2007年03月23日 (金)時論公論・原爆症認定 敗訴続く国側
きょうのC型肝炎訴訟など国の厚生行政を問う裁判の判決が続いていますが、広島や長崎で被爆した人たちが、自分たちのがんなどの病気を原爆症と認定してほしいと求めていた裁判で、きのう東京地方裁判所が被爆者の訴えを認める判決を言い渡しました。判決の持つ意味について考えたいと思います
「原告勝訴」と張り出された判決直後の記者会見場には、勝訴を感じさせるようなあふれる笑顔は見られませんでした。というのも、訴えていた30人のうち訴えが認められたのが全員ではなく、21人にとどまったからです。加えて、これまでに11人が亡くなり、この日を迎えることができませんでした。原告の一人は「個別に判断が分かれたのは残念だが、国には勝ち続けている。からだが不調な分、せめて気持ちで負けないようにしなくては」と自分に言い聞かせるように話していました。
被爆者健康手帳を持つ人は26万人近く。これに対して、原爆症、放射線による影響で病気や障害の治療が必要と認定された人は2280人。被爆者全体の1%にも満たないのが現状です。というのは、直接の被爆以外は原爆症とは認められないとする国の基準によって、認定を申請しても却下されるケースが相次いでいるからです。原爆症と認定されますと毎月13万7千円あまりの医療特別手当が支給されることになっています。
原爆被害の国による補償は、13年前に被爆者援護法ができて、被爆者健康手帳を持つ人に対して無料の健康診断や指定医療機関での診療、それに月3万円あまりの健康管理手当を受けられるなどの救済が行われました。しかし、全国の被爆者でつくる日本被団協・日本原水爆被害者団体協議会は、直接の国家補償制度になっていないとして、改善を求める活動を進めてきました。こうした中、被爆者の平均年齢が73歳と高齢化が一段と進み、がんや白血病などの病気を発症する人たちが増えています。とりわけ、爆心地から遠く離れた場所で被爆したり、肉親を探したりするため、あるいは被害者の救援に当たったりするためにあとから被爆地に入った人たちの中に、年を経て体調を崩す人が少なくありません。最近の研究で、爆心地近くの塵や水に残された放射線がからだに取り込まれた結果、からだの中が被爆した状態になる「体内被爆」の影響とされるようになっています。
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申請が却下されたのを不服とする人たちが、日本被団協の呼びかけに応じて、4年前から各地で集団訴訟を起こしています。訴えを起こした人は全国22の都道府県合わせて229人にのぼっています。
訴えに対し、国は「被爆者援護法に基づいて広く健康管理手当を支給しているのだから、原爆症の認定は科学的に、厳格に行なうのは当然だ」と主張しています。これに対して原告たちは「近距離で直接被爆したことだけが原爆症と認定され、遠距離の被ばくが却下されるのは納得がいかない」と争ってきました。
今回の判決で、東京地方裁判所は「国の認定基準は爆心地から離れて被爆した人たちが受けた放射線の影響を過小評価している可能性があり、機械的に当てはめて判断すべきではない。科学的な根拠をあまりに厳密に求めることは被爆者の救済を目的とする原爆症の認定制度の趣旨にも合わない」と国の主張を退け、21人について原爆症と認めるよう国に命じました。しかし、9人については、被爆直後に明らかな症状がみられなかったことなどを理由に被爆が原因とは認められないと訴えを退けました。
原告側は国に控訴を断念するように求めていますが、厚生労働省は「今後の対応については、関係省庁とも協議し検討したい」とコメントしています。一連の集団訴訟では、去年5月の大阪訴訟以来、広島、名古屋、仙台と被爆者の訴えを認める判決が続いています。国からしますと5回連続の敗訴です。そうした意味で、判決は原爆被害者の救済についての国の対応について、司法の立場から見直しを迫るものと言えます。しかし、これまでの3つの判決に対して、国は控訴して争っています。
それにしても高齢で病気に苦しむ人たちがどうして大変な苦労を背負い込んでまで裁判に訴えているのでしょうか?
弁護団は3つあげています。![]()
▽一つは、高齢になったことで病状がますます抜き差しならなくなってきたこと。残りの人生を考えると最後の機会ととらえているというのです。
▽二つめは、時がたって自分の病気を隠す必要がなくなったから。こどもたちが成人して、結婚や就職で差別を受ける心配が少なくなってきたことがあります。
▽三つめは、北朝鮮による核開発の問題など核兵器使用の現実感が増してきていること。国際的な緊張が高まり、核兵器の使用が遠い国のできごととは思えないような状況になった。被爆者として黙っているわけにはいかないという焦燥感です。被爆体験を過去のこととして埋もれさせたくないという思いがあるのです。
行政が変わらないのなら、ハンセン病のときと同じように政治的な救済をめざすべきではないかという党派を超えた新たな動きが国会で出始めています。これまで野党中心だった取り組みから与党の間でも、ことしの1月には自民党の有志議員30人が議員懇談会を設立し、内閣に救済の実現を求める働きかけを始めています。病気で苦しんでいる被爆者が目の前にいるのに国が支援しないのは人道上問題だと主張しています。
しかし、道のりはたやすいものではありません。議員懇談会は、2つの課題をあげています。
一つは、戦時中に被害を受けた人たちの間にある「同じように空襲の被害を受けたのになぜ原爆被害者の救済を優先しなくてはならないのか」という不公平感です。これに対しては、時間が経過してもなお苦しんでいる、むしろ時間が経過したからこそ発症する人たちがいる放射線被害の特殊性を配慮すべきだとしています。もう一つは、国の財政的な理由です。健康に対する手当の支給となりますと、継続性が求められます。見舞金や一時金といったものとは違い財政負担が大きすぎるという問題です。これに対しては、命にかかわるような重い症状に苦しんでいる人たちの救済であり、永久に財政負担が続くわけではない、国の財政能力なら可能だとしています。こうした政治的な救済を求める動きがどこまで安倍総理の心を動かすことになるのか。総理の決断が今後の焦点です。
今回の原告の一人は、今、10分も立っていると足がしびれる症状に悩まされていると言います。しかし、「辛いと言っていると気持ちが塞ぐ。同じように病気を抱えている近所の仲間を外に誘い出すようにしている。せめてそうでもしないと家に閉じこもってしまうから」と話してくれました。この先、最高裁までの闘いとなると残された時間はそうはありません。
投稿者:早川 信夫 | 投稿時間:23:57
