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時論公論 「APEC 日ロ首脳交渉 対話と課題」

石川 一洋 解説委員 / 岩田 明子  解説委員

来週のAPEC首脳会議で安倍総理大臣はロシアのプーチン大統領と首脳会談を行います。ウクライナ危機は北東アジアにも米ロ対立、中ロ接近という形で地政学的な変化を起こそうとしています。今回のAPEC首脳会議は日本、ロシア、アメリカ、中国、韓国と北東アジアの首脳が顔を揃えます。安倍政権はウクライナ危機の中で欧米との協調と首脳間の信頼関係に基づく日ロ関係の維持という二つの目的の間で苦慮してきました。きょうは政治担当の岩田委員とともにこれまでの首脳交渉の動きを分析しつつ、課題を考えてみます。

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●日ロ首脳交渉再開
石川)日ロ首脳交渉、安倍・プーチン両首脳の信頼関係を軸にこの秋の訪日で合意するなどソチ五輪までは順調に動いてきましたが、ウクライナ危機とともに中断しました。

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プーチン大統領は「安倍総理の言っていることとやっていることは正反対だ」という不満を口にするようになったといいます。
しかし最近、安倍プーチン首脳間の対話が復活しましたね。

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岩田)お互いに誕生日に電話をかけあったりして、9月以降は首脳同士の対話は復活し、ミラノでの短い首脳会談につながりました。
安倍総理は、ミラノで「困難な状況でも対話を続けていきたい。友情は変わらない。APECの際にはしっかり時間をとって、大統領の日本訪問や経済交流、平和条約交渉などについて話をしたい」と述べ、プーチン大統領も「北京でぜひ会いたい」と応じました。
プーチン大統領との信頼関係を再構築した上で、APECでの首脳会談で日ロ関係を動かす戦略を取りました。
 
●ウクライナ危機の中での対ロ関係4原則
石川)しかし日ロ関係全体では日本が対ロシア制裁を発動、ロシアも日本周辺での軍事演習や外交交渉を中断し、とても友好的とは言えない動きを見せています。
ただ日本も首脳交渉と対ロシア制裁の動きが交互に起きて、分かりにくい動きとなっていますね。

岩田)大きな要因の一つは、アメリカとロシアの対立にあります。
安倍総理は、日露関係の重要性を理解してもらうためにも、アメリカに対して日本の対ロ外交4原則を水面下で伝えていました。
こちらをご覧ください。

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(1)は日本が「力による現状変更は認めない」とするG7との一体性です、そして(2)は、欧米が制裁でロシアでのビジネスを失っているときに、日本が間隙をついて穴埋めすることはしないということです、(3)はロシアを追い詰めると中国を利することにもなるということで、ロシアと中国の二正面作戦を避けたいということだと思います、
そして(4)は平和条約を締結したい、というものですね。この4原則に安倍外交の躊躇と迷いも見てとれます。なかなか制裁に踏み切らない安倍総理に対してオバマ大統領が「日本は対ロシアへ制裁をためらっているのか。これはロシアとの関係というより同盟国との関係だ」と迫ったこともありました。
 
●中ロ接近と路線対立
石川)ポイントはここ北東アジアの戦略的な状況、中でも中ロ関係です。アメリカは中国にもロシア包囲網に協力する様に働きかけていますが、私は甘いと思う。
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欧米の金融制裁の結果、ロシアが資金の調達する先が中国しかなくなり、中国がロシアに猛烈に進出を始めています。
これまでロシアは中国との関係で、戦略的な資源には入れない、最先端の軍事技術は与えない、という制限を引いてきました。しかしこの制限を外し、潜水艦や、防空ミサイルシステム、さらにステルス戦闘機などの供与に踏み切る動きも見えます。
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ロシアが経済面や安全保障の面で中国に飲み込まれてしまうことは日本にとっても、アメリカにとっても好ましいことではありません。

岩田)中ロ関係ですが、安倍総理も、ロシアの孤立が中ロの接近を促し、北東アジアの安全保障環境を大きく変える可能性を懸念し、アメリカに指摘しています。ただ中ロの間にも利害の対立があり、ロシアにしてもバランスを取りたいと思うはずです。その点で日ロの戦略的一致点はあると見ています。
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石川)逆に言えば日本としてもバランスを取りたい。

岩田)日本の対ロシア外交を複雑にしているもう一つの要因は、日本国内にもあります。
日米同盟を基軸としつつ、ロシアなど他の国との関係をどのように進めるのか。安倍政権の中に路線対立にようなものがあるように思えます。
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石川)どういう考え方の違いでしょうか。

岩田)安倍総理は地球儀俯瞰外交と言っていますが、その意味は、日本が独自に様々な国との関係を強化し、総合的に様々な要因を分析するとともに、各国とのパワーバランスを巧みに計算して外交を進めるべきだという考え方です。
しかし外務省を中心に政府内には、同盟国アメリカの意向を最大限、尊重すべきだとする考え方も根強くあります。対話と制裁という複雑な動きの背景となっています。
 
●ウクライナ問題への対処
石川)そこで米ロ対立の根っこのウクライナ情勢です。ウクライナ東部では、ウクライナ政府と親ロシアの武装勢力は停戦で合意しています。しかし二日に親ロシア派が独自の選挙を強行し、再び対立が激しくなる恐れもあります。
安倍総理はウクライナ危機についてプーチン大統領にきちんと話しているのですか。

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岩田)力による現状変更は認めないという原則は曲げていません。
その上で安倍総理は、ミラノでプーチン大統領に対し「停戦合意の履行に向けて大統領の指導力に期待している。私もウクライナのポロシェンコ大統領に対して働きかけをする」と述べました。停戦合意が履行されてウクライナの事態が沈静化・安定化すれば、日本は対ロシア外交を展開しやすくなります。
 
●日ロ首脳会談の見通し
石川)さてAPECでの日ロ首脳会談ですが、ウクライナ情勢の現状はまだ非常に厳しく、米ロ関係がさらに悪化する恐れもあります。日ロの戦略的な関係というのは、よい時ばかりではなく、こうした危機の時にこそ活かされるべきでしょう。日本の懸念をプーチン大統領に伝え、米ロの橋渡しをすべきではないでしょうか。

岩田)一方、安倍総理は、米ロの板挟みの状態が変化する可能性もありうると見ています。アメリカの最優先課題が、イスラム国との戦いに変わりつつあるからです。この中でアメリカがロシアとの協力に価値があると判断すれば、対立が緩和されるかもしれません。
そのためプーチン大統領に対してもイスラム国への対応でアメリカに協力するよう促しています
 
石川)今はプーチン大統領が心を開けるG7の首脳は安倍総理だけです。プーチンオバマ両首脳の間を安倍総理が仲介することもできるはずです。

岩田)安倍総理はウクライナ東部の安定化に向けてプーチン大統領にも具体的な行動を取るよう求める見通しです。安倍総理はドイツのメルケル首相やウクライナのポロシェンコ大統領とも信頼関係があり、仲介する考えを伝えることもできるでしょう。

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石川)さてプーチン大統領も日ロ首脳会談を重視し、入念に準備しています。
極東シベリア開発への参加など経済協力を呼び掛けてくる。中国への依存が深まる中だけに、ロシアの日本への期待は強まっています。経済だけでなく安全保障つまりロシアの極東シベリアを安定させたい、東への展開の中で、日本と手を握り、バランスを取るという考え方です。訪日の時期を含め、日本はどの程度踏み込みますか。

岩田)年内の大統領訪日は準備も進んでいない上、消費税率の引き上げをめぐる議論などで時間を割かれることもあり、難しい見通しです。安倍総理は、首脳会談で、プーチン大統領に対し、さまざまな分野での日ロの対話の継続を伝えつつ、来年の早い時期の来日と平和条約交渉を再び軌道に乗せることを呼びかけることにしています。
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石川)最後に今後の対ロシア外交はどうあるべきですか

岩田)日露関係の進展は、首脳同士の信頼関係を構築することとリーダーの政治決断が、問題解決に向けた鍵になります。ロシアによるクリミア編入という、当初、安倍総理が想定していなかった問題が、両国の間に生まれましたが、国内政治も国際政治も「一寸先は闇」ということはつきものです。安倍総理が進めてきた地球儀俯瞰外交の成果を、日露関係にも活かす、つまり、ロシアと関係する国々との力関係を計算しながら、打開する道を見つけ出すことができるかどうかにかかっています。
 
石川)「戦略的な状況が厳しさを増す北東アジア」そこに米ロの対立、中ロの接近という要素が加わり、ますます荒波が高くなろうとしています。(北東アジアの首脳が一堂に会するAPEC首脳会議は安定を回復するための一歩とならなければなりません)。APECでの日ロ首脳会談が、日ロの対話の活性化とともに、ロシアと欧米の関係正常化のきっかけとなることを望みます。

(石川 一洋 解説委員 / 岩田 明子解説委員)

 

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