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時論公論 「御嶽山噴火 ~なぜ大きな被害に~」

二宮 徹  解説委員

こんばんは。時論公論です。
噴火から4日目になりました。
これほど多くの人が被害に遭った火山災害は、大規模な火砕流で報道や消防の関係者など、
43人が犠牲になった平成3年の雲仙普賢岳以来です。登山者が巻き込まれた噴火としては、
明治以降、最悪の火山災害です。
なぜ大きな被害になったのか、予測することはできなかったのかなどについて、検証します。
 
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多くの人が被害に遭った理由の一つは、突然の噴火だったからです。もう一つは、大勢の登山者が山頂付近にいたためです。
噴火直後に登山者が撮影した映像を見ると、突然噴煙が湧き上がり、あっという間に巻き込まれた様子がわかります。
山小屋には噴石の当たる音が響き、大きな石は屋根を突き破って落ちてきました。山頂付近は標高が高いため、高い木はありません。雨のように降り注ぐ噴石から身を隠す場所もなく、多くの人が死を覚悟するほどでした。
 
噴火した時、山頂付近には数百人の登山者がいたと見られています。場所、時期、時間帯など、すべてが最悪のタイミングでした。
 
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御嶽山は日本百名山の一つで人気の高い山です。富士山のように一つの山がそびえたつ独立峰なので、四方に山々を見渡せます。標高は3067メートルありますが、2100メートルあまりまで、バスやロープウェーで行くことができます。
日帰りでの登山も可能で、標高の割に、初心者でも比較的登りやすいことも人気を集める理由になっています。
 
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噴火が起きたのは土曜日。中腹は紅葉の最盛期で、特に登山者が多い時期でした。
そして、噴火したのは昼前、11時52分ごろ。ちょうど山頂にいる人が最も多い時間帯でした。
朝、ふもとを出発し、昼前後に頂上に着いて、昼食を食べるという行程を組んでいた人が多かったと見られます。
目の前で噴火が起きたら、確実に助かる方法はありません。噴火が、冬や夜だったら、または平日や雨の日だったら、これほどの人はおらず、被害ははるかに小さかったと思います。

今回、気象庁や専門家は噴火を予知することができませんでした。
実は、その最大の理由は、火山学上、噴火の規模が小さかったからです。専門家や防災機関などで作る火山噴火予知連絡会は「小規模な噴火だったが、山頂付近に多くの人がいたため、被害が大きくなった」と分析しています。
 
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噴火には3種類あります。一つは、マグマだまりの熱で地下水が熱せられて起きる「水蒸気噴火」です。今回は「水蒸気噴火」でした。
一方、「マグマ噴火」は、マグマそのものが激しく噴き出し、溶岩流や高温の火砕流も起こします。
平成3年の長崎県の雲仙普賢岳、昭和61年の伊豆大島の噴火などのように、規模も大きく、長期間続くことがあります。
もう一つは、この中間にあたる「マグマ水蒸気噴火」です。
噴火の予知に有効なのは、このマグマだまりや上がってくるマグマの動きを見極めることです。マグマが上がると、火山性の地震が増えたり、山が少しだけ膨らんだりします。それに、マグマが岩盤の割れ目に入り込むと、火山性の微動が増えます。
ところが、今回は、山が膨らむなどの地殻変動は観測されませんでした。マグマがそれほど上昇しないまま起きる水蒸気噴火は、地殻変動や火山性微動が起きないこともあり、兆候を確実にとらえられるほど研究が進んでいない、予知は難しいといいます。
 
直前まで地殻変動や火山性微動がなくても、もう一つの判断材料である火山性地震は1か月前から起きていました。予知に生かすことはできなかったのでしょうか。
 
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今月10日には52回、11日は85回観測しました。ただ、その後は減って、噴火の前の日は6回、当日も直前の11時40分までは6回しか起きていませんでした。
しかも、火山性微動が始まったのは11時41分で、噴火のわずか11分前でした。
ただ、この11日の85回というのは、前回噴火した7年前以来の多さでした。
気象庁や専門家は、地殻変動がなかったので、噴火はすぐには起きないと判断しましたが、
この85回というのは、結果的には噴火の兆候と呼べる数少ない変化でした。
  
地震の増加を噴火の兆候と判断しなかった理由は、過去の噴火では、よりわかりやすい兆候が見られていたからです。
 
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御嶽山はこの35年間に4回、水蒸気噴火が起きています。昭和54年10月に起きた中規模の噴火の際は、まだ観測態勢が整っていませんでした。平成3年のごく小規模な噴火では、噴火の2週間以上前から、地震や微動がありました。平成19年のごく小規模な噴火でも、地震や微動が2か月以上前から増えていたほか、地殻変動も観測されていました。
つまり、過去2回は、今回よりさらに規模が小さかったにもかかわらず、だいぶ前から、微動や地殻変動といった兆候があったのです。今回は、地震はあったものの、地殻変動はなく、微動も直前でした。
これまでのデータが裏目に出た形になりました。
 
突然の噴火で登山者などに大きな被害が出るのを防ぐには、地震が増えたら、山に入ることを規制するという方法があります。ところが、たいていの火山は、地震が増えても噴火しないということがよくあります。このため、今回のような被害を防げるかもしれない一方で、何か月も入山を規制したものの、結局噴火しないということが多くなると予想されます。
日本の火山は、登山や温泉が観光などの産業と密接に関わる地域が多く、長い期間、規制をすることが難しい山があります。
 
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現在、全国で110の火山が「活火山」と認定されています。このうち47は、気象庁などが24時間、監視している常時観測火山です。今後100年程度の間に噴火し、周辺の住民などに被害が出るおそれがあるとされます。 御嶽山や富士山など、登山者に人気なだけでなく、温泉やスキーなどの名所になっているところが数多くあります。
 
今回の噴火は、火山は目の前で噴火することがあるという、恐ろしい現実を突きつけました。今後、火山に登る人は、ヘルメットや防塵マスクを持っていくことを真剣に考える必要が出た、しかも、それさえも役に立たないかもしれないという覚悟までも求める災害になったと思います。
 
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火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長は、おとといの記者会見で、「水蒸気噴火を事前に明確に把握することは困難で、学問の限界だ」と述べたうえで、「地盤の変化を調べる傾斜計が1つしかなく、地震計も適切に配置されているとは言い難い」として、観測体制の充実を求めました。
 
これまでの火山防災は、周辺の住民への被害を防ぐことに重点が置かれてきました。しかし、火口付近に登山者や観光客が集まる火山は、御嶽山以外にもたくさんあり、最近は中高年を中心に登山や山歩きを楽しむ人も増えています。
今回のような被害をなくすには、もっと登山者や観光客の安全も考える必要があります。
例えば、いざという時に安全を確保できるよう、シェルターのような頑丈な小屋を建てたり、
たとえ10分前でも登山者に避難や警戒を呼びかけられるシステムを作ったりするなど、事前の予知ができないということを前提に、法律や予算を含め、踏み込んだ対策を進めてほしいと思います。
 
御嶽山は、かつては死火山とされていましたが、昭和54年に噴火したことで、火山の定義が見直され、死火山や休火山という言葉を使わなくなるきっかけになりました。
今回の噴火は、それ以上に、火山防災を抜本的に見直す機会にすべきだと思います。
 
(二宮 徹 解説委員)

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