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時論公論 「洪水ハザードマップの見直しと活用を」

二宮 徹  解説委員

 

関東・東北豪雨から3週間余り。鬼怒川の堤防が決壊した茨城県常総市では、まだ500人以上が避難所暮らしを余儀なくされています。浸水した範囲は市のハザードマップのほぼ想定通りでしたが、孤立して救助された人は4400人あまりにのぼりました。

なぜこれほど多くの人が孤立したのか。水害の危険を住民に伝えるにはどうすればよいのか。

今夜は、洪水ハザードマップについて考えます。

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<孤立者が相次いだ常総市>
鬼怒川で高さおよそ4メートルの堤防が決壊したのは、先月10日の昼過ぎでした。濁流が津波のように川沿いの住宅を押し流しました。市役所や住宅地も水につかり、地区によっては水が引くまで10日かかりました。2人が死亡したほか、自宅の2階などで孤立し、ヘリコプターやボートで救助された人は4400人あまりにのぼりました。
孤立した人のうち、ヘリコプターで救助された人は1000人を超えます。夜に決壊していたら、また、雨や風が強くてヘリコプターが飛べなかったら、もっと深刻な危険にさらされていたでしょう。

<ハザードマップと孤立>
こちらは常総市が6年前、市民に配った洪水ハザードマップです。

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色がついているところが浸水の予想される地域です。
広い範囲が2m~5m浸水する青い色です。

こちらは今回浸水した範囲です。

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決壊した川の東側は、ほとんど想定通りでした。それなのに、なぜ孤立が相次いだのでしょうか。右側の地図で見てみます。

鬼怒川は、10日の朝6時すぎ、市の北部で越水。水が市内に流れ込みました。
このあと、午後1時前、中部の三坂町地区で堤防が決壊し、濁流が一気に押し寄せました。周辺には避難指示が出ていた地区は少なく、逃げ遅れた人たちが孤立しました。
そして、水は土地が低い南へ徐々に広がり、夜になって孤立する人たちが相次ぎました。
南部は早くから避難指示が出ていて、逃げる時間もありました。
しかし、私が取材した人たちは「こんなに離れたところまで水が来るとは知らなかった」などと話していました。
逃げ遅れた人と逃げなかった人、ともに決壊や浸水の危険を知らなかったことが孤立につながったのです。

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危険を知らなかったとは、どういうことでしょうか。
このハザードマップは、浸水する水の深さだけがわかるようになっていて、川の近くに決壊の危険があることは示されていません。また、離れたところでも、何時間も後になって浸水するとは書かれていません。つまり、どう行動すべきかがわかりにくいのです。
こうしたマップは常総市だけではありません。全国の市町村の98%が洪水ハザードマップを作っていますが、そのほとんどが同じように水の深さだけです。

<国交省は手引きを改定>
実は国土交通省は、おととし、「洪水ハザードマップ作成の手引き」というマニュアルを改定し、市町村に改善を促していました。

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手引きでは、堤防が決壊した場合、住宅が壊れるおそれがある地域を「家屋倒壊危険ゾーン」と明示するよう求めています。
また、川から離れた地域が浸水する場合、「水が到達する時間」を盛り込むよう求めています。
しかし、「危険ゾーン」を設定するには専門家の調査が必要であることや、既にあるマップを作り直す必要をあまり感じていない市町村も多いことなどから、1年半が経った今も、この「新基準」による改定はほとんど進んでいません。

<逃げどきマップ>
こうした中で、先進的なハザードマップが注目を集めています。
「逃げどきマップ」です。数十ページの冊子になっています。

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これまでに愛知県清須市・岡崎市、新潟県三条市・見附市、それに札幌市が作り、市民に配布しました。いずれも大きな水害を経験した市で、群馬大学大学院の片田敏孝教授が監修しました。浸水までの時間は示していませんが、自分の地域や家にどんな危険があり、どう行動すべきかがわかるようになっています。

これは愛知県清須市のマップの一部です。

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ピンクが「2階の床上以上」、黄色とオレンジが一階床上まで浸水します。メートルではなく、2階床上などと具体的に示し、被害をイメージしやすくしています。
また、赤い四角は、決壊で住宅が壊れるおそれがある場所で、早めに避難するよう示しています。国土交通省が求める「家屋倒壊危険ゾーン」を先取りした形です。

 

地域の危険を知ったら、次に自分の家が木造か鉄筋か、何階に住んでいるかを選びます。

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例えば1階床上まで浸水する地域では、木造、鉄筋ともに1階では浸水前に避難すべきで、浸水後は自宅にいるのも危険だとしています。
2階は、事前の避難が望ましいけれど、浸水後は、外はかえって危ないので、自宅にとどまります。

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そして、鉄筋の3階以上に住む人は避難しなくても良いけれど、そのためには十分な備蓄が必要だとしていて、それぞれどう行動すべきかを具体的に示しています。

<ハザードマップの見直しと活用を>
避難の指示や勧告は地域ごとに出されますが、危険の度合いは、木造かマンションか、何階かに住んでいるかなどで変わります。また、浸水する前と後では状況が変わります。
逃げどきマップは、住まいや状況に応じた行動がわかるので、ほかの市町村でも大いに参考になるでしょう。
ただ、私が防災の取材をしてきた中で気になるのは、こうした「逃げどきマップ」を作るなど、
防災に熱心に取り組んでいるのは、過去に災害に遭った自治体ばかりだという点です。

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ほかの自治体でも、今回の水害を教訓にして、具体的な危険や行動をイメージできるハザードマップに見直す必要があります。
作る際には、コンサルタント会社などに任せるのではなく、住民参加で作るのが良いでしょう。避難経路の危険な場所をチェックするなど、住民が関わりながら作ると、効果が高まります。
そして、作って配って終わりというのではなく、出来上がった後も、町内会ごとに説明会を開いたり、避難訓練で活用したりして、しっかりと定着させることが最も重要です。特に決壊のおそれがある地域や、遅れて浸水する地域は、その危険をよく知っておいてもらう必要があります。
しかし、最近水害が起きていない市町村は、予算不足に加え、経験やノウハウ、人材の面からも、ハザードマップの改定に消極的な傾向があります。国や県、それに先進的な市町村が支援して、ハザードマップの見直しや活用など、水害対策を全国に広げてほしいと思います。

今回の水害では、堤防が決壊した時の恐ろしさと被害の大きさをあらためて思い知らされました。
猛烈な雨が全国各地で頻繁に降るようになった今、どこで水害が起きてもおかしくありません。
住民も、自分の地域や家の危険を知り、災害に備えることが大切です。

(二宮 徹 解説委員)

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