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時論公論 「フリースクールをどう支援する」

西川 龍一  解説委員

【前説】不登校の子どもたちが通うフリースクールにどのような公的な支援ができるのか。文部科学省は有識者会議を設けて初めての検討を開始しました。戦前から一貫して子どもを正規の学校に通わせることを親に義務づけてきた就学義務の転換ともなるこの問題について考えます。

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フリースクールは、不登校の子どもたちを対象に、学習の支援や体験活動といったことを行う民間の施設です。現行の制度では、保護者が子どもに教育を受けさせる就学義務を果たすには、小中学校などに通わせることが必要です。このためフリースクールに通っても学校に通ったとは見なされないことになっている一方で、20年ほど前、当時の文部省が元々通っていた小中学校の校長の判断で出席扱いができるよう認めたこともあり、不登校の子どもたちのための施設として認知されるようになりました。国が支援するとなれば、あいまいだったフリースクールの扱いを文部科学省が正式に決めるという転換点になります。

文部科学省は、全国におよそ400のフリースクールがあると見ていますが、設置基準があるわけではないため、運営主体や活動は様々です。国語や算数・数学などのカリキュラムを設けているところもあります。NPOが運営しているものや、不登校の子どもたちの親が自宅を開放して行っているものもあります。通っている子どもが数人のものもあれば、数十人の規模のところもあり、実態は把握されていません。

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国の不登校対策は、子どもたちの学校復帰が大前提とされてきました。こうした対策は「子どもが学校に戻ることを無理強いしている」などと、フリースクールと教育行政側が対立することもしばしばでした。フリースクールに通う子どもたちは、学校には行けないけれども居場所が欲しかったり、のびのびと学ぶ場を求めたりしてようやくたどり着いたというケースが少なくありません。一部に地方自治体からの財政支援を受けているフリースクールもありますが、大多数は公的な支援はほとんどなく、運営費は、子どもたちの参加費や寄付金などに頼るしかありません。実態として学校に代わる役割を担っている以上、何らかの支援が必要という声は以前からあがっていました。

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今回発足した有識者会議には、各地の教育委員会や大学の研究者に加えて、フリースクール側からも委員が参加しています。先月開かれた1回目の会議では、文部科学省側から、市販のガイドブックなどを元に各地のフリースクールにアンケートを行って活動内容やスタッフの状況、通っている子どもたちの経済的な負担などを調査する方針が示されました。ガイドブックに頼らざるを得ないというのは国としては心許ないことですが、支援をしようにもどの程度のフリースクールに何人の子どもたちが通っているか、何を必要としているのかがわからなければ検討のしようがありません。まずは実態の把握を急ぐ必要があります。

ようやく検討が始まったフリースクールへの公的支援策。きっかけは、去年7月の政府の教育再生実行会議の第5次提言でした。今の学校制度の見直しを求める提言の中で、「フリースクールなどの教育の位置づけや公費負担のあり方を検討すること」が盛り込まれたのです。これを受けて、文部科学省は、去年11月、全国のフリースクールに呼びかけた初めてのフォーラムを開催。出席した下村文部科学大臣は、フリースクールへのバックアップを約束しました。参加したフリースクールの関係者は、「フリースクールを始めた当初は、怠けている子どもをなぜ助けなければならないのかと言われ続けた。ようやくここまで来たのかと思うと感慨深いものがある」と言います。1992年には、国が「不登校は誰にも起こりうること」と認めたにもかかわらず、学校に行くのが普通の子どもで、不登校になるのは特殊な子どもという偏見の大きさをうかがわせる言葉だと思います。

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国がこうした施策に乗り出す背景には、これまでの文部科学省の対策では不登校は解決できないという実態があります。文部科学省の学校基本調査によりますと、昨年度の不登校の子どもは、小学生が24175人、中学生が95442人といずれも前の年度を上回りました。中学生は、全体の2.7%の割合で、クラスに1人は不登校の生徒がいることになります。グラフを見ますと中学生はここ数年はやや減る傾向に見えますが、生徒が減っていることを考えると高止まりの状態です。さらに文部科学省は、年間30日以上欠席した小中学生を不登校としていますから、欠席が30日未満だったり、教室には通えなくても保健室登校をしていたりする子どもは、数字には含まれません。文部科学省は、教育上の大きな課題として広く認識されるようになった不登校は、最早学校現場への復帰を目指すだけでは解決は不可能で、むしろ多くの子どもたちを引き受けているフリースクールの存在そのものを受け入れることこそ現実的であることにようやく気付いたとも言えます。

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有識者会議では、▽フリースクールを制度上どう位置づけるのか、▽学習面や経済面でどんな課題があるのかといったことが論点として示されました。こうした論点を議論するにあたってどんなことが必要なのでしょうか。2点あげたいと思います。

まず、行政側や学校関係者、保護者を含めて、国が認めた小中学校がすべてだという発想を転換するような制度上の位置づけを考えることです。学校側にも問題があるのに、こうした発想があることによって学校に行けない子どもたちはもとより、保護者の心にも罪悪感を生む元となっているからです。

たとえば諸外国では、フリースクールに加えて、自宅で親が学びを支えるホームエデュケーションや、ドイツで生まれた芸術を中心とした教育を行うシュタイナー教育など、学校として認められた施設以外のさまざまな学びの場が制度として認められています。子どもたちの状況やニーズに応じて学びの場を選択できるようにする。そうなれば、学校側も何も変わらないわけにはいかなくなります。学校一本槍という制度が子どもたちを窮屈にしていることを認識する必要があります。

2つ目は、国が支援をするからと言って、フリースクールの活動を規制するような方向に向かわないこと。多くのフリースクールが資金繰りや人繰りに苦労しながら通ってくる子どもたちの自主性を高めるような活動を模索し、現にそこに通う子どもたちが元気を取り戻しています。

この点について文部科学省は、フリースクールの自主性・多様性は保証するとしていますが、いざ公費を出すとなれば、口出しをするというのがこれまで繰り返されてきたことです。フリースクールが第2の学校になるようなことでは、再び子どもの居場所を奪うことにもなりかねません。

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去年、歴代総理大臣として初めてフリースクールを視察した安倍総理大臣は、そこに通う子どもたちに「学びも育ちもいろいろあっていい」と話したと言います。学校という1本のレールから降りたくても降りられないと言われてきた日本の教育制度が、降りたい時は降りてもいいし、また乗りたいときにはいつでも乗れる。グローバル人材の育成を言う以上、多様性を当然のこととして受け入れ、認め合う、いつでもやり直しができるような制度につなげることが必要だと思います。

(西川龍一 解説委員)

 

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