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時論公論

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時論公論 『地球温暖化 加速する気象災害』

山﨑 登 解説委員 / 室山 哲也  解説委員

《前説・山﨑》
最近、異常気象による被害が増える傾向にあります。先月は南太平洋の島国・バヌアツを猛烈な勢力のサイクロンが襲って大きな被害がでました。また日本でもかつてはなかった豪雨が降って大規模な災害が起きるようになりました。こうした状況を踏まえて気象庁は9年ぶりに「異常気象レポート」をまとめ、『異常気象という言葉からは、もはや「珍しい、まれである」という印象が消えつつある』とまで書いています。
そこで今晩は、時間を延長して、気象災害を担当している私と地球温暖化問題を担当している室山解説委員の2人で、地球温暖化が加速させる気象災害の現状と対策を考えます。
 
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気象災害が頻発している

《室山》
地球温暖化については、わからないことが多かった。しかし、その後研究が進み、今では、温暖化と「異常気象」との関係が分かり始めている。
 
《山﨑》
(ニュースVTR)バヌアツはオーストラリアから東におよそ2000キロ離れた83の島々からなる国です。先月中旬に襲ったサイクロンは、中心気圧が896ヘクトパスカルまで下がり、最大風速は70メートルに達しました。バヌアツの赤十字は、被害は国の人口のおよそ半分にあたる13万人に及んだと発表しました。
 
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 最近こうした異常気象による災害が世界で増える傾向にあります。この地図は、最近世界で起きた主な気象災害を示しています。青色が大雨や台風、黄色は干ばつ、赤は熱波、紫は寒波です。気象庁はおよそ30年に1回ほどの頻度で起きる現象を異常気象と呼んでいます。異常気象の程度が激しくなったり、回数が多くなったりする要因に地球温暖化が影響していることが明らかになってきました。

室山さん、地球温暖化と気象現象について説明してもらえますか?
 
気象災害頻発のメカニズム~海が引き起こす水循環異変

《室山》
最近の研究で、異常気象は、海の温度と関係が深いということが分かってきました。
 
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最近、地球温暖化に伴って、世界の海全体の水温も上昇しています。
これは、1960年以降の世界全体の年平均海面水温の変化です。海水面温度の変化をみると、年を追うごとに上がっています。また、海の深い部分でも、年を追うごとに水温があがっていることが分かります。
海水温が高くなると、水の蒸発量が増えるため、上空に大量の雲ができ、そのエネルギーで台風が成長しやすくなります。バヌアツでも同じことが起きていると考えられます。
また、地球温暖化が進むと、海全体が膨張して、海水面が高くなっていくので、台風による高潮との相乗効果で、被害がさらに深刻になる傾向があります。

日本でも温暖化によるとみられる気象災害が頻発

《山﨑》
日本でも、かつてはなかった豪雨がたびたび観測されるようになりました。日本の年間降水量の平均はおよそ1700ミリですが、(ニュースVTR)2011年9月の台風12号では、奈良県上北山村で1800ミリもの雨が降り大きな被害が出ました。 
こうした記録的な雨の降り方は、高度経済成長の時代から積み上げてきた防災対策に見直しを迫っています。たとえば、全国の大きな河川の堤防は、150年とか200年に一度の降水量を想定しています。ところが最近の雨はこの想定を上回ったり、上回りかねないものになってきました。これまでの対策の限界といっていい状況なのです。

今後も温暖化は進んで、日本の気象現象は激しくなっていくのですか? 
 
《室山》
残念ながら、地球温暖化による影響は今後も進んでいくと考えられています。
これは、去年公表されたIPCC5次報告です。
 
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今後温暖化が進み、地球の平均気温が上がるにつれて、乾燥亜熱帯地域では、乾燥化が進み、逆に、熱帯、中緯度の地域では、今よりもさらに極端な雨が降るようになるとしています。
日本もこの中緯度の地域なので、今後、温暖化が進むにつれて、大雨の影響を受け、災害の危険性が高まることが予想されます。
 
気象災害にどう向き合うか?(対策)

《山﨑》
 ここまで地球温暖化がもたらす気象災害の激化と今後の予測をみてきました。
ここからは対策を考えていきたいと思います。
 
《室山》
温暖化対策の主役はCO2などの温室効果ガスの排出を減らす「緩和策」です。
炭素を出さないエネルギー、つまり再生可能エネルギーや、高効率の火力発電と、排出されたCO2を回収して地中に埋めるシステムをセットにして進める等の方法があります。原子力発電も、発電中はCO2を出さないのですが、クリアしていくべきいくつもの問題が残されている状況です。
 
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ところが、最近の研究で、「緩和策」だけで被害を食い止めることはできず、直接その被害に向き合う「適応策」が必要だということが分かってきました。具体的には、海面上昇や高潮、洪水などから沿岸地域を守るための堤防を作ったり、高温に耐える作物の品種改良、高温化で増える感染症対策など様々なことをする必要があります。
このように今後は、「緩和策」と「適応策」を両輪で進めていく時代に入っていくわけです。
しかし、この両輪を進めるには、私たち自身が、強く持続する意思を、しっかりと持つことが前提になります。

防災の文化を創る

《山﨑》
今後の防災対策を考える上で、最も重要なことが私たちの意識を変えることです。気象現象が激しくなったということは、防災対策の前提が変わったことを意味します。防災対策は堤防やダムなどを造るハードの対策と避難を進めるソフトの対策が車の両輪ですが、それぞれで地球温暖化に対応した新たな対策を考えていかなくてはいけない時代になりました。
これまでの防災対策は、どちらかといえば施設を造るハードの対策が中心でした。しかしその取り組みには限界があることを、4年前の東日本大震災ははっきりと教えました。
 
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この写真は岩手県釜石市の沿岸にあった高さ12メートルの堤防です。こうした堤防が三陸地方の沿岸に整備されていましたが、大津波はそれを簡単に乗り越えました。現地で話しを聞くと、見上げるような高い堤防があったから、それを乗り越えるような津波は来ないと思っていたとか、堤防があって海が見えない環境だったから、海に近い場所にいることを忘れがちで避難が遅れてしまったという声を聞きました。今後、台風や高潮などによる災害でも同じようなことが起きる可能性があります。
ハード対策の難しさは、ハードの施設がひとたび整備されると、それに頼りがちな人間を作ってしまうことにあります。だからこそ一人一人の防災意識を高め、危険が迫ったら避難し、危険が去ったら戻るという防災行動を当たり前のことにしていく「防災の文化」を作る必要があると思います。

《室山》
私も、今後最も大切なものは「想像力(イマジネーション)」だと思います。
というのも、地球の気温の上昇は、取られる対策の強弱にかかわらず、今世紀の中旬まではあまり大きな差はなく、今世紀末になって、大きく差が出てきます。つまり私たちの子孫の時代になって、本当の意味の温暖化の恐ろしさが目の前に現れてくるわけです。
想像力を働かせて、持続的に向き合っていかないと、温暖化問題を、根本的解決することができないということです。
 
格差被害をどう乗り越えるか

《山﨑》
地球温暖化の影響が地球規模ででていることを踏まえると、被害を減らしていくために格差の問題に目を向けることも日本にとって重要な視点です。
1982年から2011年までに発生した世界の主な自然災害のデータをみると、発生件数に占めるアジアの割合はおよそ40パーセントですが、死者数では50パーセント、被災者数では実に90パーセントを占めています。背景にあるのはアジアに災害が多いことと、アジアの多くの国々の貧困です。災害の被害は常に弱い立場の人や国に集中する傾向があるのです。

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たとえば同じ強さの台風が襲ってきても、日本とバングラデシュなどでは被害の出方に大きな差があります。それは日本と違って、河川の氾濫原などの危険地帯に堤防がないまま、多くの人が粗末な家屋に暮らしているからです。また防災の知識の普及も進んでいないうえに、避難を呼びかける警戒システムも整っていません。
(ニュースVTR)先月、仙台で開かれた「国連防災世界会議」でも、災害の被害を減らしていくために世界の貧困に目を向ける必要があることが指摘されました。災害に弱いアジアの国々からは、日本の防災のノウハウを教えて欲しいといった声が聞かれます。同じアジアの防災先進国である日本は、防災貢献のレベルをもう一段高いものにしていく必要があると思います。

《室山》
私も同感です。じつは地球温暖化の被害は、対応力のない、貧しい途上国に大きくあらわれる傾向があります。この格差の問題をどうするか?
今年末、パリでひらかれる国際会議COP21でもその問題が重要テーマの一つです。しかし、途上国支援をめぐっては、各国の利害が対立して、残念ながら、議論が紛糾し、進んでいない現状があります。
さらに、温暖化の影響は、地球上の地域によってあらわれ方の差が大きく、影響を受ける国とそうでもない国があり、温暖化対策をより一層困難にしています。
今後は、「国益」と「地球益」を両立させながら、このような複雑な状況を乗り越えていかなければならないのです。
 
まとめ

《山﨑》 
ここまでみてきたように地球温暖化の影響で気象災害が激しさを増していることに疑いの余地はなくなりつつあります。過去の経験が役に立ちにくくなってきました。自然が変わったのに、社会が従来の対策から抜けきれないと被害は拡大する一方です。防災意識を高め、地球温暖化に対応した新たなハードとソフトの対策を考えなくてはいけない時代になったということだと思います。

(山﨑 登 解説委員/室山 哲也 解説委員)
 

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