解説アーカイブス これまでの解説記事

時論公論

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

時論公論 「福島原発の廃炉へ 人材育成を急げ」

水野 倫之  解説委員

福島第一原発では汚染地下水の海への流出を防ぐ遮水壁が完成するなど、汚染水対策がようやく進み始めている一方で建屋内部は手つかずの部分が多く、溶けた燃料の取り出しに向けた調査は難航。東電は、爆発を免れた2号機も建屋上部を解体する方針を明らかに。今後取り出し器具の開発など革新的な技術が必要で、専門性が高い人材が不可欠だが、その育成現場では今、学生の原子力離れなど深刻な事態が起きている。
今夜の時論公論は廃炉を進める人材育成の課題について水野倫之解説委員。

j151128_00mado.jpg

40年かかるとされる廃炉、2021年に溶けた燃料の取り出しを始めることが当面の最大の目標。

j151128_01.jpg

今月、福島第一原発を取材。
前回に比べて進んでいたのは汚染水対策。切り札の一つ、汚染地下水の海への流出を防ぐ遮水壁が完成。港湾内に780mにわたって鋼鉄製の支柱。東電は放射性物質の流出は40分の1に減ると試算。
実際取材した時、壁の内側には地下水が溜まっており、その水位は海水面よりも高く、遮水効果が出ているようにも見えた。
壁近くの海水の放射能濃度はβ線を出す物質で今月に入って10分の1まで減ったということだが、効果を見極めるにはまだ数か月は監視を続ける必要。

流出対策が進んだ一方で、地下水が建屋へ流入して溶けた燃料に触れてできる汚染水の発生は続いており、東電は当面タンクにため続ける方針。
この日も完成した大型タンクが港で陸揚げ。1基が3、4日でいっぱいになり、敷地内は1000基を超えるタンク。
溶けた燃料を取り出さない限り、汚染水の発生を完全に無くすことは難しい。

その溶けた燃料の取り出しに向け、建屋での作業はどうか。敷地の放射線量が下がっていることから、今回建屋近くを歩いて取材することが許された。
とはいっても3号機前では毎時300μSv超。いまだ壁の鉄筋などもむき出しになっており、放射性物質が飛散しないようクレーンで薬剤を撒く作業。作業員も被ばくを防ぐためコンクリート製のブロックの中に退避して指示。
建屋周りでさえこうした状況のため、格納容器内のロボットによる調査は難航。1号機で一部行われたが、2、3号機は建屋内の除染が進まずロボット投入は遅れており、溶けた燃料の状態は全く分かっていない。

今後調査を加速するためには、新しい技術を次々と開発していかなければならず、欠かせないのが原子力を中心とした専門性を持った人材。今、その育成現場で深刻な問題。
学生の原子力離れ。

j151128_02_1.jpg

大学の原子力関連の学科や専攻に進学する学生はこの20年で半分以下の300人にまで落ち込んだ。国内外の事故の影響で関連学科が減ったことが影響か。
そして福島の事故後は原子力関連の仕事に就こうという学生が激減。原子力関連企業が毎年合同で開いている就職説明会の参加者は5分の1に減。業界団体では原子力の将来性への不安があると見る。

j151128_03_1.jpg

さらに教育の現場では一層原子力離れを招きかねない事態も。
国内に2か所しかない大学の教育用の研究炉が事故後に強化された基準の審査で止まったまま。
そのうちの一つ、去年2月から停止中の近畿大学の研究炉を取材。
階段を上った最上部が炉心です。ケースの中に板状に見えるのがウラン燃料。12体で出力は1ワット、冷却設備は必要ない。しかし審査では原発並みの地震想定を求められ、審査に対応できる職員は5人しかおらず時間がかかっており、再開のメドは立たず。
事故以前は9つの大学の学生が実習を行い、核分裂が安定して続く臨界を体験。しかし今、学生は講義が中心で、原子炉の脇で放射線測定器を使った実習を細々と行う。
担当准教授
「直接原子炉を運転する実験をしますので緊張感が全然違いますし、そういう意味では理論だけではわからないものを体験できるのがいいところだがそれができないところが残念だ。」

実習の場がなく危機感を募らせた大学は、学生たちを韓国の研究炉で実習。また先月、東電の協力も得て初めて福島第一原発の廃炉の現場を視察た。学生たちはタンクの多さに圧倒され、座席から身を乗り出して建屋周りの様子を確認。学生の一人は「廃炉作業の困難さが実感でき、役立つような技術を身につけたい」と話していた。

福島第一原発の廃炉はもちろんだが、日本が今後仮に原発を推進しない政策をとったとしても、老朽原発の廃炉や廃棄物の処分など、難しい技術開発を続けていかなければならず、数10年は専門性を持った人材が必要大学だけの取り組みには限界があり、政府の全面的な支援が必要。

j151128_04.jpg

まず、実習の場となる研究炉については、審査を甘くするわけにはいかない。、国には原子力機構などほかに研究炉を持つ機関もあるわけでそこから技術者を派遣したりメーカーのOBを雇って派遣するなど、審査対応の支援を充実させていく必要。

そしてさらに長期間にわたって人材を確保していけるよう国としての戦略も必要。

j151128_05.jpg

特に今後溶けた燃料の取り出しに向けては、強力な放射線の下でも誤作動しない格段に高性能なロボットや、溶けた燃料の成分を確認したり、取り出す工具の開発も必要。そのためにはどのような専門性を備えた人材がいつまでにどれくらい必要なのか、国が長期的な見通しを示し、関連する学科の新設などその育成のために必要な戦略を早急に打ち出して実行していかなければならない。

(水野倫之 解説委員)

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

キーワードで検索する

例)テーマ、ジャンル、解説委員名など

日付から探す

2016年06月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
RSS