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時論公論 「腹くう鏡手術"連続死"を問う」

村田 英明  解説委員

なぜ、これほど多くの患者が命を落とさなければならなかったのでしょうか。

腹くう鏡を使った手術で群馬大学医学部附属病院で8人、
千葉県がんセンターで11人の患者が相次いで死亡しました。

保険が適用されない試験的な手術が倫理委員会に無断で行われたこと。
そして、死亡例が続いても問題視せず、組織として対策を打ち出さなかった
ことが死者の数を増やしました。

腹くう鏡という新しい医療技術をめぐって起きた今回の問題を
どのように受けとめて医療事故の防止につなげるべきかを考えます。

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患者の連続死は、去年、発覚しました。
高度な医療や質の高いがん治療を行う地域の拠点病院で
大勢の患者が立て続けに死亡していたことがわかり、
医療関係者にも大きな衝撃を与えました。

群馬大学附属病院では2010年から去年にかけて
40代の男性医師が行った腹くう鏡手術で
肝臓を切除された60代から80代の男女8人が手術を受けて
2週間から3か月あまりの間に死亡しています。

また、千葉県がんセンターでは2008年から去年にかけて
4人の医師が行った腹くう鏡手術で
肝臓やすい臓などを切除された50代から80代の男女11人が
手術の当日から8か月あまりの間に死亡しました。

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こうした状況について私の知る外科医たちは
「普通は同じ手術で死亡例が2つ以上続けば手術を中止し、
安全上問題がないか検証する」。
「これだけ多くの死者を出しながら病院が対策を行わないのは
理解できない」と言います。

患者の死亡が相次ぎながら手術をやめなかった医師と
問題を見過ごしてきた病院の双方の責任が問われているのです。

では、どこに問題があったのでしょうか。

第一の問題は難しい手術に対応する医師の技量の問題です。

腹くう鏡というのは胃の検査などで使われる内視鏡のことです。

お腹に数か所小さな穴をあけて、穴から挿入した腹くう鏡、つまりカメラを
助手が操作して手術を行う患部をモニターに映し出します。

執刀する医師は、このモニターの画像を見ながら電気メスや紺子を
穴から入れて手術を行います。

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お腹を切る開腹手術に比べて患者の負担が少なく、
手術の跡が目立たないといったメリットがある一方で
執刀する医師が患部を直接、見たり触ったりできないことや
手術に使う器具の操作には訓練が必要で開腹手術より難易度が高いといった
デメリットがあります。

実際に2つの病院で起きた死亡例をみると切る必要のない血管を傷つけたり、
メスで切ったあとを縫い合わせる縫合が不十分だったりして大量出血したことが死亡につながったケースが、どちらの病院でも報告されています。

そうしたケースでは手術の技術そのものに問題があったとみられています。

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二番目の問題は保険適用外の難しい手術が安易に行われていたということです。

このことが今回の問題の核心の部分だと私は思います。

保険が適用されていない手術は国が安全性や有効性を認めていない
いわば研究段階の手術ですが、そうした事故のリスクが高い手術が
今回の死亡例の大半を占めていたのです。

具体的には、群馬大学附属病院では、
死亡した8例すべてが保険適用外の肝臓の手術。
また、千葉県がんセンターでも死亡した11例中7例が保険適用外の
肝臓やすい臓などの手術でした。

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保険適用外の手術の難しさは、今回の問題を受けて日本肝胆膵外科学会が
緊急に行った調査でも明らかです。

回答があった207の病院のうち
腹くう鏡を使った保険適用外の手術の死亡率は
肝臓では8500件あまりの手術のうちの1.45%、
すい臓では2600件あまりの手術のうちの1.08%でした。

保険が適用される手術に比べると肝臓は5.4倍、すい臓は10倍以上、
死亡率が高くなっています。

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なぜ、保険適用外の手術はリスクが高いのか。
今回の問題で死亡例が多かった肝臓を例に説明すると、
5年前に腹くう鏡を使う肝臓の手術にも保険が適用されましたが、
その際に認められたのは、がんなどの腫瘍の部分だけを小さく切り取る
「部分切除」と肝臓全体の4分の1ほどの大きさの「外側区域」を切除する
方法の2種類だけでした。

肝臓は血管が入り組んでいて出血が起きやすく、
また、大きく切り過ぎると機能を維持できなくなるため
切り取る大きさや切る場所が制限されているのです。

しかし、今回の2つの病院では、そうした危険性があるにも関わらず
保険適用外の手術に挑戦し、その結果、ミスが多発しました。

群馬大学附属病院では、病院側が行った調査で、肝臓を大きく切り過ぎて
肝不全になったと見られるケースが相次いでいたことがわかっています。

また、千葉県がんセンターの調査でも
切る必要のない部分を切り取ったことが死因に関与したとされたケースが
ありました。

そうした中には、開腹手術でも難易度が高く、
腹くう鏡手術は避けるべきだったと指摘されたものもあります。

さらに、安全性が確立していない保険適用外の手術は、
臨床試験と同じように倫理委員会の承認を受けて行われるべきですが、
いずれの事例も倫理委員会には諮らず、現場の医師たちの裁量で
行われていました。

また、患者から手術の同意を得る際の説明が不十分で
手術のリスクを患者が十分に認識していなかった問題も指摘されています。

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患者の安全を守るという姿勢がまったく欠けています。

私が取材したある学会の幹部は、問題の背景には大学病院などでは
病気を治すことよりも自らの研究を優先させる医師が多い実情があると
指摘します。

そして、三番目にあげる組織の問題が事態をさらに深刻化させました。

千葉県がんセンターの第三者検証委員会の報告書は、病院の診療体制に
問題があったと指摘しています。

2010年に患者が死亡した手術では、
常勤の麻酔科医の不足を補うために専門外の歯科医師に
麻酔を担当させていたのです。

患者は麻酔科医が歯科医師だとは知る由もありません。

報告書は、麻酔薬の使用も適切だったとはいえないとして安全上問題があったとしています。

実は、こうした問題点について当時の麻酔科の医師がセンター長や県に
告発していました。

さらに、2013年には、患者が手術の当日に死亡した2つの事例について
がんセンターから県に報告があり医療事故調査委員会を設けて調査が
行われましたが、報告書は公表されず遺族にも説明はありませんでした。

その後も、腹くう鏡手術を受けた患者が死亡していて問題が起きていることを知りながら対策を取らなかったがんセンターと県の責任は重いと言えます。

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では、こうした問題を起こさないようにするためには何が必要でしょうか。

まずは、ほかの病院でも同じような問題が起きていないか調査をすべきです。

先ほど紹介した学会の腹くう鏡手術の実態調査では、
回答があった病院の半数以上が保険適用外の手術を行う場合に
倫理委員会の承認を得てないと答えています。

これでは、同様の問題が起きるおそれがあり、こうした危うい状況は
早急に改める必要があります。

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そして、国も問題を放置してはいけません。

保険適用外の手術は必ず倫理委員会で審査して
現場の医師の判断だけで危険な手術が行われないように
例えば、法令で審査を義務づけるなど実効性のある対策を打ち出すべきです。

確かに、どんな医療技術も
はじめは患者に試してみなければ安全性や有効性がわかりません。

ただ、患者が望んでいない手術を医師の研究心や実績づくりのために
行うことは許されません。

今回の問題ではどうだったのか、さらに真相を解明するとともに
問題が他の病院でも起きないように医療界全体で対策を進める必要があります。

(村田英明 解説委員)

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