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時論公論  「130兆円は誰のものか ~ 年金運用改革を問う」

竹田 忠  解説委員

これから取り上げるのは、130兆円という大金の話しです。
国家予算を上回る巨額のマネー。
これは、私たち国民が老後のために月々納めている年金の保険料、つまり、厚生年金と国民年金の保険料を積み立てたお金です。

この大切なお金を、政府は、今、株式投資にもっとまわそうとしています。
うまくいけばいいんですが、失敗すれば、老後の年金が減るおそれがあります。
一体大丈夫なんでしょうか?

また、もし運用を失敗した場合、誰がどう責任をとるのか、そもそも、責任のとりようがあるのか?
きょうはこの問題について考えます。

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【安倍総理大臣が世界に表明】
まず、この問題がなぜ、今、大きな課題となっているのか?といいますと、それは、安倍政権が、年金の株式投資に非常に積極的になっているからです。
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事実、安倍総理大臣は今年1月、スイスのダボスで行われた世界経済フォーラムに出席して、世界の著名な経済人を前に、こう述べました。
「日本の資産運用も、大きく変わるでしょう。1兆2000億ドルの運用資産をもつGPIF(これは年金積立金を管理している組織の名前で、この後何度もこの名前が出てきます)。そのポートフォリオ(資産割合)の見直しをして、成長への投資に、貢献」します。」
こう言っているわけです。


非常に明解な表現です。
つまり、年金積立金のお金をもっと投資にまわして、日本の経済を成長させたい!
そう、率直に表明しているわけです。

これを受けて
今年改訂された新成長戦略にはGPIFの「機動的運用を目指す」という文言が入り、年金積立金の運用改革が待ったなしの課題となったわけです。
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【貴重な積立金】
では、まず、この年金積立金とはどういうものか?
踏まえておきたいと思います。
まず、日本の年金制度は、一言でいえば今、大変厳しい環境の下にあります。
言うまでもなく、少子高齢化のことです。
というのも、日本の年金制度の仕組みは、今の若い人たちが払っている保険料がそのまま、今の高齢者の年金に使われる、という方式をとっています。
これを難しい言葉で「賦課(ふか)方式」と呼んでいます。
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例えば1970年の時点では、若い人8人余りの保険料で、一人の高齢者の年金を支えていました。
しかし、その後少子高齢化が進んで、支える側の若い人は減っていき、逆に、支えられる側の高齢者は増えていきました。
現在では、若い人3人足らずで一人の高齢者を支えるという構図になっています。
今後、少子高齢化は、さらに進みますので、大体、2050年ぐらいで、一人が一人を支える計算になります。
こうなると、支える側の若い人には大変な負担です。

そこで、大きな助けになるのが、この積立金の存在というわけです。
これまで余裕がある時に、保険料をためて作ったこの虎の子の130兆円を少しづつ取り崩して、若い人の負担だけでは足りない分を補おうというわけです。
つまり、年金制度をこれから少しでも長く維持していくためには、この積立金というものは無くてはならない、大変貴重なお金というわけです。
 
【どう見直すのか?】
その貴重な積立金を、管理・運用しているのが、さきほど安倍総理大臣の話しにあったGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)というわけです。
130兆円の年金マネーを運用する、世界最大級の機関投資家です。
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GPIFは、積立金を株や債券に、どれくらい投資するか、その比率をあらかじめ決めています。
この資産割合のことをポートフォリオといいます。

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具体的には、最もリスクが低いとされる国債を中心とした国内債券が60%、国内株式が12%、外国株式が12%などとなっています。
現在、この割合を見直すことが内部で議論されていまして、これまで、出ている議論としては、国内債券は半分以下に減らして、逆に、国内株式は20%程度に引き上げる、外国の株も増やす、といったことなどが議論されていると言われます。
 
【運用の課題は?】
では、これをどう見るべきなのか?
GPIFが株の比率を1%あげれば、それだけで、およそ1兆円のニューマネーが株式市場に流れ込みます。
国内株式への投資が増えれば、株価の上昇につながり、日本経済の活性化に役立つかもしれません。
しかし、損失が出て、積立金が減ってしまえば、その分、将来の年金が減ることになります。
もし、そうなった場合、誰が責任をとるんでしょうか?
というよりも、そもそも責任をとれる人がいるんでしょうか?
仮に、GPIFのトップや、政府の要人が、責任をとって辞めたり、給料が減らされたりしたとしても、それは、何の解決にもなりません。
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要するに、この130兆円は誰のものなのか?
言うまでもなく、これは国民のものです。
その国民の貴重な資産について、今よりもりスクのある運用をする、というのなら、まず、国民が、今よりも安心して資産をまかせられる仕組みを作るべきです。
 
【必要なのは GPIF改革】
つまり、今、急ぐべきは、運用比率の見直しではなく、それより前に、その運用をしている組織そのもの、つまりGPIFの独立性や信用性を高めることが必要、ということになります。
と言いますのも、今のGPIFという組織は、株や債券にどれくらい投資をするのか、という決定も、それからそれをどういう民間の運用会社にまかせるのか、という決定も基本的に、経営トップの理事長一人に権限が集中する仕組みになっています。
むろん、理事長のもとには、運用委員会という組織があります。
学識経験者や、マーケットに詳しい人が入っています。
しかし、委員は非常勤で、いわば社外取り締まり役のような立場です。
理事長からきかれたことに応えるという、あくまで諮問委員会という位置づけにすぎません。
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つまり、130兆円の権限と責任が、あくまで理事長一人に集中しているわけです。
今よりも、もっと運用のリスクが高まるというのなら、たとえば、日銀の政策委員会のように専門家が集まって理事会のような、権限と責任の明確な組織を作って、独立性の高い判断をすることが必要だと思います。
 
【将来世代にツケをまわすな】
そして最後に、もう一つ重要な点を指摘しておきたいと思います。
それは後の世代にツケをまわしてはいけない、ということです。
どういうことかといいますと、年金運用で損失が出て、積立金が減れば、結局、後の世代の年金が減ることになります。
冒頭、触れましたように、今の年金制度では、後の世代ほど、受け取る年金が実質的に目減りしていきます。
30年で2割ほど、価値が減る計算になります。
そこに、さらに、ずっと前の世代で起きた損失のツケを負わせることは、あまりに負担が重すぎます。

年金運用で損失が出れば、ただちに、今の高齢者が受けとっている年金から、伸びを抑えたり、減らしたり、という措置をとるか、今の若い人が納めている保険料を一時的に高くする、ということをして今の世代でおきた損失は、今の世代で処理するように努力すべきです。
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そんなことをしたら、大変なことになる!
ただでさえ、年金が少ない、保険料が高い、という不満があるのに、そんなことはできるわけがない!と思われるかもしれません。
しかし、ツケを回される将来世代は、もっと厳しい環境を強いられることになります。

これにはお手本があります。
たとえば、スウェーデンの年金制度には、自動的に損切りをする仕組みがあります。
現在の積立金などが想定を下回った場合は、政治の意思決定を介さずに、自動的に今の年金の給付水準を抑制する仕組みになっています。
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また、カナダの年金制度にも同じように、今の世代で損失を処理する仕組みがあるということです。

こうした海外の損失処理の仕組みについてリポートをまとめた日本総合研究所の 西沢和彦 上席主任研究員によりますと、
「リスクのある運用をする以上、損失が出た場合にどう処理をするのか、その仕組みを整備すべきだ。今の日本の年金制度は、リスク運用に耐える仕組みになっていない」と問題点を指摘しています。
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130兆円は巨額のマネーです。
しかし、実は、すでに、今、毎年、5兆円程度のお金を取り崩して、高齢者の年金にまわしています。
何の努力もしなければ積立金は数十年でなくなってしまいます。
大事な積立金を安全かつ効率的に運用して、後の世代にリレーをする。ツケの後回しはしない。
それが、我々の将来世代への責任ではないでしょうか?
政権に、そして私たち国民に、その覚悟はできているでしょうか?
 

(竹田 忠  解説委員)

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