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時論公論 「高齢者の犯罪をなくすには」

寒川 由美子  解説委員

高齢化が急速に進む中で、高齢者が被害に巻き込まれる犯罪が多くなっていますが、高齢者が加害者となる犯罪も増えています。しかもその増え方は、高齢者の人口の増え方をはるかに上回るペースです。
犯行の動機や特徴からは、高齢者が誰にも頼れない孤立に陥って犯罪に手を出し、さらに高齢故に犯罪を繰り返すという実態が浮かび上がってきます。
今夜は犯罪の加害者という観点から高齢者の置かれた現状を見つめ、解決には何が必要か、考えます。
 
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日本の人口に占める65歳以上の人の割合は、ことし25.9%と過去最高で、4人に1人が高齢者となりました。
それとともに犯罪を起こす高齢者も増えています。
 
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殺人や窃盗などの刑法犯として検挙される高齢者は、去年は検挙者全体の17.6%と、平成元年の2.1%と比べて、およそ8倍に増えました。
この間、人口全体に占める高齢者の割合は2倍の伸びですから、それをはるかに上回るペースです。
検挙者の人数でも、平成元年と比べて4万人近く増加しました。
検挙者全体の人数は減っているのに、高齢者だけは一貫して増え続けているのです。

なぜ、高齢者の犯罪は増えているのか。
動機や特徴などからは、高齢者の「孤立」が犯罪の背景にあることが、みえてきます。
 
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殺人のケースでみてみます。
顕著な特徴は、高齢者では他の年齢層に比べて介護・看病疲れという動機が圧倒的に多い点です。ここに、周囲から支援を受けられない孤立の問題が潜んでいるのです。
ことしに入っても、高齢者による介護殺人は相次いでいます。
 
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北九州市で、88歳の夫が、寝たきりの79歳の妻の首を絞めて殺害した事件では、夫は介護サービスを利用したことがなく、一人で介護を続けていました。
事件の直前、いったん妻を老人ホームに入所させましたが、利用料が工面できないとして、すぐに引き取りました。そして、自分が倒れたら妻は生きていけないと思いつめ、手をかけたということです。

裁判所は判決の中で
「夫には介護について相談できる相手がいなかった。公的機関には孤立無援の介護者も利用しやすい支援の仕組み作りが求められる」と指摘しました。

高齢者が高齢者の介護を担う「老老介護」の割合は、去年、初めて51%と半数を超え、今後も増えることが見込まれます。
介護する側を含めた支援が充実していかない限り、こうした事件は、増える恐れすらあるのです。

一方、高齢者の犯罪で最も多いのは、万引きを中心とした窃盗です。
ここからも、孤立する高齢者の姿がうかがえます。
 
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窃盗で検挙された高齢者は去年、ついに少年を逆転しました。
万引きした品の8割は食料品ですが、生活に困ってという動機は、他の年齢層に比べて特段多くありません。
警視庁が、万引きした高齢者の調査を行った結果、「友人や相談相手が誰もいない」という人が
5割にのぼっていました。
警視庁では、高齢者の社会的な孤立が万引きの背景にあると分析していますが、これは他の犯罪にも言えることです。
殺人や強盗などで検挙された高齢者は、一般の高齢者に比べて一人暮らしの割合が高く、子どもとの接触がほとんどないという人も多くなっています。
誰にも見守られていないが故に犯罪に手を出す、あるいは犯罪者となったために家族や地域から見放される。そうした負のスパイラルが、垣間見えるのです。

さらに、孤立は犯罪を繰り返すことにもつながります。
刑務所を出た後、5年以内に再び刑務所に入る高齢者は70%にものぼっています。
高齢故に仕事や収入もなく、経済的に苦しくても誰にも頼れず、結局、犯罪を繰り返すという悪循環に陥ってしまうのです。
 
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では、犯罪に結びつく孤立を解消し、再犯を繰り返す悪循環を断ち切るのは、どうしていったらいいのでしょうか。

いま、国は、再犯を減らす取り組みに、力を入れ始めています。
刑務所を出た後、行き場がなく自立も難しい高齢者などは、年間1000人にのぼります。こうした人たちが刑務所を最後のよりどころとしている現状を変えない限り、犯罪がなくならないからです。
そこで、おととし全国に設けられたのが「地域生活 定着支援センター」です。
 
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刑務所から出た高齢者などを、福祉施設やグループホームにつなぐのが役割で、昨年度は600人の受け入れ先を見つけました。中には「初めて希望を持って社会に出られる」と話す人もいたということです。
しかし、福祉サービスを受けたことがない人の中には利用を拒否するケースもあり、服役中から制度をどう理解してもらうかが課題です。
また、再犯防止につながるか、効果の検証も必要です。
独自に検証を行った長崎の支援センターでは、支援した300人あまりのうち、再犯者は12人で、効果はあったとしていますが、全国でも同じように検証を行った上で、より効果的な支援につなげることが求められると思います。

ただ、これはあくまでも再犯という悪循環を断ち切る取り組みです。
そもそも高齢者を犯罪者にしないためには、何が必要か。
それには、犯罪者対策という観点からの取り組みだけではなく、福祉的な観点から、孤立を防ぐ対策が重要になってくると思います。

そのひとつが、福祉が本当に必要な人に行き渡るよう制度・組織を見直すことです。

今の福祉サービスは、複雑化する一方、手続きなどが縦割りで使い勝手が悪く、孤立している高齢者が、自ら声をあげて利用するのは容易ではないと専門家は指摘します。
そこで、例えば滋賀県では、介護や障害者支援など様々な分野にまたがる全県的なネットワークを立ち上げました。
 
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高齢者や障害者が困っているといった情報を誰かがつかんだら、それをネットワークで共有します。そして、老人福祉施設や民間団体、ケアマネージャーなどがそれぞれの立場から手をさしのべるのです。大事なのは、異変に気づくのが誰であっても、情報を共有することで必要な支援につなげるという点です。こうしたネットワークは全国にも例がないということですが、犯罪の兆しにいち早く気づき、防止につなげる観点からも、進めていってほしいと思います。

そのうえで、私たち一人一人に求められるのは、地域や社会で高齢者を見守ることだと思います。
福島県の老人クラブ連合会では、700人あまりの会員が万引き防止の活動をしています。
警察で研修を受けたうえで、地元のスーパーで声かけをしたり、一人暮らしの人を老人クラブの集まりに誘ったりしています。
震災後も地元に残った仲間による万引きを防ぎたいと、活動を始めて2年。
それまで増え続けていた万引きが、去年、県内全体で20%以上減りました。
 
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高齢者どうし同じ目線で支え合う姿勢が成果につながったのではないかといいます。
 
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他にも、新聞販売店や宅配業者などが連携して異変を察知する取り組みを行っている地域もあります。
こうした様々な取り組みによって、高齢者が加害者になるのを防ぐだけでなく、被害者になるのを防ぐこともできますし、子どもを守ることにもつながります。

高齢者を孤立させない地域や社会に変えていくこと。それが、今後ますます高齢化が進む日本で、高齢者を犯罪者にしない、そして誰もが安心して暮らせる社会につながっていくのだと思います。
 
(寒川由美子 解説委員)

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