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時論公論 「待ったなし!子どもの貧困対策」

村田 英明  解説委員

子どもの貧困対策が動き出しました。
安倍政権は国民運動を展開し、民間の資金を活用して対策を進める方針を打ち出しましたが、国の予算も増額すべきだといった声が出ています。
子どもの6人に1人が貧困に悩み、待ったなしの対策が求められる中で、どのような支援が必要なのかを考えます。
 
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子どもの貧困率は悪化しています。
 
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厚生労働省の調査では、平成24年に16.3%で過去最悪となり、17歳以下の子どもの 
6人に1人、300万人あまりが貧困状態にあるとされています。
国民の平均的な所得の半分を「貧困ライン」と呼びますが、その基準に満たない所得の低い世帯の子どもたちが6人に1人もいるということで、24年の貧困ラインは122万円でした。
 
中でも深刻なのは母子家庭などの「ひとり親世帯」の子どもで、貧困率は54.6%、2人に1人を超えています。
 
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日本の子どもの貧困率は先進国の中でも高く、OECD・経済協力開発機構が去年公表したデータで比較すると加盟する34か国中9番目に悪く、ひとり親世帯では最悪の水準です。
 
背景には格差の拡大があります。
離婚などによるひとり親世帯の増加に加え、政府が規制緩和を進める中で、企業が正社員を減らし、賃金の低い非正規労働者を増やしてきたことが貧困率を押し上げているのです。
 
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そう言われても実感がわかないかも知れませんが、例えば、小・中学校では給食や学用品、修学旅行などの費用を市区町村が肩代わりする「就学援助」を受ける子どもが増えています。
平成24年度は155万人にのぼり、少子化で子どもの数が減っているにも関わらず15年で2倍に増え、小・中学生の15%あまりを占めるようになりました。
 
また、子どもの健康への影響も懸念されるようになっています。
 
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厚生労働省の研究班が、おととし小学5年生900人あまりに行った調査では、「休日に朝食を食べない」または「食べないことがある」という子どもが27%、「インスタントめんを週1回以上食べる」という子どもが26%と、いずれも4人に1人にのぼり、貧困世帯以外の子どもより10ポイントほど多くなっています。
この調査では貧困世帯の子どもの食事はコメやパン、めん類といった炭水化物が多く、肉や魚のたんぱく質やビタミン、ミネラルが不足していることもわかり、食生活や栄養に偏りがあることが明らかになりました。
 
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また、貧困問題の研究者のグループが3年前に小・中学生あわせて6000人あまりに行った調査では、親が子どもを病院に連れて行った方がよいと思いながら受診させなかったケースが1200人あまりでありました。
そして、このうちの128人は「医療費の自己負担金を支払えない」という理由で受診を控えていました。
 
このように、育ち盛りの時期に必要な栄養を取ることができない。
病気になっても病院に行くことができない子どもが豊かになった日本にも存在し、貧困率の上昇で、さらに増えることが懸念されているのです。
 
また、貧困は子どもの学力にも影響します。
塾に通いたくても通えないなど学習面で不利な状況に置かれ、学力が身に付かずに高校を中退する生徒や大学進学を諦める生徒が数多くいます。
そのことは就職にも影響し、生まれ育った家庭と同じように経済的に困窮する「貧困の連鎖」を生むおそれがあるのです。
 
こうした問題に国も積極的に取り組もうと、おととし「子どもの貧困対策法」が作られ、その具体的な対策を定めた大綱が去年、示されました。
 
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対策の柱は、「教育支援」、「生活支援」、「保護者の就労支援」、それに「経済的支援」の4つですが、実際には、勉強が遅れがちな子どもへの学習支援など「教育支援」が中心で、貧困家庭の解消をめざす対策は、ほとんど盛り込まれず予算がつきませんでした。
 
このように国の対策が不十分な中で、安倍政権は民間の資金を頼りにしようとしています。
 
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先月、総理大臣官邸に経済界や労働界の代表などを招き、国民運動を展開して貧困対策を進めると宣言。
民間から資金を集めて基金を作り、学習や生活の支援を行う団体に助成を行うほか、優れた活動を総理大臣が表彰するとしています。
 
これらの国の取り組みをどう評価するかですが、民間の資金を活用して対策を充実させるのは結構です。
ただ、本来、国の予算で取り組むべき対策がなおざりにされるようでは困ります。
 
では、どういった対策が必要なのか。
貧困問題の専門家たちが国に求めているのは経済的な支援です。
 
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大綱をつくる過程では、児童手当やひとり親世帯に支給される児童扶養手当の拡充。給食や修学旅行の費用の無償化。医療費の窓口負担をゼロにすること。
社会保険料や税の負担軽減などが話し合われましたが、すべて見送られました。
 
日本は所得が低い人たちの社会保険料や税の負担が大きく、にも関わらず、子育ての負担を減らすための社会保障の給付が少ない。
こうした社会保障のあり方を見直し、国が低所得者対策に本気で取り組まない限り、子どもの貧困は解消されないのです。
 
さらに、子どもが将来に希望を持てるようにするには「奨学金制度」を見直す必要があります。
 
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大学の学費が高くなる一方、親の収入が減っていることから、いまや大学生の2人に1人以上が奨学金を利用しています。
しかし、その大半は国の予算などで運営されている日本学生支援機構の「貸与型」の奨学金で卒業したら返済しなければなりません。
しかも、昔はすべて「無利子」だったのが、財政難を理由に利息の付いた「有利子」の奨学金が拡大され、いまでは「無利子」の2倍の人数に達して返済が困難になる若者が増えて問題になっています。
中には、返済のリスクを考え、大学進学を断念する人もいます。
 
貧困対策に力を入れるのであれば、負担が軽い「無利子」の奨学金を増やすとともに、欧米で普及している返済する必要がない「給付型」の奨学金の導入も検討すべきでしょう。
 
ところで、子どもの貧困をなくすには自治体の取り組みも大きなカギを握ります。そうした中、注目されているのが東京・足立区です。
 
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今年度から、子どもの貧困対策に取り組む専門の部署を設けて、「早期発見・早期支援」に乗り出しました。
 
「早期発見」。具体的には、子どもが生まれる前から貧困につながるリスクを見つけ出そうと、妊婦が母子手帳を受け取る際に提出する「妊娠届出書」で情報を集めることにしました。
アンケートの項目にパートナーとの関係や生活費などで困っていないか記入する欄を設けて、例えば、パートナーとの関係が悪いと答えた人がいれば、ひとり親世帯になるリスクがあると考えて、そうなっても孤立しないように必要な支援を考えます。
 
さらに、小学1年生の全世帯に協力を求めて貧困の実態調査を行うことにしました。保護者の所得や公共料金の支払い状況、虫歯の有無など子どもの健康状態や食生活などを調べて、明らかになった課題に重点的に取り組むためです。
 
子どもの貧困は、虐待や不登校、非行など様々な問題につながるおそれがあります。子どもの将来に大きな影響を与えるからこそ、深刻化する前に支援の手を差し伸べようと、足立区では個人のプライバシーに踏み込んで情報を集めることにしたのです。
 
私は、個人情報の取り扱いには細心の注意を払いながらも、まずは貧困の実態把握が対策を進める上では重要だと思います。
調査で浮かび上がった課題の解決に向けて自治体が対策を立て、国が財政面で後押しをして行く。さらに、国は国民運動で経済界を巻き込みながら低所得者対策に本腰を入れる。いまの政策を練り直して実効性のあるものにしていって欲しいと思います。
 
(村田英明 解説委員)

 

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