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時論公論 「免震装置問題なぜ見過ごされたのか」

中村 幸司  解説委員

大阪市に本社がある東洋ゴム工業が製造した免震装置で、装置の性能のデータが改ざんされていたことがわかりました。
免震装置は、大規模地震から建物を守る技術です。問題の免震装置が使われた建物は、全国に
55棟。これらの建物の安全性に問題がないのか、緊急の調査が行われているところですが、免震装置のデータ改ざんは、決して許されません。
なぜ、こうした不正を防げなかったのか考えます。
 
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免震装置とは、どのようなものなのでしょうか。
問題となっている免震装置には、エネルギーを吸収する特殊なゴムが使われています。このエネルギーを吸収する性質を使って、建物が揺れるのを抑えるのが免震装置です。
免震装置は、建物と基礎の間に設置されます。直径は製品によりますが50センチや、1.5メートルといったものもあります。
横方向に伸び縮みできるのが特徴で、地震のとき、ゴムが大きく変形します。地面から伝わってくる地震のエネルギーは、大半がゴムの部分で吸収され、建物本体には一部しか伝わりません。こうして建物の揺れを抑えることができるのです。
 
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東洋ゴム工業は、免震装置のエネルギー吸収能力が低いにも関わらず、規定の性能があるようにデータを改ざんし、製造・販売していました。
問題の製品が使われた建物は全国に55棟あり、この中には、エネルギーの吸収能力が半分程度しかない建物もあるということです。
このため、地震のとき想定以上に揺れて建物が損傷するなど、耐震性の問題が懸念されています。
国土交通省は、東洋ゴム工業に対して、建物の安全性の緊急調査を行うよう指示しました。
専門家は「建物の耐震性にはある程度の余裕があることから、建物の安全性が損なわれることは考えにくい」としています。
 
そうであったとしても、大きな問題が残ります。
それは「地震がおきても、建物の機能が維持できる」という免震構造への信頼が損なわれているのです。
 
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一般的に多くの建物が採用している耐震構造は、柱や梁、壁などで、地震に耐えるよう設計します。大規模地震では、室内の棚が倒れて、ものが散乱するなどして、建物に立ち入ることすらできなくなるケースもあります。
一方、免震構造は、大規模地震のとき揺れは、一般的な耐震構造の最大で10分の1程度に抑えられるといいます。このため、中の人の安全はもちろんですが、設備なども含めて建物の機能を維持しようというものです。
 
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問題の免震装置を使った建物の中には、高知県庁の本庁舎もあります。耐震改修として免震構造を採用しました。
高知県では、心配されている南海トラフを震源とする巨大地震が起きた時、被害を把握し、救命活動などを始めると同時に、待ったなしで襲ってくる津波からも人々を守らなければなりません。免震構造ですので、地震直後からこうした防災拠点としての役割を果たすことが期待されてきましたが、今回の不正で不安が広がっています。
免震装置は、もともと取り換えられるように作られています。東洋ゴム工業では、すべての免震装置を取り換えることを基本に「1年以内の交換を目指す」としていますが、建物の状況によっては、交換し終えるまでに1年以上かかるものもあると話しています。
地震はいつ起こるか分からないわけですから、建物の所有者の意向に沿って、早急に免震装置を交換できる態勢を整えることが求められています。
 
阪神・淡路大震災や東日本大震災から得られた貴重な教訓を生かし、「災害に強い街づくりを進めたい」と免震構造を採用した人たちの想いを考えるとき、今回の不正は、決して許されないものと考えます。
 
では、今回の不正は、なぜ防ぐことができなかったのでしょうか。
免震装置は、販売する前に国土交通大臣の認定を受ける必要があります。免震装置の試験は、メーカー自身が行います。その結果を、外部の性能を評価する機関で専門家が審査し、大臣の認定を受けるという手続きです。
 
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東洋ゴム工業では、試験データをもとに製品の性能を調べる担当を、10年以上ひとりに任せていたということです。国土交通省のこれまでの調べで、「営業現場から納期に間に合わせるようにというプレッシャーがあり、この担当者が改ざんした」とみられています。品質管理部門もありますが、データなどを見ておらず、不正に気づかなかったということです。
問題の製品を評価した日本免震構造協会では、書類上、不備がなく整合性が取れていたため、不正には気付かなかったと話しています。
 
再発防止にはどうしたらいいのでしょう。
 
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まずは、メーカーの社内チェック態勢の強化が求められます。
ひとりの担当者に任せるというのでは、不正だけでなく、うっかりミスでさえ、会社として気付かないということにならないでしょうか。試験やデータの解析など、すべての過程を複数の担当者で繰り返し点検するという品質管理を徹底させなければなりません。
そして、評価機関のチェックが機能しなかったについて専門家からは「評価機関は、製品を試験する装置を持っていないので、データはメーカーからもらうしかない。不正が行われないことを前提にしている現状の制度では、再発防止に限界がある」とも指摘されています。
そうであれば、評価機関が抜き打ちなどのかたちで、メーカーの試験に立ち会うなど、評価機関みずからが試験を行うか、それに準じたチェックシステムを作ることが必要ではないでしょうか。
 
今回の問題では、東洋ゴム工業の組織の姿勢も問われています。
東洋ゴム工業は、2007年、建物に使われる建材の耐火性能の偽装が相次いだ際にも性能試験を不正にパスして、燃えやすい建材を販売していました。
 
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そういった中で今回、再び問題が起きたわけです。免震装置の製品が性能を満たしていない疑いがあることがわかったのは、1年以上前の2014年2月のことです。長年の担当者が代わり、後任の担当が気付いたということです。
その後、本社が調査を行い、2015年2月になって「性能を満たしていない」という報告があったということです。
この間、12棟の建物に問題の免震装置が納入されていたということです。
 
耐火性能の問題を起こしたことを考えれば、
▽去年2月の時点で、なぜ徹底した調査が行えなかったのか、
▽問題ないことが確認できるまで出荷を一時的に止めるといった安全側の判断が、なぜできなかったのか、疑問として残ります。
耐火性能の問題が教訓として生かされておらず、会社の姿勢に問題があるといわれても、仕方ないのではないでしょうか。
 
免震構造は、阪神・淡路大震災をきっかけに注目され、最近では年間200棟前後建てられるようになりました。現在、全国にある免震構造のビルは3000棟を超えています。
今後も防災拠点をはじめ、重要度の高い建物などで、免震構造が検討されることと思います。しかし、今回の不正は免震構造の信頼に大きな影を落とすことになりました。
地震に強い社会づくりが安心して進められるようにするためにも、東洋ゴム工業には徹底した原因究明が求められます。
 
(中村幸司解説委員)
 

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