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時論公論 「対米関係改善へ舵を切った中国」

加藤 青延  解説委員

(冒頭VTR 米中戦略経済対話)
今週、ワシントンで開かれた米中戦略・経済対話。中国による南シナ海の岩礁埋め立て問題や、サイバー攻撃問題、さらには中国の通貨人民元の国際化問題など多くの懸案を巡って、率直な議論が交わされました。

毎年一回開かれる米中両国政府間の大規模な戦略・経済対話。今年は、北京から400人以上もの閣僚や官僚がワシントンに乗り込み、二日間にわたってアメリカ側と議論を行いました。この対話を通じて、私は、米中両国が、これまでより少し、その間合いを狭めたのではないか。特に、中国は対米関係改善の方向に、舵を切ったのではないかという感じを持ちました。そこで、今夜は、この大規模な対話から何が見えてきたのかを考えてみたいと思います。
 
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今回の米中戦略・経済対話の結果をずばり一言で表現するなら、「求同存異」という四文字になると思います。この四文字熟語のうち、「求同」とは、共通の利益を追求するということ。そして「存異」とは、対立点は棚上げにするということです。

この言葉は、かねてから、米中関係がめざす目標として、よく使われてきましたが、ここ数年は、対立面が際立ち、ややかき消されてきた感がありました。そして今回、改めて、協力できる点では協力し、対立する面は極力争わないようにするという「求同存異」の結果に収れんしたといえるでしょう。
 
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では、具体的に見てみますと、このうち、共通の利益を追求する「求同」の側面で見ますと、米中両国政府は、今回、安全保障の相互信頼メカニズム強化のほか、テロ対策、エネルギー問題、温暖化対策など、およそ200項目について合意に達しました。
 
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一方、「存異」、つまり対立する面については、南シナ海の問題、サイバー攻撃の問題、さらに人権問題などが話し合われましたが、大きな進展は見られませんでした。

数の上で比較しますと、合意できた項目が非常に多く、対立したままの問題は比較的数が限られています。ただ対立が残った問題は、今後の米中関係を左右しうる大きな存在です。
 
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ここでは主な対立点として、▼中国が南シナ海で、岩礁を埋め立てて人工島を作っている問題。そして、▼双方が大きな被害を受けたと主張するサイバー攻撃の問題について見ることにします。
 
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このうち岩礁埋め立て問題についてアメリカ側は、中国が力によって現状を変えようとしているとして、埋め立てや軍事施設の建設を中止することを求めました。そして、▼南シナ海での自由な航行や飛行を認めるよう強く求めたのです。
 
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これに対して中国側は、▼中国の主権や海洋権益は守る。▼埋め立ては他の国もやっているなどと反論し、話し合いは平行線をたどりました。

ただ、私は中国側の主張の端々には、ことし前半の強気な姿勢よりも、この問題を沈静化したいという気持ちの方がより多く、込められていたのではないかと思います。
(VTR:バイデン副大統領)
「話し合いを軽視し、力を使って紛争を決着させようとすれば、不安定をもたらす」
(VTR:楊潔篪国務委員)
「中国は主権と海洋権益を断固として守ると同時に、争いを平和的に解決する」

ここで、注目したいのは、中国側の発言の重点の置き方です。相変わらず主権は守ると言っていますが、「他国が干渉すべきではない」という反発の姿勢より、「争いは平和的に解決し、力で解決することはしない」という以前の立場にもどったようにも聞こえます。
(VTR:南シナ海の埋め立て島)
実は、この問題で中国側は、戦略対話の直前に、「まもなく埋め立ては終わる」とか、「埋め立ててできた人工島には、灯台や海難救助施設などを建設し、国際社会に公共サービスを提供する」などと表明するようになりました。
埋め立てた人工島を巡っては、中国が軍事基地をつくり、南シナ海にも防空識別圏を設ける足掛かりにするのではないかという懸念も出ていましたが、中国側の態度の軟化で、その恐れは遠のいたのでしょうか。なお注意深く見守る必要があるでしょう。
さて、もう一つのサイバー攻撃問題はどうでしょうか。
 
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アメリカ側は、中国側からの攻撃で、民間企業の技術や情報が盗まれていることを問題視し、中国政府が支援しているのではないかと非難しました。これに対して、中国側は、政府の関与を否定すると共に、中国こそサイバー攻撃の最大の被害国であることを強調し反論しました。

こちらの方は、むしろ確執が深まる気配すら予感させるものとなりました。
その一方で、米中の接近を強く印象付けたのが経済分野での協力拡大です。特に、アメリカがこれまで中国に注文をつけてきたいくつかの経済問題で、中国側が手を打ってきたと感じられるものが目立ちました。たとえば、中国の通貨、人民元の問題。
 
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アメリカ側は、「当局の介入で、不当に低く抑えられている」として、当局によって厳しく管理されている人民元が、国際通貨をめざす動きを牽制しました。これに対して、中国側は、今回、「為替相場に大きな混乱がない限り介入を控える」として、過度な介入は行わない方針を伝えました。中国としては、人民元を、世界で通用する国際通貨に格上げしてゆくためには、世界のドル基軸体制を取り仕切るアメリカの求めに応じる必要があるという、戦略的な判断もあったものと見られます。

また、アメリカの銀行が、中国への本格的な進出を目指す金融の分野でも、動きがありました。アメリカが是正を求めてきた民間銀行の貸出規制に対して、中国が対応策を示したのです。
 
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これまで中国政府は、国内の民間銀行に対して、貸し出しを行う場合、その総額が、預金として集めたお金、預金残高の75%を超えてはならないという規制をしてきました。
これに対して、アメリカは、規制緩和を強く求めてきたのですが、今回の対話の直前に、中国が、この預金残高に基づく規制を撤廃したのです。

このように今回の大規模対話の成果やその中身を見てみますと、中国はアメリカに対して、多くの面で最近の強硬路線から、かつての柔軟路線へと舵を切ったように見えるのです。
それは、短期的には、ことし9月に予定されている習近平国家主席のアメリカ訪問を成功させる狙いがあるためと見られます。また、習近平国家主席が引退する直前、2022年の冬季オリンピックの開催地が、来月末に決まるのを前に、アメリカの対中国評価を高め、北京への誘致に有利な環境づくりをする狙いもあるとの見方も出ています。
 
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さらに、より中長期的な目で見た場合、中国は、アメリカとの関係を、対立から協力へと変えてゆくことで、最終的には、世界をアメリカと中国という二つの大国が取り仕切るという新しい大国関係を目指しているのではないかと思います。
 
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今後、もし、世界一の超大国アメリカと、世界第二の経済大国で軍事力でも力をつけてきた中国という2つの大国が接近し、世界を牛耳る傾向が鮮明化するようなことになるとしたら、私たち日本にも少なからず影響が及ぶ事になるでしょう。米中が、日本の頭越しに話を進めるケースが出てこないとも限りません。

もちろん、アメリカと中国との間には、政治体制や価値観の違い、さらには人権問題など、相いれない面が数多く存在します。米中が、無条件に手を組むことはあり得ないでしょう。ただ、米中両国がさらに接近した場合、アジアの先進国として生き残りを目指す日本はどう対処すべきか。我々は、米中の動きを水面下も含めてしっかりと見極めてゆく必要がある。そのことを今回の米中戦略経済対話の結果が何より物語っていると言えるのではないでしょうか。
 
(加藤青延 解説委員)

 

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