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時論公論 「中国主導 アジアインフラ投資銀行 創設から見えてくるもの」

加藤 青延  解説委員

今晩は。中国が設立を呼び掛けたアジアインフラ投資銀行AIIBは、アジアやヨーロッパなど六十か国近くが参加して創設されることになりました。そこで今夜は、予想外の展開をみせた創設の動きと、そこから、一体何が見えてくるのかについて考えてみたいと思います。

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結論から申し上げますと、私には、次の3つが見えてきました。

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▼まず、中国の「一挙両得」そして「てんか・いふく、禍転じて福となす」策の登場。
▼次に、壮大なユーラシア大陸の経済発展をめぐる東西の思惑の一致。
▼さらに、かつての冷戦構造とは全く異次元のねじれた国際環境の鮮明化であります。

まず、中国の「一挙両得」「禍転じて福となす」政策についてご説明しましょう。
中国は過去十年、高速鉄道網や高速道路網など国内のインフラ建設投資に膨大な資金を投入し、二けたの高度成長を達成してきました。

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ところがインフラ整備は、飽和状態に近づき、いま中国国内には、鉄鋼やセメントなど材料の在庫が山積み状態です。おかげで、経済成長にもブレーキがかかってしまいました。その一方で、外国との貿易で年々蓄えてきた外貨準備は大幅に膨れ上がり、その使い道にも困り始めていたのです。
一方、広大なアジアには、インフラ整備を求める声が山のように存在しています。
そこで、これからは、あまったモノとカネを海外に投資することで、自らの経済成長を支えようという発想が生まれてきたのです。

ただ、中国には大きな不満がありました。すでにアメリカに次ぐ第二の経済大国になったのに、国際社会の経済体制は、アメリカを中心にがっちり固められていて、中国が十分な発言力を持てないという不満でした。

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現在、世界経済の中心的な役割を果たしているIMF・国際通貨基金への出資比率を見ますと、アメリカが圧倒的に多く、中国はわずかにとどまっています。中国の出資枠拡大などIMF改革も動き出してはいますが、中国の思い通りには進んでいません。同様に、アジアでは、日米が主導するアジア開発銀行ADBが大きな力を持ってきました。ここでも、中国の出資比率は日米の半分以下です。

つまり中国としては、現状では過小評価されている国際影響力を示すために、国内に抱える大量の在庫と豊富な外貨準備を活かして、自分たちが主導するインフラ投資銀行を作ろうという、「一挙両得」、「禍転じて福となす」という妙案に至ったといえます。
ただ、それは、アメリカを中心とした既存の国際経済体制に対する中国の挑戦とも受け止められ、アメリカをはじめ西側の多くの国々の警戒を招きました。それにもかかわらず、なぜ、多くのヨーロッパ諸国が中国の呼び掛けに応じて参加したのでしょうか。

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こちらは創設メンバーとなった57カ国を地図上に記したものです。中央にあるのが壮大なユーラシア大陸です。大陸の東端に中国、西端には、EUという大きな経済体があり、まさにインフラ整備を求める新興国や途上国を挟み込んでいる形なのです。

そしてそこからは、ユーラシア全域の発展にあやかろうという東西双方の思惑の一致が見えてくるのです。ただ、今回の話が、とんとん拍子に決まったかというと決してそうではありませんでした。実は、大きなきっかけとなったのが、イギリスだったのです。

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中国はおととし秋、AIIBの設立を呼びかけました。そして一年後の去年秋の段階で、参加を表明したのは投資を呼び込みたい新興国や途上国など21カ国でした。

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ところが今年3月になって、突然、イギリスが西側先進国として初めて名乗りを上げました。

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すると、それまで躊躇していたヨーロッパの主要国が「我も我も」と次々に参加を表明、一気に57カ国にまで膨れ上がったのです。

アメリカと親しいイギリスが、なぜアメリカ主導の経済体制に刃向かうようにも見えるアジアインフラ投資銀行に率先して参加を表明したのでしょうか。そして、イギリスが手をあげると、どうしてほかの国々も次々に手を挙げたのでしょうか。そこには、互いに相手に負けられないというヨーロッパ内での競争もあったでしょうし、アジアとは別の「域外の国」として、少しの出資で大きなプロジェクトにあやかろうという思惑もあったものと見られます。ドイツはさっそく、AIIBのヨーロッパ拠点をドイツに作るよう名乗りを上げています。ただ、私が注目するのは、真っ先に手を挙げたイギリスがアジアに保ち続けている歴史的な関与の深さです。

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まず、中国でイギリスの銀行は、唯一、外国通貨と完全に交換できる通貨を発行しています。香港ドルのことです。それだけではありません。イギリスは、かつてアジアの広範囲に植民地を築き、それぞれの国が政治的に独立した後も、銀行や通信網を基盤としたネットワークを通じて、その影響力を残してきました。

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イギリスの銀行HSBC、つまり香港上海銀行がもつ支店網は、中国本土はもちろん、東南アジア、インドなど実に広範囲に及んでいます。そして、そのHSBCこそが、金融立国イギリスを支える巨大な基盤でもあるのです。イギリスのAIIB参加表明の後、HSBCは、かつて香港からロンドンに移した本社を再びアジアに回帰することも視野に検討する方針を明らかにしています。実は、中国が打ち出している二つのシルクロード経済発展構想、そしてその中心的な裏付けとなるAIIBがカバーする地域とイギリスの金融面での影響力が及ぶ地域とはかなり重複しています。それが対立ではなく、協力になるのはなぜか。

私は、香港がイギリスから中国に返還された直後の1997年、それを狙い澄ましたかのようにアメリカのヘッジファンドが仕掛けて起きたアジアの通貨金融危機が、ひとつの教訓になったのではないかと思います。

【V:1997年アジア金融危機】
当時、東南アジアの多くの国の通貨が急落し、やがてその波が香港にも襲いかかったのです。その時、中国とイギリスは、IMFや世界銀行などの支援を受けず、二か国がタッグを組む形で、香港ドルの防衛に成功しました。

この時、イギリスは、香港に巨額の経済権益を保つ以上、中国とは金融面で、一蓮托生の関係にあると感じたのではないでしょうか。
最後にAIIB創設からみえてくるものとして、▼冷戦構造とは全く異次元のねじれた国際環境が鮮明化してきたことについて申し上げたいと思います。

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第二次世界大戦の後、世界は、アメリカとソビエトという東西二つの超大国が対立する冷戦構造に陥りました。この時には、両陣営の間は、鉄のカーテンで閉ざされ、軍事対立だけでなく、経済もそれぞれのブロックの中で展開するという形になりました。

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ところがその後、中国の登場で、安全保障面では対立。経済面では協力しあうという、矛盾に満ちたねじれの構造が生まれてきたのです。中国は、政治的には共産党の一党支配体制を維持し軍備拡張を進める一方で、経済的には、外資や市場メカニズムを大胆に取り入れ西側との関係を抜き差しならないところまで構築するという手に出てきたのです。

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アメリカなどが進める安全保障面からの中国封じ込め政策に対して、中国が今回打ち出したAIIBの創設は、経済によって軍事包囲網を突破しようという中国の戦略とも見て取ることができます。異次元ともいえるねじれの構造は今後ますます顕著化するでしょう。

では、日本はどうすべきでしょうか。実は、中国はいまなお、日本の参加を歓迎するという立場を崩していません。それは、日本が加わることで、銀行の格付けが上がるからです。
世界銀行やアジア開発銀行ADBは、最近、AIIBとは競うのではなく協力しあってゆく方針を示しました。もし日本が加わることで、その中身に深くかかわることができるのであれば、日本はアジアにおいて、ADBとAIIBという二枚のカードを手にすることになります。いずれにしても、安全保障と経済関係のねじれがますます顕著化する新たな国際構造の中で、国の繁栄とその影響力を維持発展してゆくためには、これまで以上にしたたかにふるまえる柔軟な英知が求められることになるでしょう。

(加藤青延 解説委員)
 

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