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時論公論 「郵政上場 ~成長戦略は描けるか~」

竹田 忠  解説委員

10年前、当時の小泉総理大臣が衆議院を解散してまで法律を成立させ、始まったのが郵政民営化です。その後も政権交代などによって、民営化の流れは翻弄されましたが、今回の株式上場によって、民営化は大きな節目を迎えます。
最大の課題は、これから成長していけるのか?そして、郵便局のサービスはどうなるのか?この2点について考えたいと思います。

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▼上場の結果は?
今回東京証券取引所に上場したのは、郵政グループ3社。
ファミリーの親会社である「日本郵政」。その傘下で、郵便貯金を預かる「ゆうちょ銀行」、生命保険を販売する「かんぽ生命保険」、この3社です。
企業の上場では、市場の取引で初めてつく株価、いわゆる初値が、事前の売り出し価格を上回るかどうかが、成功かどうかの一つのバロメーターとなっていますが、今回3社は、これをいずれも上回りました。
日本郵政は売り出し価格より17%高く、ゆうちょ銀行は16%高くそしてかんぽ生命保険は33%高い株価がつきました。またこの日の終値でも、3社すべて売り出し価格を上回り、上々の人気を示しました。

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これは、郵政の持つ全国的な知名度の高さ。
そして株を持っていることでえられる配当の利回りを東証一部の上場企業の平均より高めに設定して、“お得感”を打ち出したことが、功を奏したものと見られています。

▼巨大組織、郵政
郵政の上場が与えるインパクト、それはこの組織の巨大さを踏まえる必要があります。
まず、ゆうちょ銀行。預貯金残高は177兆7000億円。これは第二位の三菱東京UFJの106兆5000億円をはるかに上回ります。
次に、かんぽ生命。総資産額は84兆9000億円。第二位の日本生命の62兆3000億円を、やはり大きく引き離します。

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そして、日本郵政。実は、日本郵政には、もう一つ、子会社があります。それが日本郵便です。
ただ、この日本郵便については、親会社の日本郵政が、今後も100%、株を持ち続けることになっていますので、この両社は完全に一体です。
で、ここが全国津々浦々に持っている郵便局の数は、全国およそ2万4000。セブンイレブンの店舗数、1万8000を大きく上回ります。

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そして、今回の上場を機に、三社が売り出した株の売り出し額は、初回分だけで1兆4000億円。
そして、これによって誕生した株主は、3社合わせて170万人を超える見通しとなりました。これは90万人弱の、みずほフィナンシャルグループの約2倍にあたり、日本最大級の株主ということになります。


▼成長戦略は描けるのか?
これだけ多くの株主から期待を寄せられた郵政3社。
では将来は明るいのか?というと、そう単純な話しではありません。行く手には、不透明さも漂います。それはなぜでしょうか?

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実は証券会社の間では、以前から、郵政グループのことを饅頭とか、シュークリームにたとえる言い方があります。
というのも、郵政グループの利益は、その大半をゆうちょ銀行と、かんぽ生命の金融2社が稼いでいます。つまり、中味のおいしいカスタードクリームが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命で、それを包んでいる皮の部分が、親会社の日本郵政というわけです。

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今後株をさらに売り出して、一人立ちを進めていけば、中味のおいしいクリームは抜けていきます。ではどうやってシュークリームを売っていけばいいのか?

この話しを具体的な数字で見てみます。
これまで政府は、日本郵政の株を100%持っていました。しかし今回の上場後、株を少しづつ、放出していって、最終的には3分の1超まで減らします。つまり3分の2弱は売るわけです。

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また、日本郵政は、100%の株を持っている子会社3社のうち、ゆうちょ銀行とかんぽ生命については、今後、まず、できるだけ早く50%未満にまで保有率を下げていきます。100%のまま残るのは、さきほど触れた日本郵便だけです。

しかし、この純利益を見れば一目瞭然ですが、日本郵政の利益の大半は、金融2社が稼いでいます。
ただ、この図をみると、日本郵便もしっかり黒字になっていますが、これには理由があります。それは、金融2社が、それぞれ、日本郵便に対して、御覧のように多額の手数料を払っているんです。金融2社は、日本郵便の持つ郵便局の窓口を販売網として使っていますので、そのための手数料です。

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これまでは、政府が100%株を持っている中で、グループで補完しあう関係が作られてきたわけですが、今後、金融2社の民営化が加速すれば、この手数料にも引き下げ圧力がかかってくることが予想されます。

つまり、それが、シュークリームの中味が抜けていくということの意味です。

ですから、最後まで上場せずに残る、この日本郵便を中核とした郵便事業をこれからどうするのか、ここが重要になってきます。

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そこで、今、大きな期待が、かかっているのが国際物流への展開です。
日本郵便は先日、国際宅配便などを手掛ける国際物流大手、オーストラリアのトール社を6200億円を投じて買収しました。世界でトップ5を目指すとしていますが、物流業界の国際競争は厳しいものがあります。どこまで具体的な戦略を描けるのかは、まだ、不透明です。

また、金融2社にしても、決して安泰とはいえません。というのも、金融2社の収益性は、民間の同業他社と比べると、まだまだ低いと言われています。

たとえばゆうちょ銀行の場合は、集めた貯金の大半を、利回りの低い国債で運用しています。国債以外の運用をどれだけ拡大できるかが課題です。

また、かんぽ生命の場合、保険契契約数の減少が続いています。どれだけ魅力的な保険商品を増やせるかがそこが勝負になります。

▼今後の焦点は “ ユニバーサルサービス”
そしてもう一つ、今後大きな焦点になってくるのは、郵政が義務づけられている、ユニバーサルサービスを
どうするのか、という問題です。

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公共的なサービスが、誰でも、どこでも、安い料金で利用できる。それがユニバーサルサービスです。もともと郵便事業には、このユニバーサルサービスが義務づけられていました。だからこそ、全国2万4000の郵便局を維持することができたわけです。

そこに、2012年、民営化法が改正されて、郵便に加えて、金融事業にもユニバーサルサービスが課せられました。金融事業にこうした義務がつくのは、国際的には異例のことです。

問題は、その費用をだれが負担するのか、ということです。この費用を日本郵政だけに負担させる、ということになると、結局、政府は、そのために、郵政だけに特別な保護や条件を与えたり、株式を大量に持ち続ける、ということになりかねません。

では、どうすればいいのか?
参考例があります。たとえばNTTが行っている公衆電話の事業。これはユニバーサルサービスとして義務づけられているものです。
しかし、費用はNTTだけが負担しているわけではありません。電話事業を行っている他の事業者が広く費用を負担しあっています。郵便局ネットワークは、人口減少に悩む地域にとって貴重な資産です。他の金融機関なども、もっと郵便局の窓口を利用できるようにして、事業者が広く負担しあう方法も検討すべきかもしれません。

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▼必要な民営化のビジョン
郵政3社は、これから株主の厳しい目にさらされます。必要になってくるのは、郵政の将来像です。金融2社の株を完全売却して、完全民営化を目指すのか、それとも半官半民のような状態で、同業他社から「民業圧迫」と批判され、様々な規制を受け続けるのか、政府は、明確な民営化のビジョンを示す必要があります。

(竹田 忠 解説委員)
 

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