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時論公論スペシャル 「2016年の針路 日本は 世界は」

二村 伸  解説委員
島田 敏男  解説委員
関口 博之 解説委員 / 出石 直 解説委員 / 西川 吉郎 解説委員長)

西川:
2016年、日本そして世界は、今年どのような針路を取ろうとしているのか、どのような課題と向き合っていくのかを、政治、経済、国際情勢を担当するそれぞれの解説委員と考えていきます。今年の展望と課題をそれぞれ聞きます。
 
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島田:
安倍総理が政権の座に返り咲いてから3年を超えました。夏には参議院選挙が行われ、国民が安倍長期政権の是非を巡って評価を示す機会になります。18歳、19歳の人達の投票が可能になり、これが若い世代全体の政治に対する関心や参加の意欲を高めるものになってくれるのか。日本の将来を考える上で、大きな節目の年になると思います。

関口:
今年の経済のカギになるのは、アメリカの利上げと中国経済だと思います。
FRBの利上げは3カ月に1回くらいのペースならば穏当なところでしょう。中国は経済成長率で前年比6・5%程度を保てるかが一つの境目で、それを下回ると要注意、日本経済にも影響しそうです。

二村:
去年世界はテロの衝撃に揺れ続けましたが、今年はテロの脅威がより広い地域に拡散する恐れがあります。冷戦終結後、中東が混迷の度を深め、テロが頻発するようになったのはアメリカの力の低下と世界の秩序が崩れ始めていることをうかがわせています。
今年はアメリカ大統領選挙の年、アメリカが内向きになる一方、中国やロシアがどう出るのか、世界は流動化し日本の立ち位置が問われることになりそうです。

西川:
さて、去年末、慰安婦問題をめぐって大きな動きがありましたが、年末年始にかかりこの時間で取り上げることができませんでした。日本と韓国は慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決することで合意しました。まずこの問題について、出石解説委員に解説してもらいます。

出石:
合意のポイントは次の通りです。
 
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慰安婦問題は当時の軍の関与の下に行われたものとして日本政府としての責任を認め、安倍総理大臣が心からのおわびと反省の気持ちを表明する。韓国政府が設立する財団に日本政府の予算(10億円)を拠出し、元慰安婦の心の傷を癒す措置を講じる。両政府は、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。国際社会で互いに非難や批判を控える。さらに韓国政府は、ソウルの日本大使館前の少女像について「適切に解決されるよう努力する」としています。
双方が受け入れ可能なぎりぎりの妥協点を探ったもので、両国間の最大の懸案だった慰安婦問題を最終的に解決し、日韓関係の新たな時代を目指した意義ある成果と評価できます。

西川:
ではこれで、この問題は完全に解決に向かうと考えて良いのでしょうか?

出石:
残念ながらそうとは言い切れません。合意の解釈や運用次第では、いかようにも取られかねない危うさ、脆さをはらんでいるからです。

ひとつは「日本政府の責任」です。
韓国政府や支援団体は「法的な責任」を認めるよう求め、日本政府は1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決済み」と突っぱねてきました。合意ではただ単に「日本政府の責任」となっており、今後、日本政府が「法的な責任を認めたのかどうか」をめぐって、両国の受け止め方に齟齬が生じる怖れがあります。
もうひとつは、本当にこれで「最終的な解決」となったのか、再びこの問題が蒸し返されることはないのかという点です。
確かに両外相の発表では「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と明記されています。しかし、その文章の前段には「元慰安婦の心の傷を癒す措置を着実に実行する」という前提条件が付けられています。

西川:
以前、村山政権の時代にアジア女性基金が作られて償い事業が行われましたが、韓国側の反発もあって頓挫してしまいました。その繰り返しにならないかという不安も残りますね。

出石:
その点は、韓国政府が設立するとしている新たな基金でどのような措置が講じられ、それを元慰安婦の人達が受け入れてくれるのかどうかにかかっています。
また日本大使館前の少女像についても、合意では「関連団体との協議などを通じて、適切に解決されるよう努力する」という表現に留まっています。
日韓の合意内容や少女像の移転をめぐっては、すでに元慰安婦や支援団体、野党などから強い反発の声が上がっています。韓国ではことし4月に総選挙が予定されており与野党の対立はこれから一層激しくなります。韓国政府がこうした批判に耐えられるのかどうかが焦点です。

西川:島田さんは、日韓両政府の合意をどう捉えていますか?

島田:
私もボールは韓国の側にあると思います。今回の合意は「日本の国家賠償にしない」という点で、日本側の主張した基本原則に沿ったものでして、日本政府は韓国国内での合意受け入れが進むのを見守る立場です。議論のある問題ですが、元慰安婦の女性たちの癒しと支援を第一に考えることは、日本でも共通の了解にする必要があると思います。

<① テロと日本> 

西川:
それでは、「2016年の針路」、今年の主要な日程をさらっておきます。
 
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通常国会がきのうから始まっており、G7サミット、参議院選挙、世界ではG20サミット、アメリカ大統領選挙、そして今年末には軽減税率の財源確保をどうするか決めておかなければなりません。
去年の世界は、一言で言うと、テロに特徴づけられます。「テロと日本」テロにどう向き合うのかは、世界、そして日本にとっても喫緊の課題です。
この世界の状況をどのように見たらよいのか。

二村:
過激派組織IS・イスラミックステートをどこまで追い込むことができるか、今年はISとの戦いが重大な局面を迎えそうです。イラクでは年末に西部の要衝をISから奪還しましたが、ISの反撃は続いており、掃討作戦に弾みがつくのかまだ楽観できません。また、シリアでは空爆だけでは効果が限られ、今後地上軍による攻撃を求める声が強まることも予想されますが、そうなると住民の犠牲を伴い、報復攻撃も懸念されます。過激派の壊滅は難しく、テロのリスクはいぜん高いままです。

西川:ISの活動を抑え込むために不可欠なシリアの和平も容易ではなさそうですね。
 
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二村:
アサド政権を擁護するロシア・イランと、反政府勢力を支援する欧米やサウジアラビアなどとの対立の根は深く、代理戦争の様相を呈していますが、シーア派指導者の処刑を機に深まった地域大国のサウジアラビアとイランの対立は、スンニ派とシーア派の溝をさらに深め、シリアだけでなく中東全体の安定を脅かしかねません。バーレーンもイランと国交を断絶するなど影響が広がっています。またISを潰しても他の過激派が出てくるだけで世界のテロはなくならないでしょう。過激派の掃討は世界が結束できるかどうかにかかっていますが現実を見るかぎり悲観的にならざるをえません。

西川:日本もテロとは決して無縁ではない状況に置かれていますが?

島田:
5月の伊勢志摩サミットに向けて、テロリストに対する警戒は現実の課題になってきます。日本は島国で、しかも外国人の国内滞在に対し厳しい制限を加えています。
それが結果として水際でのテロリストの侵入阻止にプラスになっている面があります。
一方で気をつけなくてはならないのは、日本国内でISに呼応するようなホームグローンテロリストを生まないようにすることです。日本社会の中の貧困と格差を解消して行かないと、この国の中で新たなテロリストを生み出しかねません。人口減少時代と向き合う日本にとって、政治家が真剣に取り組まなくてはいけない課題です。

西川:また、いわゆる「テロとの戦い」に日本としてできることは?

二村:
「テロとの戦い」は軍事作戦だけでは成功しません。テロを生みだしている格差や差別・偏見、政治腐敗をなくすことが先決であり、それこそ日本が貢献できる分野です。今こそ紛争終結や平和構築といった政治的な関与や、難民支援など日本ができる貢献策を世界にアピールするときです。難民受け入れも日本だけが拒み続けることはできないと思います。国際社会から強い圧力がかかる前に数は少しでも受け入れる姿勢を示すほうが評価が得られると思います。
 
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島田:
伊勢志摩サミットでも大きな議題の一つになるでしょう。貧困と格差が存在する限り、テロは無くならないでしょう。従って、情報収集と力による取り締まりは必要です。しかし、日本をはじめ先進国は自らの内部に存在する格差の解消、そして先進国と発展途上国の間の格差を埋めるための支援の努力が欠かせないと思います。これをどこまで具体化できるか。サミットの議長を務める安倍総理にとって、決して楽ではない世界史的な課題です。

<② 経済動向> 

西川:次に、経済の動向についても、世界の大きな流れの中で見ていきましょう。
世界と日本の経済動向は、今年どのように関わりあいながら展開していくのでしょうか。
 
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関口:
日本経済は今年も「低空飛行」が続く見込みです。政府経済見通しの実質成長率は15年度の1.2%から、16年度は1.7%に若干上がる程度です。企業収益が高水準な割に賃金や設備投資にお金が回らない状況や、円安でも輸出が思うように増えない構図は、変わらないでしょう。焦点の賃上げですが、連合は去年の春闘の「ベア2%以上」から今年は「2%程度」としていて要求自体が控えめです。経営側も、ベアに拘らず定昇やボーナスも含めた年収ベースで考えると言っています。中小企業や非正規の賃上げにどう繋げるか、という課題も残ります。

西川:どうして企業は慎重姿勢を崩さないのでしょう?

関口:
世界経済の不透明さが背景にあります。「低空飛行」で十分な高度がない分、世界経済の変調があれば、すぐにでもマイナス成長にも陥りかねないのです。アメリカのFRBが利上げに踏み切ったのは、順調に景気が回復しているからで、薄日が差してきたとも言えるわけですが、利上げのテンポが速すぎると、世界的なマネーの動きにも懸念が出てきます。

もう一つのリスクが中国経済の減速です。政府が政策的に支える以上、直ちに失速ということはないでしょうが、過剰設備や過剰債務といった構造問題は先送りされたままですので、将来、大きな調整が起こりうることは意識しておく必要があります。

また、中国の減速は原油価格の下落にも繋がっていて、これが、資源の輸出に頼る新興国には打撃になっています。原油安は普通、日本など消費国にはメリットですが、ここまで来ると逆にリスクでもある、というのが今年の状況です。さらに、東京、上海、欧州そしてニューヨークと株が値下がりし、年明けの世界の株式市場が軒並み波乱の幕開けになっているのも、気になるところです。 

西川:世界には、今の指摘以外にも、経済を不安定にしかねない要因がまだまだありますね。

二村:
今年世界で大きなリスクを抱えている地域は中東とヨーロッパだと言われます。ヨーロッパはウクライナやシリアをめぐってロシアと対立し、ギリシャの財政危機も完全に解消されたわけではありません。また、ヨーロッパでは極右やナショナリズムが高まり社会の分断が進み、イギリスでは今年EU離脱の是非を問う国民投票行われる可能性があります。EUの求心力がさらに低下すれば日本への影響も小さくありません。

西川:安倍総理にとっても、経済のかじ取りは難しくなっている印象です。

島田:
世界経済の動向を読みづらいのは確かです。そういう中で、安倍内閣が進める新3本の矢の政策目標も、物価上昇⇒消費拡大⇒賃金引き上げの好循環の実現には直結しないのではないかという厳しい見方は経済界にもありますよね。
 
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西川:アベノミクスの成否はどの辺にかかっているのでしょうか?

関口:
“一億総活躍社会”を掲げた新三本の矢は、少子高齢化に向き合う意味で正しい政策課題ではありますが、一つの政権の目標としては、手を拡げすぎではないでしょうか。
来年度予算では、保育士の待遇改善や、子供の多い世帯の児童扶養手当の拡充、介護施設の整備加速、介護休業を取りやすくする対策などを盛り込みました。きめ細かいともいえますが、やはり小寄せ集めの感じは否めません。

最初の3本の矢の成長戦略が、そもそも実現できていないのです。今の日本には潜在成長率を引き上げることが不可欠です。そのためのイノベーションや投資の拡大、サービス産業の生産性向上などに注力すべきです。地方創生だってまだやりかけですし。
これらを実行して初めて、先ほどの飛行機の「高度」を高くできるのです。今一度、成長戦略に立ちかえるべきではないでしょうか。

<③ 参院選の焦点は?>  

西川:さて、国内の政治の動きを見ていきます。夏に行われる参議院選挙、その焦点は何か、きのうからはすでに通常国会が始ました。この国会の与野党の攻防を通じて参院議員選挙に向ける国会の動きなどを考えていきます。
大論戦となった安全保障関連法は、今年も尾を引くことになりそうですね。

島田:
自民・公明の連立政権は去年9月に安全保障関連法を成立させ、その後は「再び経済の活性化を掲げて選挙に勝利しよう」という声が専らです。緩やかながらも明日の方が豊かになるというメッセージこそが勝利の方程式だという考え方です。
これを国民がどう受け止めるかが注目点になります。経済優先を一番に掲げて2012年衆院選、2013年参院選、2014年衆院選で3連勝した安倍政権が、その選挙の結果で得た力によって安全保障政策の大転換を図った。その政治手法に納得していない国民は少なくないと思います。
 
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西川:参院選に向けて野党側はどのように国民を引き付けようとしているのですか?

島田:
安全保障関連法について、民主党は憲法違反の部分を白紙に戻す見直しを主張し、共産党は戦争法だとしてすべて撤回を主張。これを掲げて参議院選挙を戦うわけですが、経済の活性化を掲げる与党側に対抗して、いわば決定的な得点源にできるかは未知数。安全保障関連法の中には、グレーゾーン事態に対する備えを強化するという専守防衛にとって当然必要な部分もあります。とかく独自性の発揮に拘りがちな野党各党の間で、安全保障関連法の具体的な見直しについて、どこまで足並みを揃えることができるかが課題です。

西川:その野党陣営に対して、安倍政権の側も働きかけを強めているようですね?

島田:
安倍政権の特徴は野党勢力の分断に熱心なこと。年末にも安倍総理・菅官房長官が橋下前大阪市長、松井大阪府知事と3時間にわたって食事を共にしながら会談しました。民主党と維新の党が統一会派を組んで連携するのに対し、おおさか維新の会を引き寄せ野党陣営の分断を図ろうとしているのが透けて見えるという受け止めが多いです。
民主党、維新の党、そして柔軟姿勢に転じている共産党などの連携が焦点になります。

西川:経済政策をめぐっては、国会の焦点は軽減税率でしょうか?
 
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関口:
消費税の再増税は来年2017年4月です。軽減税率もそれにあわせて導入されることになりました。消費税再増税は「景気弾力条項」も外されていますので、実施することが前提ではありますが、景気が極端に悪くなれば再延期の可能性もゼロではありません。 

一方、軽減税率については財源がまだ決まっていません。この財源をどうねん出するのか、議論は難航が必至です。事業者の準備も本当に間に合うのかどうか、という問題もあります。さらに、増税前の駆け込み需要とその反動減という問題を、どう抑えるかという課題もあるのです。結局、2016年は日本経済が増税に耐えられる体力回復ができるかどうかが、問われることになりそうです。

西川:この軽減税率、財政を圧迫、特に社会保障にしわ寄せがいくことが心配されます。その辺の議論は、どのように?

島田:
一億総活躍社会の実現で掲げている内容は適切な課題設定だと思います。ただ、財源をどうするか。年金・医療・介護・子育ての社会保障制度の持続可能性を保つには、無駄をなくすことと同時に、国民に対し我慢を求めることも必要です。特にある程度の余裕のある中高年世代に対し、次の世代のために負担を増やし、給付を圧縮することに理解と協力を得る努力は必要です。それに手をつけなければ「目先の政治、足元だけの政治」のそしりは免れないでしょう。

西川:参議院選挙とあわせて衆議院選も行う同日選挙の可能性についても指摘が出てきている。可能性はどの程度ありそうか?

島田:
どの程度かというのは難しい問題ですね。けさの年頭記者会見で、安倍総理は「衆議院の解散は全く考えていません」と述べていました。
 
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しかしこの発言は、「今は考えていませんが、衆参両院で大勝利できそうな状況になれば考えます」という意味に聞いておく必要があるでしょう。
衆議院を解散して同日選挙にすれば勝てるということではなくて、勝てそうならばやるということです。解散権を持つ総理大臣にとって、同日選挙の可能性というカードは常に手元に置きたいというのが本音です。

<④ 国際情勢と日本の外交> 

西川:これからは、「国際情勢と日本外交」を見ていきます。国際情勢を考えるとき、アメリカ大統領選挙が軸になるでしょう。米大統領選の日程や日本への影響は?
 
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二村:
アメリカ大統領選挙は今年の世界の最大の関心事です。11月の選挙に向けて、来月1日には早くもアイオワ州で民主・共和両党の候補者選びが始まり、3月には多くの州で候補者選びが重なるスーパーチューズデーを迎えます。新政権が決まるまでアメリカは内向きに、また各国は様子見の状態が続くことになりそうです。
今のところ民主党はクリントン本国務長官が有力で、共和党はトランプ氏が支持率でトップに立っています。移民排斥を掲げるポピュリストのトランプ氏が支持率を得ているのは、アメリカ社会の分断と政治不信を反映しています。新政権は弱腰と批判されたオバマ政権より外交面で強硬路線をとるのではないかといった指摘もあります。

西川:現在日米関係はどういう状態と言え、また、選挙戦をどのように受け止めているのでしょうか?

島田:
議論が渦巻きながらも安全保障関連法を成立させたことで、安倍政権に対するアメリカ政府の信頼は増した形です。民主党オバマ政権がリバランスと言いながら日本周辺への関与に積極的でなかったのを引きとめたことが変化を生んだ面があります。しかし、共和党内でトランプ氏のような「極端なアメリカ中心主義」の考え方の人物が台頭し、人気を博していること自体を危惧する人が、日米関係筋でも少なくありません。

西川:今や世界の二強とも言えるアメリカと中国の関係はどのように展開しそうでしょうか?南シナ海での緊張の行方は?

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二村:
アメリカの選挙の間も中国は拡張主義を続けるのか、選挙戦で批判の的にされないようおとなしくしているのではないかという専門家もいますが、南シナ海では2日も、南沙・スプラトリー諸島の人工島で中国が試験飛行するなど実効支配を強める動きはいぜん活発です、1日にはベトナム漁船が中国船から体当たりされる事件も起きました。米中ともに南シナ海でことを構えるつもりはなくけん制しあっていますが、中国の軍の一部が暴走すれば不測の事態を招きかねないだけに、習近平政権がどこまで軍をおさえているか慎重に見極める必要があります。日本も東アジアの新たな緊張を生まないよう慎重な外交が求められます。

西川:日本は米中のはざまでどうする?
 
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島田:
尖閣諸島周辺の東シナ海は日本自身の防衛の課題です。これに対し南シナ海は、それとは一線を画す国際社会の秩序維持の課題です。アメリカも「南シナ海での航行の自由作戦は、アメリカが単独で行うレベルの行動だ」としています。アメリカ軍と自衛隊の関係者の中には日米の共同行動を南シナ海にも拡大すべきという意見もありますが、東シナ海の問題と南シナ海の問題の間に一線を画すのはシビリアンコントロールの課題です。国民が注目すべき点がそこにあります。

西川:そして、ロシアとどう向き合うかも悩ましいところです。

二村:
ロシアとの関係も注目されます。日本は安倍総理大臣のロシア訪問、あるいはプーチン大統領訪日の実現をめざしていますが、過度のロシア接近を望まない欧米諸国への配慮も必要です。どのような距離感を持って接するのか、G7議長国としての力量、まさに外交力が問われる年でもあります。

西川:
TPPは2月にも署名式が行われ、交渉が正式に終結する見通しも出てきていますが、アメリカの承認の手続きが取られない限り、発効しません。この展開は?

関口:
2015年を振り返れば、TPPの大筋合意と、2020年以降の地球温暖化防止に合意した「パリ協定」が、国際社会の大きな外交成果でした。日本は今年のG7サミット議長国として、この二つのモメンタムをしっかり引き継ぐことが大事です。アメリカがTPPの批准に向かえるような働きかけにも努めるべきでしょう。

西川:日本に戻ってみると、日中関係改善に今年は期待がかかっています。

二村:
両国関係は「冷凍」状態、凍りついた状態から、「解凍」状態に入ったところです。「常温」関係まではまだ時間がかかりそうで、経済面での協力、民間レベルの交流の強化が今後の鍵です。日本としては東アジアの経済統合を進める上で中国を孤立させるのでなく取り込むことが日本の利益にもつながります。
また、年末にはASEAN10か国の経済共同体が発足しましたが、東南アジアで中国と量で競争するのでなく日本ならではの支援を通じてASEANの統合を後押ししていくことが日本のプレゼンスを高め、信頼獲得につながると思います。


西川:さて、最後に少し先にも目を向けたい。この先には、2020の東京オリンピック・パラリンピックが待ち受けています。これに向けて、大切なことは何でしょう。

島田:
大事なことは日本が世界中の国々から信頼される国であることです。そのためには、国立競技場の建設をはじめとする舞台づくりの準備に失敗は許されません。国も東京都も組織委員会も競技団体も、知恵を絞ってベストを尽くす1年になります。

関口:
もう一つ、2020年に向けて忘れてはならないのが震災復興です。オリンピック招致は震災からの復興を世界に示すためでもあるのです。震災から5年になり、集中復興期間から新たな段階、復興創生期間に移ります。長期避難を続けている人たちの心のケアや、住宅再建、そして被災者の「なりわい」を建て直すこと 更に原発被害からの再生、これらに重点的に取り組んでこそ2020年に意義あるオリンピックを迎えられると思います。   

西川:
オリンピック・パラリンピックに向けて、去年は、競技場、エンブレムと白紙撤回が続いただけに、今年は、新しいエンブレムが決まり、新国立競技場の建設が始まるなど、再スタートといった形になりそうです。
 
(西川 吉郎 解説委員長 / 島田 敏男 解説委員 / 二村 伸 解説委員 / 関口 博之 解説委員 / 出石 直 解説委員)

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