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時論公論 「18歳選挙権実現へ ~政治的・社会的影響は」

安達 宜正  解説委員

 与野党各党は選挙権年齢を18歳以上に引き下げる法案を週明けにも、衆議院に提出する方針です。法案は今の国会で成立する見通しで、来年夏の参議院選挙から実施される可能性が高まっています。今夜は18歳選挙権が実施される背景と、政治的・社会的影響を考えます。
 
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自民党、民主党、維新の党、公明党など与野党が国会に提出する公職選挙法の改正案は▼国政選挙や地方選挙の選挙権を18歳以上に引き下げる。▼18歳以上の未成年者が買収など連座制の対象となる選挙違反を犯した場合、成人と同様に処罰することなどが柱です。
 
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選挙権年齢の引き下げが実現すれば、昭和20年に25歳以上から、いまの20歳以上に引き下げられて以来、70年ぶりの改革となりますが、ようやく世界的な標準に近づいたとも言えます。世界の趨勢はすでに18歳までに選挙権を認めているからです。国立国会図書館が調べた、世界191の国と地域の選挙権年齢です。
 
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18歳までに選挙権が認められているのは176。実に92%です。主要8か国のうち、アメリカ、イギリス、ロシアなど日本を除く7か国すべてが18歳選挙権。オーストリアなどは16歳からです。
わが国でも選挙権年齢引き下げをめぐる議論は昭和40年代から、国会で何度も取り上げられてきました。しかし、▼政党の側、とりわけ長く与党の地位にある・自民党に慎重な意見が強くありました。少年法などで保護されているのに、権利のみを拡大することはバランスを欠くなどの理由です。このため、▼選挙権年齢の引き下げが政治日程に上ることはありませんでした。
それではなぜいま、選挙権年齢が引き下げられる見通しになったのでしょうか。憲法改正を成し遂げたいという、安倍総理大臣の意欲が背景にあると思います。
 
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憲法改正の是非を問う国民投票法は去年、改正され、国民投票への参加年齢を18歳以上としました。また同時に選挙権年齢の引き下げの法制上の措置を速やかに講じるとしました。法律の求め通りに選挙権年齢を引き下げれば、法整備の面でも、政治的な意味合いでも、憲法改正に向けた環境整備がまた一歩進むという判断が、総理にあったものとのみられます。

さて、選挙権年齢の引き下げは若い世代をとりまく政治的、社会的環境に影響を与えることになるのでしょうか。その可能性はあると思います。
 
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確実に言えることは若い有権者が全国で240万人増えることです。衆議院の小選挙区は295。単純計算で1選挙区およそ8000票、新たな票が増えます。小選挙区では数千票差で当落が決まることもあり、若い世代がまとまって動けば、数字の上では当落を左右する展開も十分にあり得えます。
シルバー・デモクラシーという言葉をご存じでしょうか。日本の政治は若い世代よりも、高齢者向けの政策が重視されているという指摘です。例えば、社会保障です。こちらをご覧ください。内閣府がまとめた世代ごとに生涯を通じた受益と負担の差額です。
 
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道路など社会資本や医療や介護といった公共サービスから受ける、「受益」と、それを受け取るために必要な税金や保険料などの「負担」を差し引くと、60歳以上は5000万円近く受益が上回る一方、20歳代では負担が1600万円以上、多くなる計算です。実にその差は6500万円を超えます。さらに20歳未満の将来世代と比べれば、その差は9500万円にもなります。この試算は平成17年に行ったもので、政府も社会保障や税制の改革などで、こうした世代間格差を埋めたいとしていますが、なかなか進んでいません。
その取り組みを加速させるには若い世代の声を政治に届ける必要があります。現行制度で利益を得ている側がみずから率先して、それを手放すのは簡単ではありません。
一方で、選挙権を18歳に引き下げただけでは影響はほとんどないという見方もあります。
日本の有権者数は1億人を上回ります。新たに増えるのは2%強に過ぎません。しかも若い世代の投票率はほかの世代と比べて、低い傾向があります。
 
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国政選挙の年代別投票率です。20歳代や30歳代といった若い世代の投票率はほかの年代よりも低いことがわかります。
これをどう打開していくかが、次の課題です。ここで、私は2つ提起します。
 
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1つは政治教育の拡充、もう1つは被選挙権・公職への立候補年齢の引き下げです。
まず、政治教育です。18歳と言えば、高校三年生。学校教育の場などで政治知識や判断力、そして批判力を養い、主権者意識をどう育てるかかが問われることになります。教育基本法で政治的中立性を求めていることが、教育現場に必要以上に政治教育の取り組みを慎重にさせているという指摘もあります。しかし、政治的中立と子どもたちに政治的、社会的な課題を考えさせることは両立できるように思います。
 
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例えば、ドイツ。「政治」という科目で、国政の課題を子どもたちに討論させます。ここで主要政党の政策を学ぶといいます。また、スウェーデンでは自分たちのことは自分たちで決める、住民自治の概念を学ぶため、子どもたち自身に修学旅行に行くか行かないか、行くならばどこか、そして予算まで決めさせます。中・高校生が日本で言う各党の選挙事務所、「選挙小屋」をまわることも珍しくありません。こうした諸外国のやり方を参考にすることも1つではないでしょうか。
もう一つ。被選挙権の引き下げです。同じ世代の仲間が議員に立候補すれば、政治的な関心も上向くのではないでしょうか。若い世代の求める政策を掲げ、候補者をたてることも可能になります。
 
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現在、日本の国会議員の立候補資格は、衆参それぞれ25歳と30歳からです。
都道府県知事は30歳です。しかし、これにも合理的な理由はないように思います。25歳になれば法律上は内閣総理大臣になれるのに、知事には30歳にならなければ立候補もできないというのは説得力がありません。
 
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ヨーロッパを中心に被選挙権を引き下げる国が相次いでいます。18歳までに被選挙権を与えているのはすでに50か国を超えています。こうした国々では高校生の地方議員など若い地方政治家が誕生しています。ノルウェーでは過去に高校生が国会議員に当選したこともあります。
若い人たちから支持を得たいという政党側の事情もありますが、若い世代の政治参加が着実に進んでいるとも言えます。学業との両立が可能なのかという懸念も聞こえてきそうですが、議会を夕方以降に開くことなど議会改革で対応しています。
今夜は18歳選挙権が実現することでの政治的、社会的意味を考えてきました。しかし、結局最後は、わたしたち大人が若者たちの政治参加の環境を整えることができるかどうかにかかっていると思います。国の借金は1000兆円を超えています。そして、超高齢化社会です。この借金を長い期間をかけて返さなければならない世代を政治決定の場から締め出していた、これまでの制度が時代にあわなくなっていたということかもしれません。政治の側が若い世代に魅力的な政策を提示するとともに、若者の側も政治に目を向けていく。18歳選挙権の実現がその第一歩となってほしいと思います。

(安達宜正 解説委員)
 

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