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時論公論 「シリア空爆"オバマの苦悩"」

髙橋 祐介  解説委員

(前説)
「イスラム国」を名乗る過激派勢力に対し、アメリカ軍がイラクに続いてシリア国内でも限定的な空爆に踏み切ってから2週間あまり経ちました。国境を越えた軍事作戦の拡大は、どこまで効果を挙げることが出来るのでしょうか?今夜の「時論公論」は、これまでに浮かび上がってきた問題点をもとに、この戦いの行方を考えます。
 
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主な問題点はこちらの3つです。▼まず「“あいまいな”戦略」。過激派勢力の打倒に向けた戦略が必ずしも明確ではありません。▼ふたつ目は「“同床異夢”」。軍事作戦に参加するアメリカ以外の国々と、目標達成に向けた優先順位が違います。▼そして、「中東に“距離”をおくアメリカ」。オバマ政権は、過激派勢力を生み出したシリアの内戦に介入することには、なお“ためらい”を拭えずにいます。
 
(VTR シリア空爆映像)
アメリカ軍を中心とする「有志連合」は、イラク国内にとどまらず、これまでにシリア国内でも「イスラム国」が拠点とする北東部ラッカの周辺で複数の軍事施設を破壊し、過激派の主な資金源のひとつとなっていた東部の石油関連施設なども空爆しました。
 
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しかし、「イスラム国」の勢力は衰えないばかりか、むしろトルコとの国境に近いシリア北部では攻勢を強め、アメリカ軍と協力するクルド人勢力との間で連日、激しい戦闘が続いています。過激派勢力は、空爆開始の前よりも、少人数で夜間に拠点を移動するようになり、ときに攻撃を避けるため、民間人の中に紛れ込むことから、空爆の目標の選定も容易ではありません。やはり当初から懸念されていたとおり、アメリカがどんなに最新の兵器を駆使しても、空爆だけの軍事作戦には限界があるのは明らかです。
 
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しかし、オバマ大統領は、再三そうした指摘を受けても「地上部隊は派遣しない」という立場を一貫して崩していません。シリアへの限定的な空爆は支持しても、イラクやアフガニスタンのような長期にわたる地上戦は望まない。そうした意見が大勢を占めるいまのアメリカの国内世論があるからです。では、そうした「制約」をみずからに課しながら、オバマ大統領は何をめざして新たな戦いに踏み出したのでしょうか?
 
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それが第1の問題。目標達成に向けた戦略が必ずしも明確ではないのです。
 
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オバマ大統領は先月ニューヨークの国連総会で演説し、「アメリカは有志連合とともに、死のネットワークの壊滅に取り組む」と述べ、国際社会に協力を呼びかけました。
 
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その一方で、アメリカ政府は国連に書簡を送り、シリアでの軍事作戦を正当化する国際法上の根拠として、国連憲章に定められた「個別的、集団的自衛権の行使」をあげました。
過激派勢力がシリアを拠点にアメリカの同盟国である隣国イラクに攻撃を加えているとした上で、「シリアで新たな軍事作戦を始めたのは、イラクへの脅威を取り除くためだ」と説明したのです。
 
では、過激派勢力をイラクからシリア国内に押し戻すことに仮に成功すれば、目標は達成されたと言えるのでしょうか?答えは「ノー」です。「イスラム国」が海外からも多くの戦闘志願者を引きつけてきた根本的な原因が、シリアの内戦にある以上、少なくとも過激派勢力は“壊滅”には至らず、目標を達成できたとは言えないでしょう。
 
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イラク防衛のため、過激派勢力の攻勢に歯止めをかけることと、過激派の“壊滅”をめざしてシリア国内で軍事作戦を展開することは、いわば「似て非なるもの」。それゆえオバマ政権は、目標達成に向けた明確な戦略を描けずにいるのです。戦略が曖昧であるため、いわゆる「出口戦略」も描くことが出来ません。アメリカ政府の当局者自身が「何年かかるかわからない」と認めているように、今回の戦争には終わりの姿が一向に見えてこないのです。
 
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ふたつ目の問題は、アメリカが主導する軍事作戦に参加する国々も、それぞれ「別の目標」を持っていることです。「イスラム国」打倒という目指すところは同じでも、何を優先させるかで思わくが異なるという、いわば“同床異夢”とも言うべき状況が生まれているのです。

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先週シリアの隣国トルコが軍事作戦への参加を表明しました。空爆のためトルコ国内の基地使用を承認しただけではなく、エルドアン大統領は、シリア国内にトルコの地上部隊を派遣する可能性にも言及しています。
 
エルドアン政権が優先する目標は、シリアのアサド政権の打倒です。現に、これまでトルコは、シリア国内の反政府勢力を公然と後押ししてきました。このため、トルコは、アメリカの軍事作戦に協力はしても、そこで生まれる「力の空白」が、アサド政権によって埋められることは断じて許さないでしょう。その一方で、いまシリアでアメリカとともに「イスラム国」と戦っているクルド人勢力についても、トルコはみずからの国内で分離独立運動を刺激しかねない「危険な存在」とみなしています。「イスラム国」打倒をめざすアメリカと、アサド政権打倒を優先するトルコとは、目標達成のための協力相手も違うのです。
 
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すでに空爆に参加しているアラブ5か国も同様です。とりわけ湾岸アラブ諸国もまた、アサド政権を打倒するため、これまでシリアの反政府勢力を支援してきました。アメリカとは思わくが違います。
 
しかも、アメリカの多くの専門家は、こうしたアラブの君主国が、みずからの国内で民主化を求める声を力によって抑えつけてきたことこそが、「イスラム国」のような過激な思想を生む背景にあると指摘します。いま過激派勢力の外国人戦闘員として、欧米から、そして最近は日本からも若者が加わっていることが強く懸念されていますが、そのほかのかなりの部分は、こうしたシリア近隣のスンニ派アラブ諸国から来ているというのです。
 
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では、オバマ政権はどのように事態の収拾をはかっていくのでしょうか?その中東政策が積極的な介入をためらってきたことが3番目の問題です。

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4年近く前、チュニジアから始まった民衆の蜂起、いわゆる「アラブの春」は、エジプトをはじめ、この地域の強権的な長期政権を相次いで倒しました。しかし、その後の混乱は続き、リビアは今も国家の呈をなさないほど混乱し、シリアは血で血を洗う激しい内戦の場に変わり果てました。
 
オバマ大統領は、情勢の悪化に手を拱いたまま、対応が後手にまわり、迷走をくり返してきました。この3年あまりに及ぶシリアの内戦で、実に19万人を超える命が失われ、人道危機が再三にわたり叫ばれても、そうした態度が変わることはありませんでした。それは、あのイラク戦争をきっかけに、混乱の原因のひとつをつくったアメリカ自身が、これまでの中東の秩序崩壊に“距離”を置き続けてきたからに他なりません。オバマ大統領は去年、シリア情勢をめぐり介入をためらう苦悩の末、「アメリカは世界の警察官ではない」と言い切りました。
 
そして今、アメリカが眼をそむけようとした混乱の中から「イスラム国」を名乗る過激派勢力が生まれ、中東と世界の国々に、はかり知れない脅威を及ぼそうとしています。オバマ大統領も最近、アメリカメディアのインタビューで、そうした過激派勢力の脅威を「過小評価」していたことを率直に認めています。
 
オバマ大統領が足を踏み入れた今回の戦いの行方は、中東に秩序と安定を取り戻すため、アメリカが、みずからに課す役割を改めて問い直すことが出来るかどうかにかかっています。そこに見出す「巨大な力」の自画像こそが、世界に広がるほかの様々な危機に、今後アメリカがどのように向き合っていくのかを示すことになるのかも知れません。
 
(髙橋祐介 解説委員)
 

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