点 】

ツアー登山で参加者が死亡する事故は、たびたび起きています。同じ北海道では10年前に羊蹄山でツアー客ふたりが死亡し、7年前の7月には、今回と同じトムラウシ山でツアー客1人が低体温症で死亡しています。いずれの事故でも、ガイドは業務上過失致死で有罪判決を受けています。こうした事例がありながら、また大きな悲劇を生んだツアー登山。安全性を高めるために何が課題になっているのでしょうか。

 

▼まずツアーの日程に余裕を持たせるという点です。

予備日を設けるなどすれば費用が高くなりツアー客に敬遠されると言います。

今回のツアーも予備日は設けていませんでした。

この会社でサブガイドをつとめた男性は、「渓流沿いに登山するツアーでは川の増水で下山できなくなるケースがしばしばあるため、事前に参加者に『日程を延期することがある』と説明をすることがあるが、今回のような縦走では、そうした説明はしていない」と話しています。

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今回の遭難で、ベテランのガイドたちは、余裕のないスケジュールを組んで、帰りの飛行機を予約し、ツアー客の着替えなどの荷物がすでに下山予定地の宿舎に送っていたこと。避難小屋には同じ会社の別のツアーが入ることになっていたこと、などが3人のガイドたちに避難小屋に留まったり引き返したりすることをためらわせたのではないか、と推測しています。

 

▼つぎにガイドの技量の問題です。

ツアーとガイドの増加に伴って天候の急変やトラブルにきちんと対処できないガイドも増えていると指摘されています。ガイドの資格について、日本山岳ガイド協会が認定制度を設けていますが、資格を持っていなければガイドができないわけではありません。さらに利用者から見てどのガイドや会社なら信頼できるのか、わかりにくい点も問題です。登山がさかんなヨーロッパの国々では、登山ガイドを国家検定にしたり、国が認定する制度を設けたりしています。安全についての最低限の技量を備えたガイドを育て、利用者からもわかりやすい仕組みを考える必要があります。

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【 参加者側の問題 】

一方、参加者側にも大きな課題があります。登山ブームのなか装備や山の知識など十分な準備のないまま、ガイドまかせ、ツアー会社まかせで参加する人が少なくありません。それをわかっていながら収益を優先して安易なツアーを組む旅行会社が増えていて、わがままな参加者と旅行会社の板挟みで、雇われの身のガイドが苦しい立場にたたされるケースもめずらしくないと言います。

登山をする以上、どんな山でも危険があり、自分の身を守る最低限の備えをするという当たり前のことを、参加する私たちも確認しなければならないと思います。

 

【 まとめ 】

ツアー登山をめぐっては、いわば構造的な問題を抱え、事故が繰り返されてきたにもかかわらず、抜本的な対策はとられてきませんでした。ベテランガイドのひとりは、今回の最悪の事故は「起こるべくして起きた遭難だ」と話しています。今回こそは教訓を生かして、しっかりとした対策が議論されることを望みたいと思います。

 

投稿者:松本 浩司 | 投稿時間:23:52

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