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時論公論 「組み体操と学校 誰が子どもたちを守るのか」

西川 龍一  解説委員

今年も運動会の花形となった組み体操で、骨折などの大けがが相次いで起きました。子どもの安全が確保されていると思われている学校で、同じような事故が続く背景には、教育効果を求めることがリスクを見えにくくしているという学校の構造的な問題があるように思います。組み体操と学校の関係を通して、誰が子どもたちを守るのかについて考えます。

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大阪八尾市の中学校の運動会で披露された組み体操の10段のピラミッドが、完成直後に崩れました。生徒1人が骨折したほか、5人がけがをしました。この中学校では、去年も、そしておととしも、練習や運動会の本番の組み体操で生徒が骨折していました。さらにその後の調査で、この学校では、過去10年間で20人の生徒が組み体操で骨折していたことが明らかになりました。子どもの安全を守る立場の学校が、骨折という重大なけがが起きる可能性が高いことを十分承知の上で組み体操を続けていたわけです。事故を受けてこの学校の校長は、「完成したときの喜びは、本当に代えがたいものが今まであった。そこでけがに対する認識が甘くなっていたと反省している」と述べました。この言葉に、この問題の本質が凝縮しているように思います。
組み体操が、各地の小中学校の運動会で花形とも言われるようになったのは、ここ10年ほどのことと言われています。組み体操は、複数の子どもたちが身体を組み合わせて様々な形を表現していきます。それぞれの形によって「サボテン」「扇」「タワー」などと呼ばれ、こうした形を順次披露していくのが一般的です。中でも最大の見せ場となるのが、ピラミッドです。競技の最後に全員が参加して作ります。頂上に登った子どもが両手を広げてポーズを決めた姿は、参加した子どもたちはもとより、指導した教師たち、見守る保護者たちの多くが感動すると言います。さらに組み体操は、多くの子どもたちがいっしょに成し遂げることによって協調性や団結力を培うことができること、参加したどの子どもにも達成感を味わわせることができるという教育的な効果があるとされています。

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一方で、組み体操の最中に、ピラミッドやタワーが崩れたり、上に乗った子どもが転落したりしてけがをするケースは、各地で後を絶たないことが明らかになっています。平成25年度には、全国の小中学校などであわせて8500件あまりの事故が組み体操で起きていることが明らかになりました。中には後遺症が残るものも含まれています。ただし、この数字は、日本スポーツ振興センターが治療費の給付金を出したケースですから、実際にはもっと多くのけが人がいる可能性があります。

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スポーツにけがは付きものとは言え、こうしてみると、組み体操そのものに、リスクが潜んでいることは明らかです。それにも関わらず、組み体操は、巨大化、高層化によって、リスクを増大し続けてきたのです。
最初に紹介した大阪八尾市の中学校のピラミッドは、10段にも達していましたが、はじめからこれ程の段数が組まれていたわけではありません。難易度が上がっていった要因として考えられるのが、去年はここまでできたから、今年はそれ以上を目指してみようという目標の設定です。少し高めの目標を掲げることで子どもたちのやる気を引きだそうというのは、ごく一般的な考え方です。子どもたちから挑戦したいという要望が出るケースもあります。子どもにやる気があるなら、挑戦させてあげたいという気持ちになるかもしれません。保護者の期待や学校の伝統となっているという卒業生の声の影響もあると言います。こうしたことの積み重ねが、難易度の高い組み体操への取り組みにつながっていったのです。

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本来冷静に歯止めをかけるべき存在である学校も保護者も感動の呪縛にとらわれて危険への感覚が麻痺していったのではないか。10段のピラミッドの場合、最上段の高さは7メートルにも達します。建物で言えば3階部分の高さです。参加する生徒は140人近くになります。学年は同じでも体格はまちまちなうえ、運動が得意な生徒ばかりではなく、筋力も異なりますから、足場は不安定です。一番下で土台になっていて、もっとも負荷がかかる場所にいる生徒の場合、3.9人分を背中で支えているという試算もあります。平均的な中学生の場合では、200キロ近い重量に耐え続けなければなりません。
これがいかに危険な状態なのか。足場がしっかり組まれる建設現場でも、高さ2メートルを超える場所で作業をする場合は、囲いや手すりを設けることが労働安全衛生規則で義務づけられています。屋根に上って遊ぶ子どもを見たら、危ないと叫ぶ大人がほとんどでしょう。むしろより危険な状態が学校の中で生まれているのです。

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学校のリスクの問題に詳しい名古屋大学大学院の内田良准教授は、「組み体操は、リスクへの関心が著しく低い一方で、組み体操はよいものだと素朴に信じられていることが特徴であり、大きな問題だ」と指摘します。よいものだと信じていることによって、リスクが見えなくなってしまっている。それどころか、組み体操による感動や教育的な効果が、より多くの感動、より高い教育的な効果を得るためという名の下に危険を増大しているというのです。

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なぜ、子どもの安全には当然細心の注意を払っていると思われている学校で、こうした状況が起きるのか。そこには、学校で子どもがけがをするような事態が起きた際、その原因を検証し、再発防止に役立てるという視点が、学校だけでなく、国にも各地の教育委員会にも欠落していることがあります。学校の管理下で起きた事故のデータは、毎年、日本スポーツ振興センターがまとめて資料として発行しています。しかし、事故の事例が1つ1つ掲載されているだけで、どんな状況で起きたのかや何が原因でけがをしたのかといった統計的な分析はありません。
組み体操によるけがについても、早い段階でこうした分析をして学校間で共有していれば、たとえばピラミッドは何段を超えれば崩れやすくなるとか、崩れた場合は、どのようなけがが起きる可能性が高くなるから、安全性に配慮して難易度を下げるべきという考えに至るはずです。学校現場のリスクの所在が明らかにされてこなかったことのツケがまわってきている形です。

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この問題では、先月、千葉市教育委員会が、市内の小中学校に対し、組み体操で起きたすべての事故について、状況を詳しく報告するよう求めました。事故の状況を独自に分析して、対策を検討するということです。子どもたちの協調性や団結力を培うには、組み体操以外の競技でも十分可能ですから、他の競技に切り替えることも選択肢の1つです。組み体操を続けると言うのなら、早急にこうした分析を行った上で、どうすれば事故が起きないのかを検証し、やり方を見直す必要があります。

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相次ぐ組み体操の事故に対しては、ピラミッドの高さが問題だとして、5段を超えるものは禁止するなど行政側からの規制が出始めています。しかし、それを学校が自主的に判断するのではなければ、安心して子どもたちを学校に通わせることはできなくなりますし、学校運営そのものが窮屈になりかねません。組み体操の問題を契機に、学校現場で子どもたちの安全を担う先生がたには、改めてこのことを真剣に考えて欲しいと思います。

(西川 龍一 解説委員)

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