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時論公論 「シャープ 台湾メーカー傘下で再建へ」

関口 博之  解説委員

▽経営不振に陥っていたシャープが、台湾の大手電子機器メーカー、
ホンハイ精密工業の傘下で、再建を目指すことになりました。
これまでシャープの立て直しは、政府系ファンドの産業革新機構による
官主導での再編案が本命と見られていましたが、
どんでん返しとなった形です。

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▽シャープの高橋社長の会見は、ある意味、奇妙なものでした。
表向きは何も正式に決まったことはない、と繰り返しながら、その一方で、
「人員や時間などの資源をかけているのはホンハイとの協議の方だ」と述べ
こちらを優先する方針をにじませたのです。

▽そもそも、シャープの経営悪化はなぜ起きたのか、そこから見ていきます。
シャープといえば液晶テレビの「亀山モデル」です。
2004年に生産を始めた亀山工場は工場の名前がブランドになる程でした。
2007年度には過去最高の利益を挙げましたが、
好調は長続きしませんでした。
2009年、液晶事業を一気に拡大するため、大阪の堺工場が操業を始めますが、
結果的には、これが後れを取ったタイミングでの、しかも過大な投資となり、
経営の足を引っ張ることになりました。
2011年度と12年度には合わせて9000億円を超える赤字を出して、
経営危機に陥ります。
この時もホンハイとの提携交渉が行われましたし、
希望退職を募るなどリストラも行われました。
一方、このころから主力製品は、スマートフォン用の中小型の液晶パネルに
変わり、業績も一時、回復したのですが、それで逆に構造改革は先送りされてしまいました。
その後、液晶で韓国や中国メーカーとの競争が激化すると、経営危機が再発したのです。

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▽このシャープの苦境に、二つの支援の提案が出てきました。
一つは、産業革新機構の提案、
そしてもう一つが、台湾のホンハイ精密工業の提案です。

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▽政府系の投資ファンドである産業革新機構は、
3000億円をシャープに出資し、過半数の株式を取得するとともに、
主力銀行に総額3000億円あまりの金融支援を求める案を提示しました。 

▽一方、ホンハイは7000億円を超える支援額を示したとされます。
銀行への追加金融支援は求めない、
また事業売却はせず、雇用やブランドも維持すると提案していました。

▽このうち、産業革新機構が描いたのは、官主導での業界再編でした。
機構を所管する経済産業省も背後にいます。
機構はもともと日立・東芝・ソニーの液晶事業を統合した
ジャパンディスプレイの筆頭株主でもあります。
機構はシャープに出資した後、その液晶事業を分社化して、
将来的にはこのジャパンディスプレイと一つにする考えでした。
政府の影響力を使って、日の丸液晶メーカーを作ろうというわけです。
その大義名分は「技術流出の防止」。
シャープの液晶には画面が精細で、消費電力が少ないという独自の技術があります。
これが中国・台湾・韓国などの企業に流出するのを防ぐことに狙いがありました。

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▽当初はシャープ自身も、国が後ろ盾になるこの案に前向きでしたが、
一方では関係者の間でも、今の時代、日の丸連合にどれだけ意義があるのか、とか、
スマートフォンの画面を、アップルが今後は有機ELに換えていくと
表明している中で、液晶事業にどれだけの成長性があるのかなど、
疑問も呈されていました。
こうした中で、支援額を上積みしてきたホンハイの案に
シャープも傾いていったと見られています。

▽そのホンハイは、郭台銘(かくたいめい)会長が
1974年に台湾で創業した電子機器メーカーです。
EMSと呼ばれる、他社ブランドの製品を受託して生産する会社で、
売上高は15兆円という世界最大のEMSです。

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▽シャープにしてみれば、技術流出の恐れがあるという問題と、
ホンハイとの提携のメリットを天秤にかけた上での今回の判断だった
といえます。
ホンハイは、アイフォーンの生産を大口で受注していて、
アップルと強い取引関係があります。
また資金力も豊富で、シャープの将来の設備投資も可能になります。

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▽また、堺工場での協力関係の実績もありました。
シャープのお荷物になっていた堺工場は、その後、ホンハイが資金を出し、
合弁事業に切り替えられていました。
するとそこから業績が回復し、立て直しに成功したのでした。
この合弁会社でも、技術の流出という問題は起きたことはなく、
信頼関係が築かれてきたと、シャープでは説明しています。

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▽もっとも、ホンハイとの提携にもリスクがないわけではありません。
一つには、今はシャープの事業の売却はしないとしていますが、
これが将来にわたって守られるかどうか、懸念も残ります。
シャープには液晶以外にも、家電をはじめ、複写機、太陽光パネルなどの
事業があります。これらの切り売りが絶対ないとは言い切れません。
また、ホンハイは工場の多くを中国大陸に持ち、深い関係にあります。
台湾の政権が、中国と距離を置く民進党に変わったことが、
ホンハイのビジネスにどう影響するか、読み切れないところもあります。
こうした点には、冷静な分析も必要でしょう。

▽さてここで、シャープの再建のために、
この会社の強みは何かを改めて考えてみたいと思います。
シャープの液晶には、IGZOと呼ぶ先端技術が盛り込まれていて、
今後も様々に応用が効く技術だとされます。
しかし、これだけが競争力の元と考える専門家は多くありません。
むしろ、シャープには別の顔があります。それは「商品の企画力」です。
こちらは、シャープが近年出してきた商品で、
例えば、得意とするプラズマクラスターイオンの発生機。イオンの効果で、
除菌や消臭をする物ですが、それとLED照明を合体したのがこの製品です。
トイレなどの狭い場所でも、照明のソケットに取り付けるだけでいいので
便利というわけです。
全く新しい技術というわけではありませんが、アイデアの力です。
また、お茶のエスプレッソや、水を使わない調理鍋なども
次々に企画し、出してきました。
今までにないものを生み出す「構想力」とも言えます。

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▽こうしたシャープと、ホンハイが手を携えるとどうなるかです。
ホンハイは、明らかに工場、生産現場に強みを持っています。
製品をいかに安く作るかの技術に優れています。
全く性格の違う会社だが、組み合わせとしては、私は悪くないと思います。
異質なだけに、新たな相乗効果を生む可能性を秘めているとも言えるのです。
 
▽むしろ懸念材料は別のところにあるかもしれません。
シャープの再建策の協議は、産業革新機構との水面下での交渉など
数カ月にわたって続いてきました。 
経営上の最重要課題なだけに、昨日の四半期決算発表にあわせ、
機構案かホンハイの案か、会社側がどちらを選ぶのかの決定が示されるはず、
というのが大方の見方でした。
それなのに「最終決定は1カ月以内に出す」というのは拍子抜けでした。
これでは「決断できない経営」という印象を強めてしまっています。
社内の求心力も弱まり、社員の士気にも影響しかねません。
経営陣が時間を無駄使いせず、結論を早く出すこと、
これが最も必要なことのように思われます。

(関口 博之 解説委員)

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