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時論公論 「子どもを犯罪から守るには ~現場から読み解く~」

寒川 由美子  解説委員

こんばんは、時論公論です。
神戸市長田区で小学1年生の女の子が遺体で見つかった事件から1週間。
逮捕された47歳の男は黙秘を続け、事件の詳しいいきさつはまだ分かっていません。
ただ、男の不審な行動や生い立ちにばかり焦点が当たることについて、専門家は「それでは事件は防げない」と警鐘を鳴らします。
今夜は事件現場から、犯罪が起きる「場」に着目してリスクを読み解き、子どもが巻き込まれる事件を防ぐにはどうすればよいのか考えます。
 
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死体遺棄の疑いで男が逮捕された翌日の先週木曜日、私は現場周辺を取材してきました。
 
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亡くなった女の子が通っていた小学校、家、目撃された地点、さらに容疑者の自宅や、遺体が見つかった雑木林は、半径300メートルほどの狭い範囲にあります。
男がどこで女の子と接触したのかはわかっていませんが、逮捕された後になって、以前からの不審な行動の目撃情報が、相次いで出てきました。
また、この地域では以前からボランティアによる見守り活動が熱心に行われていました。
 
不審者の情報があり、地域パトロールが行われていながら、なぜ、犯罪を防げないのか。
 
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実は、警察が、去年起きた子どもの連れ去り事件を分析したところ、午後2時から6時までの下校時間帯に最も多く発生していました。
発生場所では道路上が最も多くなっています。集団下校や地域パトロールが行われていても、自宅近くではどうしても子どもが一人になりがちです。日中の明るい時間帯、子どもも保護者も警戒心が薄い中での連れ去りが多いのです。
 
また、犯罪者は巧妙にこどもに近づきます。
 
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今年1月、札幌市で小学生の女の子が連れ去られ、無事保護された事件では、逮捕された男は警察官を装って近づいていました。また1月と7月に神奈川県と岡山県で起きた同様の事件では、犯人は子どもをナイフで脅して車に連れ込んでいました。このようにだましたり脅したりして近づく犯罪者に対し、「不審者に気をつけろ」と子どもに教えても無理があります。大声を上げたり防犯ブザーを鳴らしたりするのは難しく、周囲は異変に気づけません。
 
さらに、今回の事件では、亡くなった女の子の友達もその保護者も、逮捕された男のことを「見たことがない」と話しています。不審者に気づかないこともあるのです。
不審者への警戒や地域での見守りに限界がある以上、どうすればよいのか。
 
犯罪学が専門の小宮信夫さんは、過去の事件の分析から、犯罪者が行動を起こしやすい「場」に着目し、それを見抜くことで犯罪を防ぐ取り組みを提唱しています。
 
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危険な場を示すキーワードは、誰もが「入りやすく」、誰からも「見えにくい」こと。今回の事件現場周辺を一緒に歩き、各地にも共通するリスクを読み解きました。
 
現場周辺は、車の通行や人通りも多い住宅街で、犬の散歩をする人や子どもの遊ぶ姿もあって、小さな子ども一人でも特に危険を感じさせない印象です。
 
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小宮さんがまず着目したのは、幅3メートルほどの細い路地です。片側はコンクリート塀、片側は住宅の壁に囲まれ、子どもが危険にさらされても見えにくい、トンネルのような構造です。
塀に落書きが放置されていることも、犯罪者の心理からすると、人に見られにくい、「見えにくい」場所だと指摘します。
こうした構造は、季節によって出現することもあります。
札幌市の連れ去り事件の現場は、冬、除雪によって道路脇に高い雪の壁ができ、見通しが悪い状態でした。
 
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駐車場も、入口にロープなどが張られていないと入りやすく、車で連れ去ろうとする犯人にとって格好の待ち伏せ場所になると指摘します。
入口にチェーンなどを張ることで、入りにくい構造になるほか、防犯カメラをつければ見えやすいということになります。
 
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女の子が最後に目撃された地点に近い公園です。当時は草が生い茂り、見通しが悪かったと言います。草刈りなどの手入れを誰もしていないと、周囲が無関心で見られにくいと犯罪者は感じるといいます。
 
では、危険な場所がわかったら、どうすれば犯罪を防げるのか。
まずは、「場」の危険を子どもに教えること。もう一つは、危険を取り除き、安全な場所に変えることです。
 
小宮さんは、「地域安全マップ」作りを提唱していますが、地図を作ることが目的なのではなく、子どもが実際に地域を歩くことで、風景から危険を読み解く力をつけさせることが大事だといいます。
 
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子どもを守るため、どうしても不審者情報を重視しがちですが、先ほども言いましたように、だましたり脅したりして子どもに近づく犯罪者には対抗できませんし、見逃すこともあります。
 
家庭や学校では、子どもに危険を見抜く力をつけさせ、危険な場所には近づかない、あるいは一人では行かない、やむを得ない場合は十分に警戒することを教えることが重要だと思います。
 
危険を取り除く、つまり「入りにくく」「見えやすい」場所に変えることは、地域で出来ることです。
 
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例えば、入口をロープでふさぐ、公園は子どもと大人で使えるスペースを分けるといった対策のほか、パトロールをする、防犯の旗を立てるといった対策でも入りにくくなります。
 
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また、木の伐採や草刈りをする、防犯カメラを設置する、といったことで物理的に見えやすくなるほか、ゴミを散乱させない、落書きを放置しない、あいさつ運動をするといったことで、大人が目を光らせている、無関心ではないというサインになります。犯罪者にとっては心理的に見られている、見えやすい空間となり、犯行を思いとどまらせることもできるのです。
 
ただ、こうした対策を地域の住民だけで進めるのは限界もあります。
高齢化で、パトロールする人が集まらない地域もあるでしょう。
費用や法的な面からは、行政が主導する必要がありますし、防犯カメラの設置を企業に働きかけるとか、ボランティアを支援するといったことも行政の役割です。
 
さらに、リスクが高い場所や条件を把握するうえでは警察の力が欠かせません。
子どもに関係のない、ひったくりのような犯罪が多発した場合にも、犯罪が起きやすい場になっていると、とらえることができます。
警察は、事件の発生場所を「道路上」「駐車場」などと分類していますが、その道路や駐車場がどういう状態にあったのか、犯行につながりやすい条件はなかったか、などを詳細に分析する。そして情報を積極的に地域や学校などと共有し、効果的なパトロールなどにつなげてほしいと思います。
 
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このように、家庭や学校、地域、行政、警察、それぞれに役割があり、どれ一つが抜けても子どもを守ることは出来ません。
互いに連携し、補完し合うという観点から、身の回りをもう一度見直し、大人が目を光らせているというサインを出すことが、子どもを守る上で大事だと思います。
 
さらに、社会の意識そのものを変えていく必要があるかもしれません。
海外に目を向ければ、例えばアメリカなどでは小さな子どもが一人で出歩くことは考えにくいといいます。
もちろん治安が悪いという面もあると思いますが、職場と自宅が近いとか、父親が子育てに参加するなどの理由で、子どもを送迎しやすい環境にある、ともいえます。
働き方、男女の育児への参加の仕方といった、根本的な部分から一つ一つ社会の意識を変えていく、それが、子どもを守ることにつながるのだと思います。
 
(寒川由美子 解説委員)
 

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