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時論公論 「サンゴ密漁をどう食い止めるのか」

津屋 尚  解説委員

サンゴの密漁船とみられる中国漁船が小笠原諸島周辺に大挙して押し寄せ、貴重な漁業資源を損ない、地元の漁業者や島民に不安を与えています。中国漁船が小笠原の海に集まって来た背景には何があるのか、そして、こうした事態を食い止めるには何が必要なのか、今夜はこの問題について考えます。
 
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小笠原諸島と伊豆諸島周辺にサンゴの密漁船とみられる中国漁船が集まり始めたのは、2か月前の9月のことです。その後も数は増え続け、10月末には200隻を超えました。台風20号が通過したあと、数は減りましたが、今(11月13日現在)も100隻以上がとどまっています。
 
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これほど多くの中国漁船がやってきたのは、アカサンゴなどの「宝石サンゴ」があるからです。日本国内では、高知、沖縄、それに小笠原諸島などの沖合で許可を得た少数の漁船によるサンゴ漁が行われています。中国の富裕層の間で人気が高まっている影響で、日本国内の正規の取引価格も、10年前の10倍近くになっているといいます。
 
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宝石サンゴの成長は1年でわずか0、3ミリ太くなるだけで、一度とってしまうと、元の状態に戻るのに数十年、場合によっては百年以上かかります。日本の小型漁船はわずかな量しかサンゴをとりませんが、中国漁船は根こそぎとってしまいます。
 
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これに対して、海上保安庁は、複数の大型巡視船を派遣して対応しています。13日までに6隻を違法操業などの疑いで摘発しましたが、海上保安庁は漁船の摘発よりも、密漁そのものをさせないことに重点を置いています。サンゴの漁場の多くは日本の領海内にあるといわれていますから、中国漁船を領海に入れないようにしているのです。
中には、中国漁船をもっと厳しく取り締まるべきだという声もありますが、重要なのは、法治国家として冷静に対応することです。ただそれをするにしても、尖閣諸島への対応などで巡視船の運用はすでにギリギリの状態です。水産庁の取締船をあわせても船の数は足りていません。また、密漁を摘発した場合、島には裁判所や検察庁がないため、巡視船は司法手続きのためにわざわざ本土まで、摘発した漁船を曳航していかなければなりません。先月もこの対応で巡視船1隻が長期間、現場を離れざるをえませんでした。離島でも手続きを進められる態勢をとるなど司法の側にも柔軟な対応が求められます。
 
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また、国際法上の壁もあります。海岸線から12カイリまでが日本の主権が及ぶ「領海」、200カイリまでが外国船でも自由航行が認められる「EEZ・排他的経済水域」です。ただし、領海内でも、外国船には「無害通航権」があり、日本の平和や安全などを害さない限り、規制を受けず、領海を通ることができます。このため、中国漁船がその場を航行しているだけでは摘発は難しく、立件するには、操業の現場をおさえることが必要です。EEZだと、できることはさらに限られます。
それでも、他に取り締まる方法がないわけではありません。例えば「外国船舶航行法」という法律です。無害通航というのは本来、外国船が領海を“通過”していくことが前提ですから、中国漁船が日本の領海内にとどまったり、徘徊したりしている場合は、摘発することができます。海上保安庁は今後、この法律を適用しての取締りも検討していくとみられます。
 
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ところで、中国漁船はそもそもなぜ、小笠原諸島周辺に大挙してやってきたのでしょうか。一部の専門家の中には、尖閣諸島の領有権問題とのつながりを指摘する声もありますが、海上保安庁は、別の見方をしています。もともと沖縄近海で密漁をしていた中国漁船が“一獲千金”を狙って、小笠原諸島周辺に移動してきたと見ています。この見方を裏付けるように、去年3月、沖縄近海でサンゴの密漁をしていて逮捕された中国漁船の船長が、今年は小笠原諸島の沖合で密漁をしようとして再び逮捕されました。
小笠原はおよそ30年間、乱獲が行われておらず、サンゴの成長が進んでいるとみられますし、1回の漁で数十億円を稼いだという噂がインターネット経由で広がったことも数多くの中国漁船が小笠原に移動してきた一因とみられます。
沖縄の宮古島沖の海域ですが、以前からサンゴの密漁が横行していて、去年の秋には、中国のサンゴ漁船およそ200隻が確認されています。今回小笠原に集まった船が
200隻余りと 数が似通っているのは偶然ではなく、多くが同一の船の可能性があると政府関係者は話しています。そして今、新たな動きとして、小笠原にいた漁船の一部が再び沖縄近海に戻り始めているという情報もあります。
 
さて、中国政府はアカサンゴをパンダと同じ等級の希少動物に指定して保護の対象にしています。それなのになぜ、数多くの中国漁船が、沖縄近海でほとんど取り締まられることなく密漁を続けてこられたのでしょうか。そのからくりは、日中が結んでいる漁業協定にあります。
 
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外国漁船を取り締まる権限は本来、EEZ・排他的経済水域が属する国にあります。
しかし、中国は、東シナ海で日本が主張するEEZ、つまり「日中中間線」を認めていません。このため日中は、漁業協定を結び、青緑色の線で囲んだ水域内では、漁業活動については、相手国の漁船を取り締まらないことにしました。
問題なのは、日本のEEZと重なるエリアです。宮古島沖のサンゴの漁場もこの中にあります。協定により、ここでは中国漁船が密漁をしていても 日本の当局は取り締まることはできません。ここは、日本のEEZですから中国による取締りも認められず、実際、中国は取締りをしていません。結果としてここは、誰も中国漁船の密漁を取り締まらない「空白の海域」になっているのです。
 
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日本政府は、年内にも開かれる漁業協定に関する中国との定例協議の場でこの問題を取り上げたいとしています。日本政府には、早急に漁業協定を見直し、少なくともサンゴの密漁だけは日本の手で取り締まることが出来るよう中国側に強く働きかけてほしいと思います。
 
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サンゴの密漁を根絶するための課題は他にもあります。それは中国国内での取締りです。日本側はこれまで、中国漁船の船名や写真などを中国側に提供して取り締まりを求めてきました。
先週末、北京で行われた日中外相会談でも岸田外務大臣が中国側に速やかな対応を呼びかけ、これに対して王毅外相は「中国も真剣に対応している」と答えました。
しかし、船名を偽装するなどして摘発を逃れる漁船も後を絶たないほか、サンゴの密売には台湾の業者も関わっているという情報もあり、全体の構図の解明は容易ではなさそうです。そうはいっても、国家として禁じている行為を自国の漁船が公然と行っているというのでは、“大国中国”の国際的な評価を下げることになるでしょう。中国政府には、捜査と取締りを徹底し、サンゴの密漁船と密売組織を一掃してほしいと思います。

日中はこのほど初めて首脳会談を行い、前途は多難ながらも新たな一歩をしるしました。尖閣諸島の問題をはじめ様々な対立点がある中で、サンゴの密漁問題は、意見が一致する数少ないテーマの一つです。両国の協力で密漁の根絶を実現し、そのことが 
わずかでも関係改善につながることをあわせて期待したいと思います。
 
(津屋 尚 解説委員)

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