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時論公論 「イラン核協議 『歴史的合意』の意味」

出川 展恒 解説委員 / 髙橋 祐介  解説委員

(出川展恒 解説委員)
こんばんは。ニュース解説「時論公論」です。
イランの核開発問題の平和的な解決に向けて、オーストリアのウィーンで行われてきた、
イランと欧米など関係6か国の直接協議が、14日、ついに最終合意に達しました。
今夜は、合意の意味と今後の課題を、アメリカ担当の髙橋解説委員とともに考えます。
 
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髙橋さん、私もこの問題を長年追いかけてきましたが、
まさに「歴史的」な合意ですね。

(髙橋祐介 解説委員)
アメリカにとって、長年にわたり国交を断絶して激しく対立してきたイランが、
核兵器を手にするという“最悪の事態”をひとまず阻止することができる、
しかも、その実現への道筋が「武力」ではなく
「話し合い」によって拓かれたという意義は大きいと思います。

(出川)
イランの核問題がなぜ重要なのか。
それは、もし、イランの核開発がこのまま進めば、
敵対する国、とくにイスラエルが武力行使に踏み切る恐れがあること。
そして、サウジアラビアなど他の中東諸国による核開発を招いて、
「核の拡散」に歯止めがかからなくなるからです。
今回の「合意」によって、こうした懸念は、
当面は、回避されたということができると思います。

(髙橋)
ただ、「これで万事解決」と喜ぶのは、まだ早いと言わざるを得ません。
アメリカ側では、イランが合意を守るかどうか、懐疑的な見方が根強いからです。
いずれイランは国際社会を欺き、核兵器の開発に手を染めるのではないか。
そうした不信感は拭えないのです。
このため、今回の合意がきちんと履行されていくのかを検証することこそが、
きわめて重要です。

(出川)
なるほど。今後の課題を議論する前に、
今回の「合意」の内容を簡単に説明します。
 
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●欧米側の狙いは、イランの核兵器開発の可能性を摘み取っておくことにあり、
イラン側の狙いは、制裁を全面的に解除させることにありました。
 
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●イラン側は、今後10年以上にわたって、核開発を大幅に制限します。
▼たとえば、ウラン濃縮に使う遠心分離機の数を、現在の3分の1以下に減らします。
▼製造する濃縮ウランは、原子力発電用の濃縮度の低いものだけにします。
▼イラン側は、IAEA・国際原子力機関が、
国内のすべての核施設を、予告なく査察することに同意しました。
 
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▼最後まで対立した問題ですが、テヘラン近郊のパルチンなど、
核兵器の開発疑惑が指摘される軍事施設への査察については、
IAEAが査察を求めることができる一方、
イランにも異議申し立ての権利を与えることになりました。
 
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●一方、イラン側が強く要求してきた制裁の解除について、
▼アメリカとEU・ヨーロッパ連合は、
イランが合意を守っていることを確認したうえで、
イランの原油輸出や金融取引を対象に行ってきた独自の制裁を停止します。
▼ただし、イラン側の合意違反が明らかになった場合は、
65日以内に、制裁を元に戻すことができるとしています。
 
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▼そして、アメリカやEUによる制裁とは別に、
イランが解除を要求した国連安保理決議に基づく制裁のうち、
イランのミサイル開発に関する制裁は、今後8年間、
武器の取引を禁止する制裁については、今後5年間継続することで
決着が図られました。

さて、髙橋さん、この「合意」に基づくイランに対する制裁の解除を
アメリカは、ただちに実行に移していくのでしょうか?

(髙橋)
いくつかハードルがあります。
 
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アメリカでは、イランとの最終合意について
議会による承認を義務付ける法律がすでに制定されているからです。
 
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▼それによると、まず大統領は合意の内容を議会に報告し、
60日間の審査を受けなければなりません。
▼その結果をふまえて議会は賛否の採決を行います。
合意に反対する野党・共和党は上下両院で多数を握っているため、
否決される可能性は高いと思います。
▼その場合、大統領は拒否権を行使すると明言しています。
この拒否権を覆すためには、議会側は3分の2以上が必要です。
共和党にそこまでの議席はありませんから
与党・民主党からも同調者が出てこない限り、
制裁の解除が可能になってくると考えられます。

(出川)
つまり、これから2か月間は、制裁解除は難しいということですね。

(髙橋)
さらに時間がかかるかも知れません。
 
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アメリカには、ほかの国々も巻き込んで、
イランのエネルギー分野を狙い撃ちにし、
イランを国際的な金融システムから孤立させるための制裁を定めた法律が、
「網の目」のように張り巡らされているからです。
そうした法律を撤廃する権限も、大統領ではなく議会が握っているのです。

(出川)
その場合、イラン側が強く期待する制裁の解除は、相当先になるわけです。
もし、そうなりますと、イランでは、保守強硬派が多数を占める議会や
強い発言力を持つ革命防衛隊が反発を強めるでしょう。
これまで、交渉と合意を支持してきた最高指導者ハメネイ師も態度を硬化させ、
合意を守らなかったり、破棄したりする可能性も、排除できません。

(髙橋)
問題になり得るのは、そうしたイランによる合意違反の疑いが生じた場合です。
アメリカは、イランへの制裁を復活させようとするでしょうが、
ロシアや中国が反対する可能性もあります。
ヨーロッパ諸国も、イランのエネルギー資源や市場には強い関心を寄せているので、
各国が結束して対応するのが難しい場面が出てくるかもしれません。
 
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(出川)
一方、今回の合意には、イスラエルが強く反対しています。
ネタニヤフ首相は、「イランの核保有に道を開く歴史的に悪い合意だ」
とこきおろしました。
イランの核開発にお墨付きを与える内容で、イランは、今後、核技術を向上させ、
いずれ、核兵器を開発できる水準に到達すると懸念しています。
ネタニヤフ政権としては、
▼まず、アメリカ国内のいわゆる「イスラエル・ロビー」を通じて、
アメリカ議会に対し、今回の合意を承認しないよう、強く働きかけると見られます。
▼そして、しばらく先になりますが、イランの核開発が進み、
核兵器の保有に近づいていると判断した場合には、
武力行使の選択肢も排除していないと見られます。
 
(髙橋)
いま出川さんが言った「イスラエル・ロビー」とも関連しますが、
来年11月のアメリカ大統領選挙への影響も注意深く見ていかなければなりません。
今後イランが合意を守るかどうか次第では、
対イラン政策そのものが、選挙の争点になる可能性は十分にあります。
 
(出川)
アメリカとイランが、今回の合意をきっかけに、関係を改善する可能性については
どう見ますか。
 
(髙橋)
アメリカとイランは今、シリアやイラクで勢力を伸ばす
過激派組織「IS・イスラミックステート」という
「共通の脅威」に直面しています。
今回の合意をきっかけに、両国の間に信頼関係が生まれてくれば、
IS対策など別の問題でも協力できる可能性が出てきます。
しかし、今回の合意が、長年にわたる敵対関係を解消し、
真の意味での関係改善につながるかどうかは、まだわかりません。
重要なのは「信頼せよ。されど検証せよ」という「信頼と検証」の原則です。
オバマ大統領が、今回の合意を、自らの歴史的業績として後世に残せるのかどうかも、
イランに合意を守らせることができるか、その「検証」にかかってくるでしょう。
 

(出川)
1979年の「イスラム革命」以来、対立を続けてきた
イランとアメリカなど国際社会の関係を考えますと、
まさに「歴史的」な合意に到達したと言えます。
今後、制裁が解除されてゆけば、
イラン産原油の輸出や外国企業のイランへの進出が促進されることも予想され、
世界の政治経済に与える影響は計り知れません。
しかし、イラン核問題の平和的な解決は、これからが本当の正念場です。
今回の合意をどう実行に移して行くのか、慎重な立場をとるアメリカ議会や、
強く反対するイスラエルなどの動向も含めて、当面、緊迫した状況が続きそうです。
 
(出川展恒 解説委員/髙橋祐介 解説委員)

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