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時論公論 「スキーバス転落事故 原因究明と再発防止を」

二宮 徹  解説委員

長距離バスの死亡事故がまた起きてしまいました。長野県軽井沢町で、スキーツアーの若者たちを乗せたバスが道路下に転落。死者14人と、この30年で最も死者の多いバス事故となりました。
国は、4年前、群馬県の関越自動車道で乗客7人が死亡した事故などを受けて、長距離バスの安全対策や運転手の健康管理などを強化してきましたが、事故を防ぐことはできませんでした。
長距離バスの安全と再発防止策について考えます。

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<事故の概要>
事故は、きのう午前2時ごろ、長野県軽井沢町の国道で起きました。スキーツアーの客を乗せたバスが、反対側のガードレールを乗り越え、道路の下に転落しました。乗っていた41人のうち、乗客12人と乗員2人の合わせて14人が死亡し、27人が病院に運ばれました。乗客の多くは大学生などの若者でした。

<考えられる原因は?>
これだけ多くの犠牲者が出たバスの事故は、昭和60年に長野市でスキーの貸し切りバスが
川に転落し、25人が死亡した事故以来で、この30年で最も死者の多いバス事故となりました。
詳しい事故の原因はまだ分かっていませんが、現場のカーブは緩やかで、当時、積雪や凍結はしていなかったと見られています。

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このため、事故の原因は、運転手の居眠りや急病、運転ミスやスピードの出し過ぎ、または、
ブレーキの故障などが考えられます。
また、バスは行程表に書かれた予定の上信越自動車道ではなく、一般道を走っていたことがわかっていますが、なぜ違うルートを走っていたのかはわかっていません。
それに、どれくらいの乗客がシートベルトをしていたか、運転手がシートベルトの義務を
乗客に伝えていたかどうかもわかっていません。

<過去にもバス事故相次ぐ>
こうした長距離バスの事故はここ数年も起きています。
平成24年4月には群馬県藤岡市の関越自動車道で、石川県から千葉県に向かっていたツアーバスが道路脇の壁に衝突し、乗客7人が死亡、38人がけがをしました。運転手の居眠り運転が事故の原因でした。
また、おととし3月、富山県の北陸自動車道で、サービスエリアで夜行バスがトラックに衝突し、2人が死亡、26人がけがをしました。この事故では、運転手が運転中に突然、病死した可能性があることがわかっています。

<これまでの国の対策>
これらの事故を受けて、国土交通省は長距離バスの安全基準を見直し、対策を強化していました。

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バスの運行会社だけでなく、ツアーを企画する旅行会社にも、運行するための国の許可を必要としたうえで、夜間、運転手が1人で乗務できる距離の上限を原則400キロに短縮し、超える場合は交代の運転手を乗せることを義務づけました。
また、運転中の病死や居眠りについては、運行会社が健康診断を行い、異常が見つかった場合には、精密検査や治療を受けさせるようにしました。

<今回の会社は?>
こうした中で、今回、事故を起こしたバスはどのように運行されていたのでしょうか。

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国土交通省によりますと、ツアーを企画したのは「キースツアー」という会社で、別の旅行会社「トラベルスタンドジャパン」が仲介してバスを手配しました。
実際にバスを運行していたのは、東京・羽村市に本社がある「イーエスピー」です。
事故を起こしたバスには、2人の運転手が乗り、運転経験は10年以上あったということです。また、2人は、乗車前の点呼で「健康状態に問題はない」と答え、アルコール検査も問題なかったほか、運行前の点検でタイヤなどにも異常はなかったということです。
しかし、「イーエスピー」の営業部長は報道陣の取材に対し、運転していた65歳の運転手について、「健康診断はこれまで1度も行っていなかった。来月に行う予定だった」「スキーのツアーバスの運行は初めてだったと思う」と話しました。

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さらに、「イーエスピー」は、去年2月の通常監査で複数の違反が見つかっていたことが明らかになっています。国土交通省によりますと、運転手13人のうち10人に、必要な健康診断を受けさせていなかったり、点呼の実施が不適切だったりしたほか、新たに採用した運転手に適性をチェックする必要な診断を受けさせていなかったということで、事故直前の今月13日、所有するバスのうち1台、20日間運行停止させる行政処分を受けています。
つまり、「イーエスピー」は、必要な健康診断を行うよう、すでに指摘されていたにもかかわらず、今回、死亡した運転手には健康診断を行わないまま、乗務させていたのです。

国土交通省の関東運輸局は、「イーエスピー」に対し、きのう特別監査に入りました。
運行管理や運転手の健康管理などについて詳しく調べています。
その中では、事故原因の究明に加えて、なぜ健康診断の違反を改善させられなかったのかなど、行政自らの問題も問い直す必要があります。

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<ソフト対策だけでなく、ハード対策も>
運行管理や健康管理の規制を強化しても、会社がきちんと守っていないのであれば、絵に描いた餅です。
バスの衝突事故を防ぐには、こうした規制を会社に徹底することが重要です。
さらに言えば、バスの安全性をより向上させるには乗務時間や健康管理といったソフト対策だけでは不十分で、車体そのものに安全対策を施すハード対策が求められています。

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まずは衝突そのものを防ぐ対策が有効だと考えます。
国土交通省は、おととしから新たに生産される12トンを超える大型バスは、衝突しそうになるとレーダーで感知し、自動でブレーキがかかる装置を設置するよう義務付けました。
国は自動車取得税の控除など、特例措置を設けて普及を促していて、おととし11月以降に発売された新型車種のほか、現在販売されている新車のバスにはすべて搭載されているということです。
しかし、街を走っているバスのほとんどを占める、販売済みの古いバスは対象外です。
このままでは、すべての長距離バスに自動ブレーキが設置されるのは、何年も先になってしまいます。

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また、国は、カメラで運転手の顔の向きやまぶたの動きを検知して、居眠りをしたり、急に意識を失ったりした際に警告する装置や、車が蛇行して車線をはみ出すのを防ぐ車線逸脱警報装置などの導入も進めています。
しかし、こうした装置も購入時にあらかじめ搭載されている新車のバスが中心です。
古いバスに後からでも取り付けられる機器を増やし、普及を早急に進めるべきです。

今回の事故は、バスの事故が大惨事につながることをあらためて突きつけました。
私たち乗客は、長距離バスに乗る際、必ずシートベルトを着けることを忘れてはいけません。
そして、国は、規制を会社がきちんと守っているかどうかを確実にチェックし、守っていない場合は、厳しい姿勢で改善させる必要があります。
ソフト対策とハード対策、いずれも、これまで以上に徹底した取り組みが求められています。

(二宮 徹 解説委員)

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