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時論公論 「初の"水爆実験" 北朝鮮の狙いは」

出石 直  解説委員

北朝鮮は6日、初めての水爆実験に成功したと発表しました。北朝鮮の核実験は2013年2月に続いて4回目ですが水爆実験成功がもし事実であれば初めてのことで、北朝鮮の核による脅威は格段に増したことになります。北朝鮮の狙いと国際社会の対応についてお伝えします。
 
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北朝鮮が「特別重大報道」として伝えた水爆実験成功のニュース、私は「やはり」と「まさか」が交錯した気持ちで受け止めました。
 
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「やはり」と言いますのは、北朝鮮はことし5月に党の最高指導機関である党大会を36年ぶりに開催します。国威を発揚する絶好の機会であり、これに合わせて核実験や弾道ミサイル発射を行う可能性は多くの専門家が指摘していました。
また核開発を続けている以上、実験を繰り返してデータを収集し検証を重ねていく必要があります。北朝鮮は初めての核実験以降、3年から4年間隔で核実験を行っており、今回の事態はある程度予測できたと言うこともできます。

ただその一方で、韓国や中国との関係改善の兆しも見られましたし、5月の党大会にはロシアや中国など海外から要人を招く必要があることから、それまでは融和的な姿勢を装うのではないかという見方もありました。
 
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また過去3回の核実験は弾道ミサイルの発射といわばセットの形で行われており、今回の実験はかなり唐突だったという印象も否めません。

もうひとつの驚きは原爆ではなく、水爆実験だとしている点です。
 
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過去3回の核実験は核分裂を利用したものと見られていますが、もし水爆実験に成功したことが事実であれば、核融合の技術も獲得したことになります。爆発のエネルギーもはるかに大きい破壊力を手にしたことになり、その脅威は一段と増したと考えざるを得ません。
北朝鮮はヨンビョンにあるウラン濃縮施設や原子炉などすべての核施設を再稼働させたことを明らかにしており、核兵器に利用可能な濃縮ウランやプルトニウムをかなりの量、蓄積しているものと推定されています。まだ詳細な分析と見極めが必要ですが、原爆に続いて水素爆弾の開発にまで成功したとしますと、北朝鮮が声高に繰り返してきた「最先端の多様な軍事手段」を手にしつつあることになります。極めて深刻な事態です。

では北朝鮮はなぜこの時期に核実験に踏み切ったのでしょうか。
あす8日のキム・ジョンウン第1書記の誕生日を意識したという見方もありますが、もう少し大局的に、軍事的な側面と政治的な側面から考える必要があると思います。
 
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まず軍事的な側面です。北朝鮮は2012年4月に憲法を改正し自分達は核保有国だと宣言しました。翌年には「小型・軽量化に成功した」と発表しています。去年5月には「潜水艦からの弾道ミサイルの発射実験に成功した」とする報道があり、12月にはキム・ジョンウン第1書記自ら水爆開発に初めて言及しました。小型で軽量化されより破壊力のある核弾頭と、射程の長い弾道ミサイルというふたつの兵器をともに開発することで、北朝鮮が最大の脅威と捉えているアメリカをも核攻撃できる軍事力を身につける、こうした核戦略がいよいよ最終段階に近づいてきているということではないでしょうか。
 
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もうひとつは政治的な側面です。父親の死を受けてキム・ジョンウン第1書記が最高指導者となってから4年が過ぎました。若くて経験の乏しいキム・ジョンウン氏を側近達が支える体制が続くのではないかという当初の予測は見事にはずれました。党や軍の幹部を次々に粛清して独裁体制の基盤を着実に固めています。

2013年3月には核開発と経済発展を同時に行うという「並進路線」という新たな戦略も打ち出しました。国際社会からの厳しい制裁にも関わらず、経済や人々の暮らし向きはピョンヤンなど都市部を中心に緩やかながらも上向いてきていると言われています。36年ぶりに党大会を開くのも、自らの政権運営に対する自信の表れとみられています。

かつて北朝鮮の核・ミサイル開発は、国際社会からの譲歩を引き出すためのいわゆる「瀬戸際外交」の道具という見方がされていました。しかし、核開発が最終段階に入ってきた今、核やミサイルはもはや政治的な取引の材料ではなく、軍事戦略そのものと理解すべきではないでしょうか。このところ北朝鮮はアメリカに対し平和協定の締結、つまり現在の休戦状態を完全に終わらせるための交渉に応じるよう執拗に求めています。それも核保有国どうし対等な立場での交渉であって、かつてのように核の放棄をちらつかせたものではありません。核保有を既成事実化しようとしているのです。

水爆であれ原爆であれ今回の実験が、国連安保理決議に違反することは明らかです。
 
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前回の核実験の後に採択された2094号決議では北朝鮮の核実験を「もっとも強い表現で非難する」としたうで、核やミサイル開発に関連する「人、物、金」の流れを厳しく規制し、加盟国に履行を義務付けています。再三の警告を無視したことに業を煮やした措置でしたが、今回はさらに厳しい対応が取られることは確実です。ただ北朝鮮は、こうした国際社会からの非難、制裁の強化は当然、織り込み済みのことでしょう。北朝鮮の非核化を目指していた6か国協議は7年以上も開かれていません。北朝鮮との安易な取引には応じないというオバマ政権の「戦略的忍耐」と呼ばれる外交戦略も結果的には何ら成果をあげることはできませんでした。ここまで北朝鮮の核開発を許してしまったのは、国際社会の危機意識が薄かったからと認めざるを得ません。
 
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日本にとってもっとも懸念されるのは拉致問題への影響です。北朝鮮が拉致被害者を含むすべての日本人について再調査を行うことを約束したのを受けて、日本政府はおととし独自に科していた制裁の一部を解除しています。しかしいまだに北朝鮮からは何の報告もありません。今回の水爆実験発表を受けて、菅官房長官も制裁の強化を検討する考えを示しています。残念ながら拉致問題をめぐる日朝間の対話は相当期間、閉ざされることは確実です。

日本は今月から国連安全保障理事会の非常任理事国になりました。まずは北朝鮮の核開発が新たな段階に入ったという事実を真摯に受け止め、各国と危機感を共有することが重要です。その上で、間もなく始まる安保理での協議で主導的な役割を果たし、より効果のある制裁決議の採択を急ぐべきと考えます。
 
(出石 直 解説委員)

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