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時論公論

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時論公論 「急増する難民 世界は何ができるのか」 

二村 伸  解説委員

【VTR:押し寄せる難民】
ヨーロッパに押し寄せる難民や移民たち。第2次世界大戦後、最大規模とも言われ、ドイツには今年すでに45万人以上が入国しました。こうした難民の受け入れをヨーロッパだけでなくアメリカやオセアニア、南米の国々も相次いで表明しています。
 
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こんばんは、時論公論です。深刻化する難民問題にどう対処するか、世界が問われています。EUは受け入れの義務化をめぐって対立、国境地帯の一部で混乱が続いています。日本も世界が直面する問題に沈黙しないで貢献策を打ち出すべきだといった声が聞かれます。難民の悲劇を食い止めるために国際社会は何ができるのか考えます。

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難民問題に世界の目が引き寄せられたのは、1人の男の子の死がきっかけでした。今月2日、トルコの海岸の波打ち際でうつぶせになって横たわっていた3歳のシリア難民の男の子の映像と写真が世界に配信されました。ギリシャの島に向かう途中、ボートが高波で転覆し、一緒に乗っていた母親と5歳の兄も命を落としました。
地中海を渡る途中で命を落とした人は今年2900人。難民問題の深刻さを訴えかけたこの映像と写真がこれまで慎重だった世界の指導者たちを動かしたのです。
 
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UNHCR・国連難民高等弁務官事務所によりますと、今年に入って中東やアフリカなどから地中海を渡ってヨーロッパに入った人は40万人をこえました。すでに去年1年間の数の2倍です。以前は北アフリカのリビアやエジプトなどから船で地中海を渡るケースが多かったのですが
 
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夏以降急増しているのは、シリアの紛争が長期化し、トルコからギリシャに渡る難民が増えたためと見られます。リビアなどから海を渡るより危険が少ないからだと言われますが、3歳の男の子の悲劇はこのルートで起きました。ギリシャからはバルカン半島を北上し、手厚い社会サービスが受けられるドイツや北欧に向かっています。
【VTR:駅に入る電車、難民を歓迎する市民】
ドイツの駅には、今月すでに9万2000人が到着したということです。難民たちを数百人の市民が温かく迎え入れている映像は、戦後多くの難民を受け入れてきたドイツならではの光景です。飲み水や食べ物、衣類の他、花束を手渡すお年寄りもいます。
 
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入国した人たちは、各地の体育館や見本市会場、軍の施設の跡地などに滞在しながら難民認定の審査を待ちます。その間、食事だけでなく生活に必要な現金が支給されます。ドイツ政府はことし1年間に難民申請する人が80万人、あるいは去年の5倍の100万人に達する可能性もあると見ており、難民のための施設の建設や語学教育、職業訓練などの費用として日本円で1兆円以上拠出することを決めました。入国する人の中には経済目的の移民や過激派が潜んでいる可能性もあり、これ以上の難民受け入れは負担が重いと反対する人も少なくありません。建設中の難民の施設が放火される事件も起きています。しかし、ドイツは受け入れを続ける方針です。難民の保護を憲法にあたる「基本法」で定めているからです。
 
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1985年、戦後40年にあたって当時のワイツゼッカー大統領は、「人種、宗教、政治上の理由から迫害され、目前の死におびえていた人々のことを思えば、今、迫害され保護を求める人々に門戸を閉ざすことはできない」と述べました。ナチス時代、弾圧や迫害により多くの人を死に追いやった反省から、助けを求める人を受け入れる、その精神が難民受け入れの根底にあります。さらにドイツ政府は難民の受け入れが労働力不足の解消に役立つと考えています。
 
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ドイツ以外のヨーロッパの国々も世論に押されるかたちで受け入れを表明しました。フランスのオランド大統領は2年間で2万4000人の受け入れを表明、イギリスのキャメロン首相も数千人の受け入れ表明に強い批判を浴び、5年間で2万人に増やしました。フィンランドは去年の10倍近い3万人を今年1年間で受け入れ、スウェーデンは7万人あまりが今年難民申請すると見ています。
一方で、14日開かれた緊急の内相会議では、16万人の難民を人口や経済力などに応じて各国が分担して受け入れるとしたEUの提案は、合意に達しませんでした。ハンガリーやチェコ、スロバキアなど中東欧諸国が応じなかったからです。反対の理由は、経済的な負担に加えて、宗教や文化が異なるイスラム教徒の受け入れに強い抵抗があるためと見られます。
15日にはハンガリーが難民の流入を抑えるために国境管理を厳しくしたため、多くの人が行き場を失い、新たな混乱が懸念されます。人権を尊重し、寛容さと多様性を重んじてきたEUですが、ギリシャに端を発した債務危機に続いて難民の危機に直面し、統合の理念が大きく揺らいでいます。
 
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ヨーロッパ以外を見ますと、アメリカが1万人の受け入れを表明、オーストラリアも国際社会で貢献すべきとの世論に押され1万2千人のシリア難民の受け入れを表明しました。南米の国々も相次いで受け入れを表明しています。

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では、日本はどうでしょうか。世界各国が人道上の理由から受け入れを表明したあとも日本政府からは受け入れの言葉は聞かれません。そもそも難民の認定は日本では狭き門で、日本で難民認定の申請をしたシリア人はこれまで63人。このうち認定されたのは3人だけです。国際的な人権団体、アムネスティ・インターナショナルは、シリア周辺国に逃れている難民の再定住先として受け入れに応じていない国は、主要国では日本とロシア、韓国、シンガポールだけだと名指しで批判しています。日本は財政面で大きく貢献ながらも、難民に閉鎖的な国だと見られています。

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世界で紛争や迫害によって住む家を追われ保護を求めている人はおよそ6000万人、増え続けるシリア難民を周辺の国々だけにゆだねるのはもはや不可能です。今も国境で助けを求める人々の目や、ドイツに迎え入れられた人たちの安堵の表情を見るにつれ、日本も新たな貢献策が求められているのではないかという思いを強くします。日本では、言葉の壁や受け入れる自治体が少ないことなどもあって多数の難民を受け入れる環境はまだ整っていませんが、できることは少なくないと思います。
【VTR:家族と再会を果たしたシリア人 1月 成田空港】
人道的配慮により日本での滞在が認められながら、親子離れ離れの生活を強いられてきたシリア人に家族の呼び寄せが認められたケースはまだ2家族だけです。家族へのビザの発給や、学生が安心して勉強できるように留学生の受け入れ、あるいはけがをしたり重い病気にかかったりしている難民の高度治療のための一時的な受け入れなど日本ならではの貢献策を期待する声も少なくありません。日本でなくても現地で殺到する難民へのサポートなど顔の見える支援策を考えてはどうでしょうか。

難民の悲劇を防ぐために、世界各国が責任と負担を分かち合うよう求められています。そのためには政府だけでなく市民一人一人の意識の改革も必要です。ただ、難民の受け入れを増やすだけでは根本的な解決策にはなりません。人々が祖国を離れざるを得ない状況を改善すること、とくにシリアの混乱を1日も早く終わらせることが急務です。難民問題がこれほど深刻化したのはヨーロッパの対応の遅れとともに、シリア危機への深入りを避けてきた国際社会にも責任があります。未曾有の危機に対して、日本を含む世界の結束が今こそ求められています。
 
(二村 伸 解説委員)

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