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時論公論 「旅客機墜落 空の安全の落とし穴」

辻村 和人  解説委員

フランス南東部で墜落した旅客機について、検察当局は、副操縦士が自らの意思で墜落させようとしたとみられると発表した。この旅客機墜落が空の安全に与えた衝撃について、お話しする。
 
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今月24日、スペインのバルセロナからドイツのデュッセルドルフに向かっていたジャーマンウィングスのエアバスA320型機がフランス南東部に墜落した。旅客機には日本人2人を含む150人が乗っていた。現在も捜索と遺体の収容が続いている。
この航空会社はドイツ大手のルフトハンザ航空系列のLCC・格安航空会社だ。ドイツ国内とヨーロッパ各地の合わせて110か所以上に就航している。ヨーロッパ有数のLCCだけに大きな衝撃が走った。
 
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墜落現場から操縦室の音を収録したボイスレコーダーが回収された。外観は壊れていたが音声の解析に成功した。フランス・マルセーユの検察当局が発表した解析結果は、『副操縦士が自らの意思で旅客機を降下させ、墜落させようとしたとみられる』というものだった。
 
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その根拠として、当局は以下の点を指摘している。▼機長が操縦室を出て、副操縦士1人になったあと、高度を下げる操作が行われた音が入っていること。▼戻ってきた機長が操縦室のドアをたたくなどして、ドアのロックの解除を求めたが応答しなかったこと。さらに管制官の呼びかけにも応じなかった。そして、▼この間、操縦室で人が規則的に呼吸をしている音が入っていること。つまり、すでに亡くなっていたり、体調の急変などで倒れていたわけではなく、意識があったと推測されている。
このことから副操縦士は自らの意思で降下し、旅客機を故意に破壊しようとしたとの見方を示している。
 
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アンドレアス・ルビッツ副操縦士は、2008年にルフトハンザ航空で訓練を受け始めた。数ヶ月間、訓練を中断した時期もあったが、その後復帰し、おととしから、ジャーマンウィングスの副操縦士として乗務している。630時間の飛行経験があった。
 
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パイロットが旅客機を故意に降下させ墜落するケースは、これまでも起きている。1999年にニューヨークからカイロに向けて出発したエジプト航空の旅客機が、大西洋に墜落し、乗員乗客217人全員が死亡した。
アメリカのNTSB・国家運輸安全委員会は、機長が操縦室から出たすきに、副操縦士が急降下させたと結論付けた。このときは、異常に気付いた機長がドアを開けて操縦室に戻ることができた。機長は上昇を試みたが、すでに手遅れで墜落に至った。NTSBは、副操縦士がこのような操作をした理由までは解明できなかった。
 
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その後、2001年に同時多発テロが起きた。旅客機をハイジャックし、体当たりでビルを破壊するという想像もしえない事態を受けて、絶対にハイジャックされないよう操縦室のドアが強化された。いわば二重のロックをかけることができ、パイロットが中から操作すれば、ドアを開けることができなくなった。

操縦室のドアが関連した事故は、その後も起きた。2005年、キプロスの航空会社・ヘリオス航空の旅客機がギリシャで墜落し、乗客乗員121人が死亡した。
ギリシャの事故調査委員会は、機内の気圧を調整するシステムのトラブルで酸素が不足し、パイロットが2人とも操縦できなくなり、燃料切れで墜落したと結論付けた。
この事故では、異常に気付いた客室乗務員の男性が操縦室に入るため、ドアのロックを解除を試みたが、時間がかかり、最後には操縦室に入ることができたものの、墜落を免れることはできなかった。
 
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今回のドイツの旅客機は、機長が操縦室を出たあと、およそ1万メートル降下した。この間、8分間あったが、異変に気付いたであろう機長が操縦室の中に入ることはできなかった。同時多発テロの教訓から、航空界では、何が起きても操縦室から出ずに、最寄りの空港に着陸することを最優先させてきた。パイロットが意図的に立てこもった場合には、中に入るすべはない。パイロットが2人であるのは、体調を崩したり、今回のようなことをカバーするためだが、強化されたドアのロックが物理的にそれを阻んだ。
 
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バスや鉄道、船でも操縦あるいは運転しているプロフェッショナルが自ら事故を起こそうとすれば防ぐことが難しい。しかしながら、航空機は、様々な安全装置で、パイロットのミスをカバーするよう設計されている。
墜落したエアバスA320型機は、片手で操作できるスティック型の操縦かんを初めて導入したハイテク機だ。パイロットの操縦ミスに対して、警告を発したり、失速や無理な姿勢にならないように修正する安全装置が備わっている。
墜落を防ぐ最後の安全装置に、地上接近警報装置=GPWSがある。地面に接近し衝突するおそれがある場合作動する。上昇するよう指示する「プルアップ」という音声と警告音が繰り返し鳴るもので、今回もボイスレコーダーに音声が記録されていた。しかし、この装置は衝突を回避するような操作を自動的に行う機能はなく、警告音が鳴るだけ。旅客機はそのまま墜落した。
 
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最近は、市販の乗用車に、障害物があったら自動的にブレーキがかかる安全装置付きのものもある。旅客機にも衝突を自動で回避する機能があればと考える方もいると思うが、なかなか難しい。
止まれば安全な車と違い、旅客機は上空で止まることはできない。3次元の空を飛行しているので、衝突を回避するにも複雑な判断と操作が必要だ。まさにそうした危機のために、パイロットは訓練を重ね、操縦室にいる。危険回避という面では、自動化は進んでいない。

今回の墜落は、ハイジャック防止のドアロックと墜落防止のハイテク安全装置が、こうしたケースに限っては、無力であることを改めて突き付けた。まさに空の安全の落とし穴といえる。

日本での安全対策はどうだろうか。
昭和57年、1982年に日本航空機の羽田沖墜落事故があったことをうけて、パイロットの身体検査の態勢やマニュアルを強化している。年2回の身体検査では、視力や心電図といった項目のほかに、精神面もチェックされる。専門医によるチェックや必要に応じて心理テストも実施される。
また、パイロットが1人になったときの対策として、酸素マスクを着用し、酸欠で意識を失うなどのトラブルに備えている。
さらに、航空会社によっては、パイロットが操縦室を出る場合は、代わりに客室乗務員が入り、2人態勢を維持するようにしている。今回の墜落を受けて、欧米の航空会社にも、同じような取り組みが広がっている。
 
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夜になって、今回の旅客機の副操縦士について、「勤務はできない」とする医師の診断書が見つかり、これを会社に提出していなかったと、ドイツの検察が発表した。
墜落の当日は勤務ができないとする診断書もあったということで、パイロットの健康管理の在り方に大きな課題を残した。事故の原因調査と検察当局の捜査が待たれる。
それらを踏まえたうえで、再発をどう防いでいくのか、考えていかなければならない。
 
(辻村和人 解説委員)
 

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