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時論公論 「原発事故4年半 進むか汚染水対策」

水野 倫之  解説委員

福島第一原発の事故から4年半、漁業者は苦渋の決断。
東京電力は汚染水対策の切り札として、建屋周りの汚染された地下水をくみ上げ、浄化して海への放出を開始。処理した水を海に流すのは初めてで、風評被害を恐れる福島の漁業者からは「信用できない」と根強い反対の声も。なぜ漁業者は容認したのか、政府と東電は不信感を払しょくし廃炉を前に進めることができるのか、今夜の時論公論は、困難が続く汚染水対策の課題について水野倫之解説委員。

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汚染地下水をくみ上げる井戸は原子炉建屋の真下に。深さは10数m。建屋周りに41か所あるほか、岸壁にあらたに設置。
東電は放出にあたってセシウムやトリチウムの濃度についてWHOが定める飲料水の基準よりもさらに低い基準を設け、浄化。
一連の作業は免震重要棟でコントロールされ、おととい、きのうとあわせて1,600t余りが海へと放出。東電は今週だけで4,000tを放出する計画。

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政府と東電はこの地下水の放出を、汚染水対策の切り札と位置付けてきた。
福島第一原発の敷地には山から毎日800tの地下水が流れ込み、一部が建屋に入って大量の高濃度汚染水が発生し、廃炉作業の大きな障害と。
タンクに余裕がないため、東電は去年、敷地山側の高台から地下水をくみ上げて海へ放出する「地下水バイパス」を開始。
しかし建屋から遠いところでくみ上げるため効果は限定的。今も毎日300tの地下水が建屋に流れ込んで高濃度汚染水と。
また建屋に入らなかった地下水も、事故で地下にしみ込んだ放射性物質に汚染され毎日400t、放射性物質の量にしてストロンチウムが48億㏃、セシウムが20億㏃、そしてトリチウム150億㏃が流出していると試算。

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そこで今回は建屋周りに加えて、岸壁に設置された井戸からも汚染地下水をくみ上げ、岸壁周りも鉄板で囲む計画。
高濃度汚染水の発生は半分の150tに、汚染地下水の海への流出は40分の1の10tまで減ることが期待できると、政府と東電は説明。

実はこの設備は、1年前には完成していた。しかし当初の見込みよりも半年以上遅れる事態に。
東電が汚染水のトラブルを繰り返し、風評被害を心配する福島の漁業者からの信頼を完全に失ったから。

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今年2月、排水溝から汚染された雨水が港の外に流出していたことを把握していたにもかかわらず、10か月も公表していなかったことが発覚。東電は『原因がわかってから公表すればよいと考えていた』と釈明。汚染地下水の放出を巡って話し合いが進んでいた最中だったこともあり、漁業者からは「裏切り行為で、信用できない」と批判、話し合いもストップ。

あれから半年、漁業者たちの東電に対する不信感が決して払しょくされたわけではない。
「信用はできない。さんざん裏切られているというかな」。
「安全なんだよってみんなに信用してもらえるくらい原発の人たちはちゃんとした説明をしてほしいです」
漁業者は東電が今回の地下水の放出を本当に安全に行うことができるのか、その能力に疑問を持っている。

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それでも今回、福島の漁業者が放出を容認した背景にあるのは、危機感。
事故後、原発から20キロ圏内の沿岸での操業は自粛され、20キロ圏外で試験的な漁が行われているだけ。生計を立てていく見通しが立たないため、組合員数も20%減。このままではじり貧で、福島の漁業を復興させるには汚染水対策を前に進めてもらうしかないと判断したわけで、福島県漁連の野崎会長は「すべての漁業者が納得したわけではなく、苦渋の決断だ」と。

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こうした漁業者の想いを無駄にするようなことがあってはならない。
政府と東電は決断を重く受け止め、万が一にも基準を超える放射性物質が海へ放出されたり汚染水が外部へ漏れることがないよう厳重に監視し、漁業者が求める情報を公開して丁寧に説明しなければ。

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特に今回は、地下水をくみ上げすぎて水位が低くなると、圧力差で建屋内の高濃度汚染水が漏れ出す恐れもあり、くみ上げすぎないよう水位を管理することが重要。
こうした監視は東電と協力企業の社員が免震重要棟で。
しかし東電は以前、汚染水タンクの異常を示す警報が出た際に、作業員に適切な指示をせず、汚染水をあふれさせるトラブルも。
同じような失敗を繰り返さないよう、データを誰が監視するか、社員や作業員へしっかり教育していかなければ。

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また情報公開でも失敗することがないよう、廃炉カンパニーの増田プレジデントらトップの責任ある対応。東電は過去のトラブルでも、原因がはっきりするまで事態の深刻さを認めようとしなかった。普段と違うデータが示された場合、海水の濃度に異常がなくても福島の人たちがどう感じるのかをトップは常に考えて説明するなど丁寧な対応を。

ただ漁業者の中には「裏切られ続けてきた東電が出すデータは信じられない」と言う声も。やはり政府がもっと当事者意識を持ち東電任せにすることなく現場への関与を強め、放射能濃度の監視はもちろん、情報公開を指導しなければ。

というのも、この汚染地下水のくみ上げだけで対策が完了するわけではない。発生し続ける汚染水はタンクにため続ける方針。
そのタンクもすでに1000基、汚染水は70万t。タンク内の汚染水は主な放射性物質は取り除かれリスクは下がりましたが、トリチウムだけは取り除くことができずに高濃度のまま残り、現状では海への放出はできない。
規制委はこのままタンクが増え続ければ廃炉作業の妨げになるとして薄めて海に放出するよう提言するも漁業者は反発。どんな方法を取るにせよ、漁業者をはじめとした福島の人の理解を得ることが不可欠。まずは今回信頼回復できるか。

(水野 倫之 解説委員)

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