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時論公論 「大学入試改革 実現性は?」

西川 龍一  解説委員

知識偏重の大学入試から知識の活用力を問う大学入試へ。中教審・中央教育審議会が大学入試センター試験に替わる新たなテストの導入によって入試改革を進めることで日本の教育全体の改革を促進しようという答申案をまとめました。理念は理解できても実効性には疑問符が付き続けてきた大学入試改革は本当に実現するのでしょうか。今夜はこの問題について考えます。

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20日の中教審総会でまとまった今回の答申案、ポイントは3つです。
▽今の大学入試センター試験を廃止して、知識の活用力を問う新しいテスト「大学入学希望者学力評価テスト」を導入し、年複数回実施する。
▽高校在学中に学習の到達度をはかるため「高等学校基礎学力テスト」という新たなテストを設け、進学や就職の際の学力の証明として使えるようにする。
▽大学は、個別試験では、筆記だけでなく、小論文や面接、志望理由書など様々な物差しで学生を丁寧に多面的に評価するとともに、どんな学生が欲しいのか、そうした学生を選ぶためにどんな試験を行うのかを明らかにする。

新しいテストの導入は、「大学入学希望者学力評価テスト」が、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年度から。「高等学校基礎学力テスト」は1年早く、2019年度からとしていますから、今の小学校高学年の児童が受験にさしかかる時期になります。
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今回の答申案の狙いは、大学入試を変えることで、大学だけにとどまらず、高校以下を含む教育全体の改革につなげることです。このため、高校教育についても、大学入試改革と歩調を合わせて思考力や判断力などを育成できるよう、学習指導要領を抜本的に見直して改革をはかることを求めました。

大学入試改革について、中教審は専門の部会を設けておととしから議論を進めていましたが、去年11月、政府の教育再生実行会議がこれまでのような1点刻みの得点ではなく、成績を大まかに示す新たなテストの導入などを求めていました。背景には、学力低下の不安とグローバル化への対応があります。18歳人口の減少で、大学を選ばなければどこかに入学できる時代になりました。AO入試や推薦入試などの広がりで、事実上、学力を問われずに大学に入る高校生が多くなり、大学生の基礎学力や高校生の学習意欲の低下につながっていると指摘されてきました。一方で、難関と言われる大学でも知識ばかりを詰め込んだひ弱な学生ばかりでは、世界との競争に太刀打ちできないというわけです。
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では、高校生にとって、具体的に何がどう変わることになるのでしょうか。
2つの試験のうち、「高等学校基礎学力テスト」はすべての高校生向けに実施されます。原則、一回は受験することで、高校で身につけるべき基礎的な知識を習得できているかどうかを確認します。在学中に何回でも受けることができ、一番良い成績を、就職などに加えて、今のAO入試のような形式やスポーツ選抜など、学力試験を受けない入試の際にも使えるようにします。これによって、高校生の学習意欲を向上させ、学力を担保する狙いがあります。
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一般入試で大学に進む場合は、さらに「大学入学希望者学力評価テスト」を受験します。新テストでは、今の大学入試センター試験と違って知識や技能を単独で評価するのではなく、知識や技能を活用する思考力・判断力・表現力を評価します。そのため、教科や科目ごとにわかれている問題に加えて、複数の教科や科目にまたがる「合教科・科目型」や教科の枠組みにとらわれない「総合型」の問題もあわせて出題します。特に「読む・聞く」に偏っていると批判の強い英語に関しては、「読む・聞く・書く・話す」という4つの技能をバランス良く評価できるTOEFLなど民間の資格・検定試験の結果を換算して利用できるようにします。ただ、民間の試験の利用については、高額の受験料がかかることや、地方では受験機会が限られることなど、公平性の面からの課題が指摘されています。
結果はセンター試験のように1点刻みではなく、段階別の成績が示されます。その成績をもって各大学に願書を提出することになります。
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いずれの試験も年に複数回実施しますが、文部科学省は、基礎学力テストは夏と秋、学力評価テストは、今のセンター試験と同じ時期に2回実施することを想定しています。高校生にしてみれば、部活や学校行事に加え、学期ごとの定期試験もあります。高校生活が窮屈にならないか心配です。

さて、知識偏重から知識の活用力を評価する入試へという理念は理解できますが、複数の試験を受けなければいけなくなるだけではないかという疑念も生じかねません。本当にこんなテストができるのか。残された課題の中から2点あげたいと思います。
まずは、試験の中身についてです。一口で、「知識や技能を活用する思考力・判断力・表現力を評価する」と言っても、簡単なことではありません。そうした新しい学力をどのような試験で測るのか。どのような方法で評価していくのか。具体策は示されていません。複数の教科や科目にまたがる「合教科・科目型」の問題についても、どの教科・科目をあわせた問題ができるのか、答申案をまとめた中教審の部会の議論は深まらないままでした。テストの回答方式については、センター試験のようなマークシートだけでなく、記述式も導入するとしていますが、全国で50万人を超えるセンター試験並の受験者がいる場合、迅速に正確な採点が本当に可能なのでしょうか。答申案は、将来的には一部の検定・資格試験で使われているコンピューターを利用して実施するCBT方式と呼ばれる試験を導入することを求めていますが、開発に向けた準備すら整っていないのが実情です。

そんな中で示された2020年度という開始目標。文部科学省は、2年後の2016年度には問題例を公表し、翌年度には本番と同じ形式で行うプレテストを実施するというスケジュールを示しましたが、中教審の委員からも「強行スケジュールではないか」という声が聞かれました。
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もう一つは、大学側の問題です。
答申案は、大学ごとに行う個別試験では、様々な物差しで学生を丁寧に多面的に評価することを求めました。ただ、アメリカの大学は、入試専門のスタッフがいて入学希望者と対話を繰り返して入学者を決めていますが、日本の大学には、このような体制は整っていません。志願者数が数万人という大学で、どこまでこうした入試ができるのか。個別入試の制度設計や適正な評価ができる人材をどう確保し、育成するか。合否の判定基準をどこまで透明化できるかも含め、何らかの支援がなければ多くの大学は戸惑うばかりです。
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何より避けなければならないのは、制度の切り替え時期に大学入試を迎える高校生たちが不利益を被ることがないようにすることです。日本の教育の行く末を見据えれば、改革は不可欠と言われても、高校生たちは、時期を選ぶことはできません。

文部科学省は、来月にも行われる答申を受けて、専門家による会議を設けて具体策を検討する予定です。拙速な議論で「大学入試を変えることで教育全体の改革につなげる」という理念を中途半端なものに終わらせないこと、その上で、迅速に結果を示して、保護者や子どもたちの中に不安や混乱が広がらないようにすること。文部科学省には、時間との闘いの中で2つの重い課題が課されることになります。


(西川龍一 解説委員)
 

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