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時論公論 「国会延長へ 与野党攻防の行方」

太田 真嗣  解説委員

国会では、労働者派遣法の改正案が衆議院を通過し、政府・与党は、最大の焦点である安全保障関連法案の成立を期すため、週明けにも、いまの国会の会期を延長する方針です。これに対し、野党の多くは法案を廃案にするよう求めており、与野党の攻防は激しさを増す見通しです。今夜の時論公論は、これまでの議論を振り返りながら延長国会の行方を考えます。
 
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安倍総理大臣は、先にアメリカ議会で行った演説で、安全保障関連法案について、「今年の夏までに成立させる」と明言しました。これに対し野党側は、「国会軽視だ」と反発。与野党の攻防が本格化しました。法案は、現在、衆議院の特別委員会で審議されており、与党側は、関連法案をいまの国会で成立させるため、週明けにも今月24日までの国会の会期を延長する手続きを進める方針です。野党の民主党などは会期延長に反対していますが、与党などの賛成多数で可決される見通しで、与野党の攻防は延長国会へと舞台を移すことになります。
 
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通常国会の会期は、国会法の定めで1度しか延長できません。このため、いま、永田町では、政府・与党が、延長幅についてどのような判断をするかに注目が集まっています。それは単に国会閉会の時期を決めるだけでなく、今後の国会戦術、延長国会の姿に大きな影響を与えるからです。

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現在、政府・与党内では、会期延長を8月上旬までとする案と、8月下旬、もしくは9月上旬までの大幅延長とする案が検討されています。両案の一番の違いは、今年戦後70年の筋目を迎える、8月15日の『終戦の日』をまたぐかどうかです。

安倍総理大臣は、戦後70年にあわせて総理大臣談話を発表することにしています。8月上旬までとする案は、総理談話が、国会で論争の種になるのを避けるため、その前に国会を閉じてしまおうというものです。しかし、最大の弱点は、関連法案の審議日程を考えると非常に厳しく、最悪の場合、時間切れになる可能性があることです。
逆に、会期を8月下旬、もしくは9月上旬まで延長する案は、法案成立を第1に考えた案です。関連法案は、衆議院通過後、参議院で審議されることになりますが、参議院は与野党の議席数が拮抗しており、難しい国会運営となることが予想されます。それを念頭に、仮に参議院で関連法案が否決、あるいは採決に持ち込めなくても、憲法の規定に基づき、衆議院の3分の2以上の賛成で再可決して成立できるよう、十分な時間を確保しておこうという計算もちらついています。与党側は、今後の審議状況や野党側の出方などをギリギリまで見極めた上で、具体的な延長幅を決める方針です。
 
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いずれにしろ、週明けには国会の延長が決まり、与野党の攻防は、延長国会へと進むことになります。ただ、これまでの審議で、様々な課題も見えてきました。
一番の問題は、質問と答弁がかみ合ない場面が目立つなど、議論が深まっているとは言えないことです。例えば、最大の争点である、集団的自衛権行使について、野党側は、「歯止め不十分で、際限なく広がるおそれがある」と指摘しました。これに対し、政府は、「我が国の存立が脅かされる事態に限って行使を認めるなど、厳しい制限を設けている」と反論しました。しかし、具体的にどのような状況が、『国の存立が脅かされる事態』にあたるかについては、「政府が総合的に判断する」としており、具体的なイメージは一向に見えてきません。
 
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また、外国軍隊への後方支援を行う自衛隊員のリスクについて、野党側は、自衛隊の活動内容や活動範囲が広がることを踏まえ、「リスクが増えるのではないか」と追及しました。これに対して政府は、「自衛隊の活動は、常にリスクが伴っている。ただ、活動はあくまで戦闘行為が発生しないと見込まれる区域で行い、危険な状況になれば直ちに中止する」と説明しており、議論は平行線のままです。
 
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NHKが今月初めに行った世論調査で、関連法案について、「政府は、国会審議の中で十分に説明していると思う」は7%。一方、半数以上の56%の人が「十分でない」としています。
 
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与野党ともに「丁寧な審議が必要だ」としていますが、どれだけ多くの時間を割いても、議論が深まらなければ意味がありません。これまでの審議では、政府側が紙を読み上げて同じ答弁を繰り返し、議論が中断する場面も目立ちました。「足をすくわれたくない」との思いでしょうが、説明責任がある以上、内容が国民に全く伝わっていない現状を、政府は、もっと深刻に受け止める必要がありますし、そうした政府の姿勢を正していくのは、与野党を超えた議会全体の役割の筈です。

<後半国会の展望>
では、各党は、今後の延長国会にどう臨もうとしているのでしょうか。
与党側は、関連法案の成立に万全を期すため、来月上旬にも衆議院で採決を行い、参議院に送りたい考えです。しかし、与党内にも国民の理解が進んでいない状況の中で採決を強行すれば、世論の強い反発を招きかねないという懸念が根強くあります。こうした中、安倍総理大臣が、先週、維新の党の最高顧問を務める橋下大阪市長らと会談するなど、政府・与党内には、維新の党との協力を模索する動きが出ています。そこには、野党の協力関係にくさびを打つのと同時に、「法案に賛成とは言わないまでも、採決には応じてもらい、『与党だけの強行採決』と批判されるような形になるのは避けたい」という思惑もあります。
これに対し、維新の党の松野代表は、「修正協議に応じるつもりは全くない」としています。
しかし、党内には、橋下市長に近い議員から与党との修正協議に前向きな意見も出ており、今後、維新の党の対応が法案の行方に影響を与えることになりそうです。
 
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一方、民主党や共産党などは、「関連法案は憲法違反だ」と主張し、政府・与党への対決姿勢を強めていく方針です。先に行われた衆議院の憲法審査会の参考人質疑で、出席した3人の学識経験者全員が、関連法案を「憲法違反」と指摘したことなどが追い風となっていますが、巨大与党に対抗する有効な手段がないのも実情です。実際、労働者派遣法の改正案をめぐっては、審議を中断させようとして、もみ合いとなり、「昔の野党に逆戻りした」との批判も受けました。法案の問題点をあぶり出し、国民の共感を得ながら、どこまで野党の共闘体制を維持することができるかが課題です。

かつてアメリカの国論が二分する中で行われた、ベトナム戦争は、その正当性を否定する声が絶えないほか、戦後、帰国した帰還兵が、戦争反対の人々の冷たい目に晒され、深く傷ついた例なども報告されています。国を守るために最も重要なのは、幅広い国民コンセンサスであり、それが無いままにことを進めれば、将来、重大な禍根と多くの悲劇を生みだすことになりかねません。
与野党の駆け引きは、今後、さらに激しさを増すことが予想されます。日本の安全保障法制が大きな転換期にある中、延長国会で、国民の間にきちんとしたコンセンサスを生み出すことができるか、議会全体としてのあり様が厳しく問われることになります。
 
(太田真嗣 解説委員)

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