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時論公論

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時論公論 「フランス 同時テロの衝撃」 

二村 伸 解説委員 / 出川 展恒  解説委員

(二村)
またしてもフランスを舞台にした残虐なテロ事件が起きました。「戦争行為だ」とオランド大統領が危機感を表明したように、今回の事件が世界に与えた衝撃と影響は大きなものがあります。2001年にアメリカで同時多発テロが起きて以来、国際社会はテロとの戦いを続けてきましたが、脅威は減るどころかむしろ増大、拡散しています。なぜフランスが狙われたのか、またテロを封じ込めることは可能なのか、世界が突き付けられた喫緊の課題です。今夜は予定を変更してこの問題について中東担当の出川委員と二村の2人で考えます。
 
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まず今回の事件をふりかえります。
 
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事件が起きたのは13日、金曜日の夜を大勢の市民が楽しんでいたときでした。
▼午後9時20分、フランス対ドイツのサッカーの試合が行われていたスタジアムの入り口近くで自爆テロが起きました。▼5分後パリ中心部のレストランやカフェの近くなどで男が銃を乱射。▼9時40分にはコンサートホールで、男が銃を乱射して、観客を人質にとりました。わずか30分間に8か所で爆発や銃撃が起き、少なくとも129人が死亡しました。
 
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オランド大統領は周到に準備された戦争行為だとした上で過激派組織ISによる犯行だとの見方を示しました。ISは事件後犯行声明を出していますが、出川さん、犯行声明から何が読み取れるでしょうか?
 
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(出川)
●この声明は、ISがこれまで広報活動に使ってきたウェブサイトで公表されており、その体裁からも、ISの声明であることはほぼ間違いありません。
●内容を見ますと、「十字軍の旗を持つフランスの心臓を標的にした」「フランスが空爆を続ける限り、おまえたちは平和に暮らすことはできない」などと述べています。つまり、フランスを標的にしたテロであることを強調している点、そして、フランスが、ISに対する軍事作戦を行っているのが理由だとしている点が重要です。
●さらに、「フランス、および、フランスと同じ道を歩む者は、われわれの標的だ」として、攻撃はまだ始まりにすぎず、これからも続くと警告しています。

(二村)
なぜフランスが狙われたのかという点ですが、ISへの空爆など軍事行動に対する報復との見方とともに、世界中の観光客が集まる場所で事件を起こせば、注目度が高く、宣伝効果が大きいと考えたのではないかと思われます。また、フランスには中東や北アフリカの移民が数多く、失業や格差、差別や偏見などに対する不満が根強く、過激派がそうした人々の受け皿になっていることや、過激派のネットワークが存在し、陸続きの国々との往来が簡単で警備の隙をつきやすかったのではないかとの指摘もあります。
 
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こちらは今年起きた主なテロ、あるいはテロと見られる事件です。10月以降だけでもトルコのアンカラで起きた自爆テロ、エジプトのシナイ半島で起きたロシアの旅客機の墜落、そのどちらもISの関与が疑われています。ISは今年初めまでシリア国内で後藤健二さんら日本人2人を含む多数の外国人を人質にとり殺害する事件を起こしてきましたが、最近はシリアやイラクの支配、あるいは活動する地域の外でのテロが目立っているようです。すべてのテロがISによる犯行というわけではありませんが、戦略の転換、より危険度を増したようにも見えます。

(出川)
そう思います。ISの戦略や戦術の大きな転換と見るべきだと思います。フェーズが変わったという言い方をする専門家もいます。ISは、これまで、自らの支配地域の拡大に重点を置き、主にシリアとイラクにまたがる支配地域の中で、残虐な行為を行ってきました。外国で行うテロも、いわゆる「ローンウルフ型・一匹狼的」なものが多かったのです。
 
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ところが、今回の事件は、支配地域の外、ヨーロッパの中心とも言えるパリで行われました。極めて組織的で、相当入念に計画が立てられています。銃撃や自爆テロにつかった装備、手口を見ても、相当な訓練の跡、戦闘やテロの経験者によって行われたことが窺われます。
シリアに一時滞在した者が、今回のテロに参加したことを窺わせる情報も出てきています。
 
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しかし、ISが支配地域をヨーロッパに拡大しようとしている訳ではありません。むしろ、ISは、「イスラム国」の領土だと宣言したシリアやイラクでの戦いに苦戦しているため、敵のお膝元で、反撃を試みているのではないかという見方もあります。ISの支配地域は、有志連合やイラク軍の攻撃を受けて、全体としては縮小傾向にあります。最近、ISは、シリア北部のアレッポの郊外にある空軍基地やシリアとイラクの国境に近い要衝の町(シンジャル)を失ったと伝えられています。
 
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ISの声明は、今後も、敵対する国々へのテロを続けると警告していますが、軍事作戦に参加、または協力している国は、すべて攻撃の対象となるおそれがあります。

(二村)
ヨーロッパでは数年前からシリア帰りの戦闘員や、国内で過激な思想に染まったいわゆるホームグロウンテロリストによる犯行への懸念が強まっていました。

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シリアやイラクには世界100カ国以上から2万人とも3万人ともいわれる人が入国したと言われますが、ヨーロッパから4千人以上、とくにフランスは1200人以上が過激派に加わったと言われています。ところがイギリスの研究機関によりますと、外国人の10%から30%はすでに出国したと見られます。パスポートを自ら廃棄したか無効とされた外国人戦闘員が、難民などにまぎれてヨーロッパなど各国に戻っているのです。今回の自爆犯の1人も偽造パスポートを使用してギリシャに入ったのではないかと言われます。イギリスやドイツなどヨーロッパではシリアから戻ったり、若者を過激な組織に勧誘したりしていた人物が多数拘束されていますが、全員の動きを把握することは不可能です。トルコの爆弾テロや今回のフランスの同時テロの自爆犯の中には治安当局の監視の対象だった男がいたと伝えられています。それでもテロを未然に防ぐことはできません。そしてこれは決してヨーロッパだけの問題でなく、アジア、日本も対岸の火事ではありません。
 
(出川)
はい。「有志連合」と呼ばれるISに対する国際的な包囲網に、何らかの形で参加している、世界で60あまりの国と組織は、いずれも、ISの敵と見なされ、テロの標的となりえます。先ほど、ISは、インターネット上に新たに映像の声明を出しました。この中で、「フランスのパリを攻撃したように、アメリカのワシントンも同じような目に遭わせる。これから、もっとひどいことが起きる」としたうえで、各国のイスラム教徒に対し、有志連合に参加している国に対する攻撃を呼びかけました。
 
(二村)
フランスのバルス首相は、16日地元ラジオで「フランスだけでなくヨーロッパを狙ったテロが数日から数週間以内に再び起きる可能性がある」と警告しました。ヨーロッパの危機もまだ去っていません。

(出川)
アメリカが主導する有志連合には日本も参加しており、日本もテロの標的になる恐れがありますが、必ずしも、日本国内で起きるとは限りません。日本の飛行機や船、外国にある日本の施設や企業、旅行者などもテロの対象になりうることを意味します。日本にとっても、非常に深刻な状況です。

(二村)
ISは今年2月に出した声明で、日本も標的だと警告しています。いつどこでテロが起きるか予想もつかないだけに危険を回避すること、新たなテロを防ぐことは簡単ではないですね。
 
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(出川)
実際、非常に難しいと思います。今後のテロ対策は、主に3つの次元で考える必要があると思います。第1に、国際的な連携と協力。第2に、ISの封じ込め。第3に、シリアの内戦の終結です。
▼第1の「国際的な連携と協力」ですが、まず各国が、過激派、とくにISの動向を把握し、関係者の行方を追跡することが必要です。
次に、国境や空港での出入国管理、大勢の人が集まる場所でのセキュリティチェックを徹底すること。
そのうえで、関係各国が、過激派に関する情報を互いに伝達し、共有することが大切です。

(二村)
フランスのカズヌーブ内相は、犯行グループがベルギーで組織されたとの見方も示しています。テロには長い準備期間が必要だったはずで、当局がそれを見抜けなかったのは、国境をこえた情報の共有に問題があったのではないかとの指摘もあります。各国の情報の共有が不可欠ですね。

(出川)
▼第2の「ISの封じ込め」ですが、ISの拠点や戦闘員をピンポイントに攻撃する効果的な軍事作戦が必要です。そのためには、偵察衛星や軍用機など、上空からの情報だけでなく、地上からの正確な情報が不可欠です。

(二村)
ただ民間人が犠牲になりかねない。イラクやアフガニスタンなどで反米感情が高まった理由の一つにテロ対策を理由とした空爆で多くの市民が犠牲になっていることがある。軍事作戦ではテロはなくならない。

(出川)
軍事作戦では、民間人の犠牲を避けるための細心の注意と態勢づくりがとても重要です。さらに大切なことは、ISに参加する戦闘員の流れや、ISの資金源の流れを断ち切ることだと思います。それができなければ、ISを封じ込めることは不可能です。

(二村)
今回のテロで懸念されるのは難民問題への影響です。軍事作戦はさらなる難民の流出を招きかねませんし、難民を敵視する声が強まることも懸念されます。ヨーロッパには今年すでに85万人が地中海を渡って流入していますが、難民や移民をこれ以上受け入れるべきでないといった声が上がっています。難民への襲撃事件も起きており、多数の難民を受け入れ寛容だと言われているドイツですら、各地の難民収容施設に対する放火事件が頻繁に起きています。相互不信が強まれば緊張がさらに高まりかねません。それではまさにテロリストの思うつぼです。ISなどの過激派を生まないよう社会の歪みを解消するための努力も欠かせません。トルコのアンタルヤで開かれていたG20首脳会議は、テロ組織への資金の流れを断つことや国境管理の強化に各国が協力して取り組むことなどを盛り込んだ声明を採択するとともに、難民問題についても国際社会が強調した取り組みをめざす首脳宣言を採択しました。国際社会の結束が今後のカギです。

(出川)
そして、ISに対する根本的な対策は、第3の「シリアの内戦を終結させること」です。少なくとも、停戦を実現させることが不可欠です。そして、シリアとイラクの秩序を回復しなければ、ISは壊滅できませんし、ISの脅威はなくなりません。

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こうした中、長く中断していたシリアの和平をめざす動きがようやく再開しました。先週土曜日、関係国の外相がウィーンで会合を開き、シリアの和平案で合意しました。
▼まず、アサド政権と反政府勢力の対話を実現させる。
▼その次に、両者が参加した「移行政権」を発足させる。
▼そして、1年半以内に選挙を実施することなどを内容とする和平案です。
ただ、アサド政権と反政府勢力の対話の実現、これだけでも容易ではありません。反政府勢力には、多くの武装組織があり、アルカイダ系の組織も含まれているからです。そして、アメリカとロシアの間で大きな対立点となってきたアサド大統領の処遇の問題も、平行線のまま、解消されていません。これに加えて、イラクの安定と治安回復も重要です。

(二村)
国家対非国家の非対称の戦争は終わりが見えません。各国の思惑がぶつかりあっている間にテロの脅威は拡散しています。危険をより少なく、そして1人でも犠牲者を減らすために国際社会は今回のテロを教訓に、各国のエゴを捨て一致した姿勢を打ち出すことが求められています。

(二村 伸 解説委員/出川展恒 解説委員)

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