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時論公論 「MERS 日本の感染対策は大丈夫か」

中村 幸司  解説委員

MERSコロナウイルスの感染が、韓国で広がっています。感染者は、2015年6月11日現在で122人、このうち10人が死亡しました。
パク・クネ大統領は予定していたアメリカ訪問を延期するなど、韓国では危機感が高まっています。
初期の段階で、十分な対応ができなかったことなどから、対策が後手後手になりました。ウイルスを封じ込められるか、注目されています。
韓国で、広がったウイルスの感染を日本は防ぐことはできるのか考えます。

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MERSは、MERSコロナウイルスに感染して発症します。ウイルスは、ヒトコブラクダからヒトに感染するとされ、重い肺炎などを引き起こします。飛まつの中にウイルスが入り込み、ヒトとヒトとの間でも感染が広がります。

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2012年に最初の患者が報告され、2015年6月11日までに、およそ1300人が感染し、400人を超す人が死亡しました。致死率の高い病気です。

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韓国で最初の患者が発症したのは、5月11日です。
しかし、MERSと診断されるまでに9日かかり、その間に4つの病院を受診したて、感染が広がりました。特に2つの病院では、30人、50人という規模で感染が広がりました。

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感染した人は、医師や患者を見舞いに訪れた家族、同じ病棟の患者などです。死亡した10人は、高齢者や基礎疾患のある人が多く、体の抵抗力が弱い患者が重症化して死亡したとみられています。

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これまでのところ感染は、いずれも病院の中で起き、ひとりひとり感染経路を追うことができているということです。しかし、今後、誰から感染したのかわからない患者が現れると、それは、ウイルスの封じ込めに失敗したことを意味し、事態は深刻になります。
韓国は、感染対策の正念場を迎えていると言えます。大統領のアメリカ訪問延期も、そうした状況を見据えてのことだと考えられます。

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韓国で感染を防げなかった大きな原因は、最初の患者の診断が遅れたことにあります。
患者は、サウジアラビアなどの国々を訪れていましたが、MERSの患者やラクダと接触した形跡はなかったことなどから、診断に時間がかかったとみられています。
その診断の遅れが、医療機関側の不十分な対応につながり、院内感染が起きてしまったと考えられます。
MERSは、これまでも院内感染で広がるケースが多く報告され、過去の感染者の半分ほどは院内感染だといいます。ただ、病院内で1人の患者から30人以上に感染が拡大するというのは、ほとんど例のないことだといいます。
なぜ、これほど多くの患者に感染が広がったのかは、わかっていません。
WHO=世界保健機関は、専門家を韓国に派遣して、調査を行っています。院内感染拡大の原因が明らかになれば、実効性のある対策が見つかることも期待され、調査結果が待たれます。

では、日本にウイルスが入ってくることはないのでしょうか。その可能性は否定できません。
韓国の事態を受けて、厚生労働省は、早期診断を徹底しようと、空港など水際での対策を強化しています。

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中東の国などから訪れた人については、38度以上の高い熱や呼吸器の症状などを示している場合、あるいは、患者やラクダと接触した人は軽い発熱でも、感染の疑いがあると判断します。
韓国から来た人については、MERSが疑われる患者を診察した医師や患者と同居している家族のように、患者と接触をした人が38度以上の熱を出していたら、MERSの疑いがあるとされます。こうした感染のリスクが高い人は、疑いの段階で入院してもらいます。
熱がない場合も、後から発症することがあるので、すぐに対応できるようにと、最長で潜伏期間の14日間、1日2回、体温など健康状態を確認する措置をとることにしています。
入院する病院は、感染対策の設備などをそなえた、全国300余りの医療機関が指定されていて、診断を確定させ、患者は治療を受けることになります。

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ただ、たとえば中東を訪れた際、患者と接触したということに、気付かないまま帰ってくることがあるかもしれません。症状が出ていなければ、そのまま検疫を通過してしまいます。
水際の対策には一定の限界があります。

では、日本国内に患者が入ってしまったときの対応はどうでしょうか。

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医療関係者の間からは、患者が運ばれてきても十分な対応ができないのではないかという声が聞かれます。指定された病院に感染症の対策をした病室はあっても、集中治療室が対応していないケースがあるからです。症状が悪化したとき、ほかに重篤な患者がいる集中治療室に
MERSの患者を移すことはできず、治療が制限されてしまうのではないかというものです。
一つ一つの病院でどれだけの感染対策と治療ができるのか点検し、より高度な治療態勢を整えることが求められると思います。

そして、国など行政の取り組みや、医療機関の態勢整備とともに重要なのが、国民一人一人が感染症を理解することだと思います。

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たとえば、帰国後、しばらくして症状が出た時、バスに乗って病院に行くようなことをしたら、不特定多数の人に感染を広げてしまうことにもなります。
自分が感染症を発症するリスクがあるのかどうかや、症状が出た時、どう対処するのか、しっかりと理解して、責任のある行動をとることが求められます。
体調が悪くなったからといって、やみくもに病院に向かうのではなく、保健所などに相談して、専門的な指示を受け、それに従うことが大切になります。

さて、このMERSの危険は、いつまで続くのでしょうか。

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MERSと同じ仲間のウイルスの感染症にSARSという病気があります。2002年に確認され、700人を超す人が死亡しましたが、2003年、WHOが「終息宣言」をしました。
SARSのウイルスについては詳しいことはわかっていませんが、ウイルスが、コウモリからヒトに来るケースが少ないので、ヒトからヒトへの感染対策を徹底することで、終息させることができたとされています。
MERSは、どうでしょうか。
ラクダは、中東では、人が接触する機会は多く、観光客相手のラクダに乗るツアーや大規模なラクダの祭りも開かれるなど、常に感染が供給されるような状態になっています。
このため、終息は難しいと考えられています。
MERSの対策は、韓国への対応だけでなく、長期的な視野で考えていくことが必要です。
MERSの重症患者を受け入れる集中治療室の充実や国民に対する感染症の啓蒙などを進めていくことが重要になってきていると思います。

対策が後手後手になっている韓国の状況は、2014年、代々木公園周辺を中心に感染が広がった日本のデング熱の対応と重なります。
デング熱が広がる恐れがあることはわかっていても、長い間、国内で感染が確認されずにいる中で、行政の対策も、医療機関の意識も、国民も、危機感が薄くなっていたと反省しなければなりませんでした。
いま、MERS以外にも、致死率の高いエボラ出血熱、マラリア、インフルエンザなど、様々な感染症が世界的な問題になっています。
外国人観光客が増えるなど、海外との行き来が多くなる中で、感染症が国内に入ってくることを常に想定しないといけない時代であることを改めて認識し、対策を進めていくことが必要になっています。

(中村幸司 解説委員)
 

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