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時論公論 「宇宙開発はどこへ向かう?」

土屋 敏之  解説委員

次の日曜(11月30日)、小惑星探査機はやぶさ2の打ち上げが予定されています。
こうした、宇宙開発の基本方針を定めているのが国の「宇宙基本計画」ですが、その見直しが、いま大詰めを迎えています。
今夜は、日本の宇宙開発がどこへ向かうのか、展望します。
 
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そもそも、「宇宙基本計画」とは、宇宙開発の目標や、年間3千億円に上る宇宙関係予算の使い方など、宇宙政策を総合的・計画的に進めるため作られているものです。
現在の基本計画は去年1月に、5年間の政策を盛り込んで策定されました。

ところが、それから2年もたたない今年9月、安倍総理が、新しい基本計画を年内に作るよう指示しました。
我が国を取り巻く外交・安全保障環境の急変と、宇宙関連企業の事業撤退が相次いでいることなどを理由に、「政権の安全保障政策を反映させること」や「産業基盤の強化」を求めたのです。
さらに、厳しい財政事情を踏まえ、やるべきことに優先順位をつけるよう、指示しました。
背景には、現在の基本計画は、安倍内閣が発足直後に決めたとはいえ、その内容は民主党政権時代にほぼできあがっていたことがあります。

この指示から2か月足らずで、総理の諮問機関である「宇宙政策委員会」が、新たな基本計画の素案をまとめました。
その内容を見ると、現在の計画だけでなく、さらに1つ前の自民党時代の計画と比べてもいくつか目立った違いがあります。
 
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まず、これまでの基本計画には、「憲法の平和主義の理念」に基づくことが明示されていましたが、新しい素案では、こうした記載は見当たりません。
一方で、20数ページの中に「安全保障」という言葉が50回以上登場し、情報収集衛星を自衛隊の活動により役立てることや、日本版GPSや通信衛星などを自衛隊の部隊運用に活用すること、などが盛り込まれました。
 
基本計画が、「重点課題」に挙げるテーマを比べてみましょう。
現在の基本計画では、「安全保障・防災」と「産業振興」「宇宙科学などのフロンティア」の3つが挙げられていますが、新たな素案では、重点課題は「安全保障」に絞られています。
さらに、環境変化などを考慮して、産業振興などの政策を推進する、という方針です。
これに対して、科学研究などは「今後も一定規模の資金を確保」といった表現に留められています。
 
こうして見ますと、まず安全保障、次に産業に役立つことが宇宙開発の目的であり、すぐに経済的利益につながらない基礎科学などは二の次であるようにも読めますが、それでいいのでしょうか?
天文学者などからは、宇宙の真理を探究したり、人類の英知を広げるような「基礎科学の価値」も、もう少し認めてほしいといった声があがっています。
 
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素案をまとめた「宇宙政策委員会」のメンバーは、財界人や法律の専門家、宇宙飛行士など多彩ですが、実は過半数を占めるのは、宇宙分野の研究にたずさわってきた科学者です。
そこでまとめられた素案が、「科学軽視」と読める内容なのは、ちょっと不思議です。
 
しかし、関係者は、「今回の素案は決して科学軽視では無い」と口をそろえます。どういうことでしょう?
関係者によれば、「予算総額そのものを増やせることが 前提になっているので、優先順位の高い 安全保障や産業基盤だけでなく、科学の予算も充実させられる」と言います。
現在、年間3千億円の宇宙予算が、十年後までに4千億から5千億になる、と考える人もいます。
しかし、国の財政が厳しい中で、本当にそうした増額が可能なのでしょうか?
増額が認められなければ、結局、科学予算を削って、安全保障や産業基盤に回すだけではないでしょうか?
その疑問に対して、「たとえ期待通りの予算総額にならなくても、ISSをやめれば使える予算は増やせる」という声がありました。
ISS、国際宇宙ステーションが、どう関係しているのでしょう?
 
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実はひとくちに「宇宙での科学」と言っても、大きく2つのジャンルがあります。
ひとつは、人工衛星や「はやぶさ」のような探査機を使い地上で研究を行う、無人の「宇宙科学」や「探査」と呼ばれる分野。
もう一つは、宇宙ステーションや、かつてのスペースシャトルに人を送り込んで、宇宙実験などを行う、「有人活動」あるいは「有人宇宙開発」と呼ばれる分野です。
両者はひとつの研究テーマに一緒に取り組む事もありますが、予算獲得では、しのぎを削るライバルでもあります。
有人活動は宇宙ステーションだけで年間400億円近い予算があり、無人の宇宙科学のおよそ2倍です。
 
そこで、あらためて比較すると、今回、微妙な、しかし大きな変化がありました。

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現行計画では、今後も宇宙ステーションには「参加するのが基本」で、「参加の形態」、つまり、どう参加するか、を検討することになっています。
ところが、新たな素案では、「2016年以降は無人補給機・こうのとりなどで対応し、2021年以降は参加の是非を検討」=つまり、参加するかしないか、を検討することに変わっています。
「やめられる道筋をつけた」とも言えます。
当面は参加を続けるとしても、宇宙飛行士を送り込むのはやめ、国産の補給機・こうのとりを打ち上げるだけなら、メーカーのコストダウンで予算削減が可能です。
有人活動の関係者からは、その継続が「険しい道のりになった」という声も挙がっています。
 
こうして見てきますと、「安全保障」を最優先する政権。
産業に役立つ成果を求める、経済界への配慮。
それに加えて、「無人の宇宙科学・探査の予算を確保したい」科学者サイド。
仮にこの三つの目的が、「宇宙ステーション・有人活動の予算を削る」という方向で一致した結果、今回の素案ができたと考えると、この内容も腑に落ちます。
宇宙ステーションではこれまで、科学実験や地球環境の観測など、成果はあがっていますが、巨額の費用負担をしてまで続ける必要があるのか?という指摘もあります。
私も、有人活動の規模を縮小し、その予算を他に回すこと自体は、「選択肢の1つ」だとは思います。
ただし、それは国民に開かれた議論が前提です。
 
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もうひとつ指摘したい、宇宙基本計画の課題は、策定プロセスの不透明さです。
宇宙政策委員会は、全て非公開で行われます。
ひと月以上遅れて、簡単な議事録がホームページに掲載されるだけで議論の詳細はわかりません。
また、こうした国の計画案などは、国民の意見・パブリックコメントを求めるため、30日間、意見募集が行われることが多いのですが、今回の素案ではわずか14日間。
前回の計画策定時は21日間でしたから、さらに短くなっています。
これでは、国民の目も、声も、十分届かないのではないでしょうか?
 
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あらためて考えたいのは、宇宙開発の価値とはそもそも何か?です。
宇宙の利用は、防災や産業はもちろん、天気予報やカーナビなど、日常生活にも欠かせませんが、こうした形のある成果だけではありません。
例えば、科学者・技術者の中には、子供の頃、ロケットや宇宙の不思議に憧れて、理科系に進んだ、という人が少なくありません。
言わばそうした「夢」が、宇宙分野だけでなく広い分野に人材を供給し、科学技術立国・日本を支えてきました。
最近でははやぶさの帰還や若田光一さんのISSでの活躍に胸を躍らせた子供たちが、将来を担う人材に育ってくれるでしょう。
こうした、金銭に換算しにくい無形の価値も重要だと、私は思います。
 
新たな基本計画は、これまでより長い、今後10年の政策の方向を定めるとしています。
巨額の税金を費やす宇宙開発の長期計画を決めるにあたっては、ぜひ拙速に走ることなく、どこにどれだけの重み付けをするべきか、議論を尽くして欲しいと思います。
 
(土屋敏之 解説委員)

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