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時論公論 「格安ツアーバス 安全をどう守るのか?」

二宮 徹  解説委員

長野県軽井沢町で、スキーツアーのバスが転落し、15人が亡くなった事故から1週間。バスは事故の直前、かなりのスピードを出していたことがわかりました。
また、運行会社や旅行会社が、運行管理や運賃契約などで法令違反をしていた実態が次々に明らかになっています。
格安ツアーバスの安全について考えます。

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<相当なスピードが出ていた>
国土交通省が公開した、事故現場の手前に設置していた監視カメラの映像によりますと、およそ1キロ手前、下り坂が始まるあたりでは、手前に向かって走るバスに変わった様子は見られません。
ところが、およそ250メートル手前の映像を見ると、奥に向かって下り坂になっているS字カーブをかなりのスピードで通り過ぎていました。制限速度の時速50キロを大きく超えていたと見られます。センターラインをはみ出し、車体も右に傾いていました。後ろにあるブレーキランプは点灯しているように見えます。
バスは、この直後、左側をガードレールにこすり、右側の道路下に転落したと見られます。

警察が車体を検証したところ、ブレーキに異常は見られず、ギアがニュートラルの状態になっていたということで、エンジンブレーキが効かず、ブレーキを踏んでも十分に減速できなかった可能性が考えられます。
最近は、運転手の動きなど車内の様子を記録するカメラが付いたバスやタクシーも増えていますが、このバスにはありませんでした。
スピードなどが記録された運行記録計を詳しく分析するなどして、早急に原因を究明する必要があります。

<運行会社のずさんな管理>
こうした中、バス運行会社・イーエスピーのずさんな管理の実態が次々に明らかになっています。

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運転手の健康状態やアルコールのチェックをする乗務前の点呼は、社長が遅刻して行ないませんでした。それに、運転手にルートや休憩場所を示す運行指示書を作らず、運転手の健康診断もしていないなど、いくつもの法令違反をしていました。
しかも、これらの違反は、去年2月の監査でも見つかり、事故の2日前に行政処分を受けたばかりでした。

つまり、事故の前から違反を指摘されていたのに改善せず、いわば無視をしていました。多くの乗客の安全を預かるバス会社として、絶対に許されない行為です。

<不慣れだった運転手>
法令違反以外にも安全を左右する、気になる点があります。運転手が大型バスの運転に不慣れだったことです。

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運転していた65歳の運転手は先月契約社員として入社したばかりで、前の勤務先では、主に昼間、マイクロバスなどで送迎する業務をしていました。会社も大型バスに不慣れだと知りながら採用し、2度の研修をしましたが、客を乗せての運行は今回で4回目でした。運転手は「大型バスは苦手だ」と話していたといいます。

大型バスは、圧縮空気を使ったエアブレーキの操作や、乗客が多く重い状態での運転感覚など、一定の経験や慣れが必要だといいます。
まして今回は深夜の峠道です。仮にブレーキに不具合があったとしても、早めにギアを下げてエンジンブレーキを効かせるなど、適切に対応できなかった可能性もあります。
ほかのバス会社でも、運転手の技量を確認し、教育を徹底させる必要があると思います。

<旅行会社も違法行為>
また、ツアーを発注した旅行会社にも問題がありました。

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旅行会社のキースツアーは、今回の運行をおよそ19万円で発注していました。国が定める基準の下限およそ26万円を大きく下回る違法な運賃です。
キースツアーは、ホームページで「格安」をうたっていました。今回のツアー料金は、1泊3日、バスとホテル、夕食に加え、リフト券やレンタル用具までついて、およそ1万3000円からという安さでした。
国の基準は、運行する距離や時間に応じて決まっています。4年前7人が死亡した関越自動車道のバス事故を教訓に、過当競争を抑え、安全にかかるコストを反映させるのが目的でしたが、それが守られていなかったのです。

<過熱する格安ツアーバス>
格安ツアーバスはスキーツアーだけではなく、東京―大阪2000円台など、長距離の移動や観光地巡りでも多く見られます。
格安ツアーバスが増えるきっかけは、平成12年に行われた規制緩和でした。

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貸し切りバスを運行する事業者数は、平成11年は2300社ほどでしたが、参入しやすいように規制が緩和された後、2倍近くに増えました。
関越道の事故の後、安全管理などの規制が強化され、最近は横ばいになっていますが、中国人など、バスで移動する外国人観光客の需要が増え、競争がいっそう過熱しているといいます。
格安ツアーが増える中で、運転手の人手不足や労働条件の悪化も目立ってきています。こうした中、今回の事故は、安全のための規制もコストも軽視する会社がある実態をあらわにしました。国は、これまで以上に強い決意と厳しい姿勢をもって、悪質な業者を排除すべきです。

<監査の実効性は?>
ただ、そのための具体策には課題があります。
私は、事故が起きる前に悪質な会社を見つけるには今の態勢では不十分だと考えます。
事故のあと、イーエスピーやキースツアーなどの監査や検査が行われています。
国土交通省は運行や健康の管理、観光庁と東京都が運賃、厚生労働省が労務管理、そして、警察が事故原因などを調べています。

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しかし、こうした態勢は、主に死亡事故や重大な違反が発覚した場合に限られます。通常は、国土交通省の運輸支局などが行う巡回監査が中心です。

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巡回監査は、監査官3人程度が会社に直接行き、運行や整備、健康管理や安全教育などの書類を細かくチェックします。貸し切りバスの事業者は、全国でおよそ4500社。これに対し、監査官は365人しかおらず、巡回監査は年間500社足らずにとどまっています。
しかも、監査はトラック会社やタクシー会社も対象で、合計およそ12万社にものぼります。このため、国土交通省は、ツアーバス、しかも過去に事故や違反をした会社を重点にしています。
しかし、悪質な会社を洗い出し、早く確実に改善させるには、監査官をもっと増員するほか、抜き打ち監査を増やし、処分も厳しくするなどして、監査の実効性を高めなければなりません。加えて、ほかの省庁や自治体との連携を緊密にして、悪質な業者を見逃すことがないようにするほか、参入の規制を再び厳しくすることも検討すべきだと思います。

<今度こそ安全の徹底を>
夢を抱いた多くの大学生が巻き込まれた今回の事故の教訓は、実は多くがすでに4年前、指摘されていたものです。事故の後も、東京や兵庫県、愛媛県でツアーバスの事故や蛇行運転があり、利用者に不安が広がっています。
今度こそ、バス会社や旅行会社に安全の意識と管理を徹底させなければなりません
国や業界には、格安料金をめぐる問題や監査態勢にも踏み込んだ再発防止策を打ち出すことが求められます。

(二宮 徹 解説委員)

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