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時論公論 「中東の"代理戦争" サウジアラビア対イラン」

出川 展恒  解説委員

■こんばんは。ニュース解説「時論公論」です。
「アラブの春」と呼ばれたアラブ諸国の政変から4年。
独裁政権が崩壊した国々は、今、混乱のただ中にあり、
いくつかの国は、内戦に陥っています。
そして、サウジアラビアとイランの「代理戦争」の様相を呈しているケースも
見受けられます。
今夜は、中東・ペルシャ湾岸地域で起きている紛争を、
サウジアラビアとイラン、2つの地域大国の「覇権争い」という側面から考えます。

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■まず、アラビア半島の国イエメンを見て行きます。
現在、激しい内戦に陥り、
国じたいが分裂・崩壊する危機に直面しています。

イエメンという国は、伝統的な部族社会で、もともと、
「ひとつの国」としてのまとまりが弱く、
1990年に統一されるまで、北と南の2つの国に分かれていました。

軍人出身のサレハ前大統領が、強権的なやり方で国をまとめ、
長期独裁政権を維持していましたが、
4年前に起きた、アラブ諸国の民主化運動がイエメンにも及び、
退陣に追い込まれました。

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副大統領だったハディ氏が大統領に就任し、
新しい憲法を制定する作業を進めました。

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ところが、北部を拠点とする「ホーシー」と呼ばれるシーア派の武装勢力が、
連邦制を謳った憲法草案に不満を募らせ、
今年2月、首都サヌアを制圧しました。
クーデターです。

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ハディ大統領は、南部の主要都市アデンに脱出し、
その後、隣国サウジアラビアに身を寄せています。
ハディ大統領とシーア派武装勢力が、
ともに政権の正統性を主張する事態となっています。

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シーア派武装勢力に対しては、
シーア派の大国イランが、密かに武器や資金の援助を行っていると見られています。

これに対し、スンニ派の大国サウジアラビアは、
スンニ派のハディ政権を全面的に支持しています。

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先月26日、サウジアラビアをはじめ、スンニ派のアラブ諸国は、
ハディ大統領の要請を受けて、
シーア派武装勢力に対する空爆作戦に踏み切りました。
サウジアラビアとしては、隣国のイエメンに、
イランの影響力が拡大することは絶対に阻止したいと考えており、
展開しだいでは、地上部隊を送ることも検討しています。

先月末のアラブ連盟の首脳会議でも、サウジアラビアの強い呼びかけで、
イエメンからシーア派武装勢力を撤退させるまで
軍事作戦を続ける方針を確認しました。

このように、イエメンの内戦は、サウジアラビアとイラン、
ペルシャ湾岸の覇権を争う2つの地域大国による「代理戦争」という性格を帯び、
周辺国を巻き込んで拡大しているのです。

■サウジアラビアとイランの熾烈なライバル関係は、
過激派組織「IS・イスラミックステート」が勢力を拡げた
シリアとイラクにも、影を落としています。

■シリアでは、4年前に始まった内戦が、悪化の一途をたどり、
アサド政権、反政府勢力、そして「IS」による三つ巴の戦いとなっています。

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イランは、長年、シリアのアサド政権と緊密な協力関係を維持してきました。
今回の内戦でも、アサド政権を一貫して支持し、政治的、軍事的な支援を続けています。

これに対し、サウジアラビアをはじめ、カタール、アラブ首長国連邦、クウェートなど
ペルシャ湾岸のスンニ派のアラブ諸国は、
アサド政権がスンニ派の住民を大量に虐殺したとして退陣を要求し、
スンニ派の反政府勢力を支援してきました。
提供した資金や武器の一部は、「IS」にも渡ったのではないかと見られています。


■一方、イラクでは、フセイン政権の崩壊後、
人口のおよそ6割を占めるシーア派が、新しい国づくりの主導権を握り、
隣国のイランが、歴代の政権と、緊密な関係を築いてきました。

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去年秋に発足したアバディ政権は、
イラクで支配地域を拡げた「IS」に対し、掃討作戦を進めています。
しかし、政府軍だけでは戦力不足で、
シーア派の民兵組織が作戦に参加しています。
北部の町ティクリットの奪還作戦では、
政府軍をはるかに上回る規模のシーア派の民兵組織が、
イランの指揮と支援のもと、作戦に参加し、ティクリット奪還に大きく貢献しました。

イラク国内で、イランの影響力が拡大することについて、
国内のスンニ派勢力、および、サウジアラビアなどスンニ派のアラブ諸国は、
反発を強めています。
アバディ政権は、近く、北部の主要都市モスルを、
「IS」から奪還する作戦を計画していますが、
シーア民兵組織を参加させることについては、
スンニ派の反発や警戒感を考慮して、見送る判断に傾いているようです。

このように、イランとサウジアラビアの覇権争いと、
それに重なる宗派の対立が、「IS」との戦いにも、影響を与えています。

■次に、イランの核開発問題も、
この地域の国際関係に大きなインパクトを与えようとしています。
イランと欧米など関係6か国の直接協議が、
先週、「枠組み合意」という形で、大きく前進しました。

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この「枠組み合意」は、
イランが、核兵器を開発できないよう、厳しくチェックしながら、
原子力発電など平和目的の核開発、低い濃度のウラン濃縮活動を続けることを、
事実上容認する内容です。

かねてから、サウジアラビアは、
もし、イランが核開発の技術を確立すれば、
サウジアラビアとの覇権争いで圧倒的優位に立つと見て、
協議の行方を注視してきました。

■先日、日本を訪問したサウジアラビアのトルキー外務副大臣に
話を聞きましたが、
「今は、平和目的だとしても、イランが、今後も核開発を続け、
技術と能力を高めてゆけば、将来の政治決断で、
容易に核兵器を獲得できるようになる。
 イランは核開発によって、中東地域で覇権を握ろうとしており、極めて危険だ」。
このように述べて、
イランに対する警戒感や対抗意識を隠そうとしませんでした。

一方、イランの最高指導者ハメネイ師は、9日、
「アメリカが、イランの核問題で誤った対応をしなければ、
 それ以外の問題でも、話し合えるかも知れない」
と述べて、
核協議の結果しだいで、イスラム革命以来、激しく敵対してきた
アメリカとの対話を拡げる可能性があることを示唆しています。

そして、サウジアラビアは、事実上の同盟国であるアメリカが、
核協議を通じて、ライバル関係にあるイランと接近することを、強く警戒しています。

■ここまで、イランとサウジアラビアの関係を軸に、
中東・ペルシャ湾岸情勢を見てきました。

イエメンでは、サウジアラビアなどによる空爆作戦が始まって、
すでに2週間が過ぎました。
この間、南部の都市アデンなどで、激しい戦闘が続き、
640人以上が犠牲になり、30万人以上が避難生活を余儀なくされています。
しかし、事態収拾の見通しは全く立たず、
イエメンが分裂・崩壊する恐れも出ています。

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内戦の混乱に乗じて、イエメン南部を拠点とする国際テロ組織
「アラビア半島のアルカイダ」が支配地域を拡げています。
また、これまでイエメンでは活動していなかった「IS」も、
先月20日、首都サヌアで130人以上が犠牲になった
シーア派を標的にした爆弾テロを行ったと見られています。

■サウジアラビアとイランの覇権争いと宗派対立、
そして、外国による武力介入は、
イエメン、シリア、イラクなど、
この地域の内戦や紛争を、いっそう複雑なものにしています。
過激派組織によるテロの脅威を、これ以上、世界に拡げないためにも、
こうした国々が、「国家崩壊」や「無政府状態」に陥らないよう、
国連や関係国が主導して、
話し合いによる解決の枠組みをつくることが求められます。

(出川展恒 解説委員)

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