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時論公論 「香港民主化デモの衝撃」

加藤 青延  解説委員

(VTR:抗議運動)
香港の中心部で続く学生たちの抗議運動。3年後に迫った香港のトップ、行政長官の選挙をめぐって、中国が、民主派の立候補を事実上閉めだす制度を決めたことに、香港の学生たちの怒りが爆発したのです。
 
今晩は。香港では、学生や市民が、市の中心部を占拠する大規模な抗議運動を始めて、1週間余りになりました。抗議デモの規模はいくらか縮小し落ち着いてきたように見えますが、香港当局は、学生たちの要求をかたくなに拒否し、事態はこう着状態に陥っています。
そこで、今夜は、いったいどうしてこのようなことになったのか。そして、香港は今後、どうなってしまうのかについて、考えてみたいと思います。
 
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香港の人々にとって、自分たちのトップを自分たちの手で選ぶということは、これまで、一度も果たしたことがない、長年来の大きな夢でありました。
 
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19世紀半ば以降、香港はイギリスの植民地でしたが、行政のトップ総督は、すべてイギリス政府の指名で決まり、香港の大多数の市民は、政治とは無縁の生活を送ってきました。
ただ一点、香港の人たちの救いになったのは、中国共産党を批判してもかまわない、言論の自由が、香港にはあったことです。
 
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ところが、香港が17年前の1997年に中国に返還されることが決まると、香港の人たちの間に、動揺が広がりました。香港の人々の多くが、中国共産党の支配を嫌って、中国内地から逃れてきた人たちだったからです。そこで、イギリスは、返還直前ぎりぎりになって、行政のトップや議会を、なんとか香港の人たちが選挙で選べるようにできないかと、にわか仕立ての民主化を画策したのです。私はそれが、香港の人たちが、民主主義というものを強く意識することになった一つのきっかけになったと思います。
 
中国への返還後、中国中央政府と香港は、はたしてうまくやってゆけるのか、これは、誰もが注目する難題でありました。その解決方法こそが、中国の当時の最高実力者、鄧小平氏らが打ち出した「二つのキーワード」に象徴される独創的なアイディアでした。
 
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一つは、「1国2制度」。そしてもう一つが、「香港の人が香港を統治する」という意味の「港人治港」です。
しかし、この言葉を、どう解釈するかで、中国政府と民主化を求める香港の人々との間には、大きな思惑の違いがあり、その矛盾や立場の違いが、歳月を経るごとに、より鮮明化してきたことが、今回の大規模な抗議行動の背景にあると言えるでしょう。
では、その矛盾とは一体どのようなものでしょうか。
 
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まず一つ目は、一国二制度という考え方。つまり、同じ中国の中に、中国共産党が指導する内地の一党支配体制と、中国共産党が統治に直接かかわらない香港の資本主義体制を、同時に共存させるというユニークなものでした。
 
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これを、民主化を求める香港の人たちは、行政長官の直接選挙実現など民主主義発展のよりどころになると考えました。ところが、中国自体の考えは、だいぶ違うものでした。
 
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共存させる二つの制度とは、香港に完全な政治の民主化を保障する意味ではなく自由放任の資本主義など異なる経済制度を認めるということだととらえたのです。
 
中国の指導部の中には、イギリス統治時代に、香港の統治権は完全にイギリスが握っていたのだから、返還後は、中国が、香港の統治に大きな影響力を及ぼすのは当然との考えもあったと考えられます。むしろ、中央政府に反抗する政治体制を香港に築くことなど絶対認めないというのが本音だったのではないでしょうか。
その意味では、もうひとつのキーワード、「香港の人が香港の統治をする」という意味の「港人治港」も、同じような同床異夢の状態で、とらえられてきたのではないかと思います。
 
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民主化を求める香港の人々にすれば、この言葉こそ、香港の人々の手による高度な自治を保障する言葉であるといえます。つまり、香港のトップ行政長官は、香港の人たちが自由に選ぶべきであり、中国共産党があれこれ干渉することは、この精神に反していることになります。
一方、中国側は、香港を統治するのは、北京から派遣された人物ではなく、あくまで地元香港の出身者であればよいのであって、中国共産党の意向に従う香港の人をトップに据えても、「港人治港」の原則に反することにはならないと考えてきたのです。
 
このように、双方の思惑には大きな違いを残したまま、香港の行政長官は、これまで3回交代しました。
 
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これまで歴代の行政長官は、業界別の団体などから選ばれた人たちが、選挙委員として候補者を推薦し、それを選挙委員の全体の集まりである選挙委員会で選出するという、不完全な間接選挙で選ばれてきました。最初のころは、対抗馬がいない信任投票、最近は、複数の立候補者が争う形になりましたが、大多数の香港市民は、関わることもままなりませんでした。このため、香港の中には行政長官の直接選挙を求める声が年々高まってきたのです。
 
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その結果、3年後の行政長官の選挙からは、香港の18歳以上の有権者が直接投票で選べることになりました。ただ、肝心の立候補者については、中国との結びつきを深める業界団体代表などで構成する指名委員会のメンバーが推薦し、しかも指名委員の半数以上の支持が必要だという制限が課せられ、中国共産党にとって都合の悪い人物は立候補者から排除できる、いわば「不完全な直接選挙」という形にとどまったのです。
 
このため、「完全な直接選挙」を訴えてきた香港の民主派市民や学生たちは、ついに堪忍袋の緒が切れてしまい、大規模な抗議運動に打って出るという今回の事態になったのです。
では、中国共産党の指導部はこうした動きをどう見ているのでしょうか。私は、もっとも衝撃を受けているのは、香港の行政当局というよりは、むしろ、北京。つまり中国共産党の最高指導部ではないかと思います。
 
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香港の抗議運動が、内地にも燃え広がり、中国各地で共産党の支配に異を唱える声がたかまるのではないか。中国指導部は、そのような危機感を抱いているのではないでしょうか。だからこそ、中国当局は、香港の動きを伝えるニュースや情報が国内に流れ込むことをかたくなに遮断し、また、内地で活動する人権運動家や民主化運動のリーダーの身柄を拘束したり、監視下に置いたりするなど、締め付けを強めているのでしょう。
 
とはいえ、香港でも同じように、抗議運動を力で抑え込むことができるでしょうか。
私は、それができないジレンマに、中国指導部は一番いら立っているのではないかと思います。
 
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▼つまり、香港で中国共産党が強権を発動すれば、香港と内地とを切り離して特別扱いしてきた、「一国二制度」の根幹を崩壊させてしまうことになりかねないからです。
▼それに、25年前北京で民主化運動を武力弾圧した、あの天安門事件の悪夢を、再び内外の人々の心に蘇らせ、中国は、来月北京で開かれるAPEC首脳会議で、非難の矢面に立つことになるでしょう。
▼さらに、台湾にも計り知れないインパクトを与えることになります。中国は「一国二制度」の形で台湾の統一をめざそうとしていますが、香港で手荒な事をすれば、台湾の人たちは、ますます中国に強い疑念を抱くことになるでしょう。
 
では、どうしたら良いのか、私は、今回示された制度のもとで、なお民主派といわれる人たちの立候補ができるように何らかの工夫をすることが現実的な解決方法ではないかと思います。香港はかつて、「金の卵を産む鶏」といわれてきました。中国の最高指導部や、香港の行政当局の指導者は、その鶏を絞め殺すのではなく、いかにして生かすか。そしてその恩恵を受け続けるか。学生たちともあせらず、じっくりと話し合いをすることで、開かれた香港のよさを守り続けてほしいと思います。
 
(加藤青延 解説委員)

 

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