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時論公論 「くいデータ どのように流用されたのか」

中村 幸司  解説委員

横浜市内のマンションでくいの工事をした際のデータが改ざんされているのが見つかった問題で、2015年11月2日に、旭化成建材と親会社の旭化成が記者会見しました。横浜市のマンションを担当した施工管理者が関わった19の物件で、データの流用や改ざんが見つかったと発表しました。
これまでのところ、横浜市のマンション以外で建物が傾くなどの不具合は報告されていないということですが、別の施工管理者が担当したくいでも流用が見つかっているだけに、不安が広がり、不信は建設業界全体に向けられているように思います。
データの流用がどのように行われたのかを見ながら、なぜ防げなかったのか、今後の対策などについて考えます。

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会社側の発表によりますと、旭化成建材がこの10年あまりの間にくいを施工した物件は全国に3040件あります。このうち、建物が傾いているのが確認された横浜市内のマンションを担当した施工管理者がくいの工事に関わった物件は、43件。およそ半分の19件からデータの流用や改ざんが見つかりました。

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また、全国の自治体も独自に旭化成建材が関わったくいの施工データを調べています。これまでに、横浜の施工管理者以外の人が担当した物件でも、データ流用が10件以上見つかっています。

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さらに、これまでの社内調査で、300件前後でデータの流用などが行われ、関わった人物は少なくとも10人以上に上るとみられています。
特定の担当者個人というだけでなく、会社側の態勢にも問題があったという事態になっています。

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流用されていたのは、穴を掘る力のデータとセメントを使った量、つまり注入量のデータです。建物の構造や強度に大きく影響しかねない部分のデータだけに、問題は深刻です。

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穴を掘る力のデータ。旭化成建材が使っていたくいは、くいを入れる前に穴を掘る手順になっています。この際、掘る力を記録します。
初めは小さな力で掘れても、あるところで大きな力が必要になり、固い地盤に届いたことを確認します。

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しかし、このデータが別の場所のものからコピーされていたのです。これでは穴にくいを入れた時、本当にくいが固い地盤に達しているかどうか確認できないのです。

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セメントのデータはどうでしょうか。セメントはくいの先端付近に注入されます。くいを太くして、建物の重さを支えます。しかし、注入したセメントの量のデータが流用されていました。仮に量が少ないと、建物の重さを十分支えられない恐れもあるのです。

このように、いずれもくいが設計通り建物を支えられることを確認する重要なデータが流用されていたということで、問題が深刻なのです。
傾きが見つかった横浜市のマンションでは、固い地盤に届いていないといった問題のあるくいが8本あるとされています。流用が見つかった他の物件で、傾きなどの不具合はこれまでのところ報告されていませんが、長さが足りているかなど実際のくいの状況はわかっていません。

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横浜市のマンションの建設現場では、8人前後が1チームとなってくいの工事をしていたということです。施工管理者はくいを施工する重機の横で、紙に打ち出されるデータを見て、固い地盤に達したかどうか確認し、このデータを報告書に記します。

では、なぜこのような流用が行われたのでしょうか。

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担当した施工管理者は「データを紛失したり、データがうまく取れなかったりしたためだった」などと流用を認めているといいますが、一方で施工管理者など現場にいた複数の関係者は「固い地盤には達していた」と、施工に問題はなかったと話しているということです。
これに対して、「固い地盤に届いていないという施工の問題を隠そうとしたのではないか」とする指摘もあります。
流用した理由などについては、会社側が調査委員会を作って調べていますが、隠ぺいする意図がなかったのか、固い地盤に達していたのであれば、なぜマンションが傾いたのかなど、納得できる説明が求められます。
いずれにしても、この施工管理者は、本来、毎日提出する報告書をまとめて提出するという、ずさんな管理をしていたということで、重要なデータを残すことの意味を軽視していたと言わざるを得ません。

データ流用が相次いで明らかになり、会社側は、多くの施工管理者が流用をしてしまうような環境が現場にあったことを認めています。その原因は何なのか、会社のどのレベルの人までが流用を認識していたのか、徹底した調査が求められています。

国土交通省は旭化成建材に対して、立ち入り検査をしました。提出を受けた業務マニュアルを分析するなどして、データ流用や改ざんが繰り返された経緯、会社側の施工態勢などを調べることにしています。

会社側の調査だけでなく、国が徹底した調査・分析を行うことで、担当者がどういった意図で流用をしたのか、その原因や背景などを含めて明らかにすることが必要です。

ところで、この流用や改ざんを旭化成建材以外の関係者は見抜くことはできなかったのでしょうか。

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たとえば、横浜市のマンションの場合、旭化成建材は2次下請けで、上に1次下請けや元請けの会社があります。旭化成建材の施工管理者が作成した報告書の提出を受けて、くいの工事が適切に行われたかどうかチェックすることになっています。しかし、いずれも気付かなかったということです。

では、現場の作業で気付かなかったのでしょうか。

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元請けの三井住友建設の現場責任者が現場に立ち会ったのは、建物の1本目のくいを施工する時だけで、それ以降は立ち会っていなかったということです。
また、一次下請けの日立ハイテクノロジーズは、担当者がどの程度現場で管理していたのか「調査中だ」としています。
チェック機能を果たすこうした会社が現場で立ち会うなどしていれば、データ流用や改ざんを許さない緊張感のある管理が可能だったのではないでしょうか。施工を実質的に現場任せにしていなかったのか検証が必要です。
さらには、別の元請け会社や下請け会社の現場でも、相次いで流用が見つかっています。建設業界全体に、こうした風土が広がっているという指摘もあり、下請けが重なる構造が、不十分な管理につながっていないか検討する必要があります。

この問題は、今や旭化成建材以外でも流用や改ざんが行われていないのか、自分の住んでいるマンションは大丈夫なのか、といったところまで不安が広がっています。
国土交通省は、専門家らによる対策委員会を作って、11月4日、初会合を開くことにしています。

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この中では、今後の再発防止策とともに、すでに建っている建物について不安を払しょくするため、旭化成建材以外を対象にした調査を行うかどうかについても検討されるということです。

くいは、建物の基礎という構造上重要な部分ですが、地面の中にあるため、建物が完成してからその状態を確認するのは費用もかかり、簡単ではありません。傾くなどの不具合が起きると、横浜市のマンションのように建て替えを検討するという深刻な事態になりかねません。
旭化成建材は、3040の物件の調査結果を今月13日に発表することにしていますが、こうした調査と同時に、問題の見つかった物件については、なぜデータ流用が行われたのか、なぜ誰も気づかなかったのか分析して、国や建設業界が、広がる不信・不安を取り除くことが必要になっています。

(中村 幸司 解説委員)

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